承知いたしました。エフェクチュエーション(Effectuation)について、コーゼーション(Causation)との対比と、5つの原則のより深い意味に焦点を当てて深堀りします。


🔍 エフェクチュエーションとコーゼーションの対比

エフェクチュエーションを理解する上で最も重要なのは、従来の経営戦略や意思決定の考え方である**コーゼーション(因果論)**との違いです。

特徴エフェクチュエーション (Effectuation: 実行論)コーゼーション (Causation: 因果論)
アプローチ手段起点(手持ちの資源から始める)目標起点(最終目標から逆算する)
未来への姿勢未来を創造する(コントロール可能)未来を予測する(予測・計画が中心)
環境認識不確実性が高い状況(新規事業、イノベーション)比較的安定している状況(既存事業の最適化)
問うことこの手段で何ができるか?この目標を達成するには何が必要か?
リスク許容可能な損失を限定する期待されるリターンを最大化する

【Image of Effectuation vs Causation diagram】

1. コーゼーション(Causation:因果論)

これは、シェフがレシピに基づいて料理を作るイメージです。

「この料理(目標)を作るためには、この材料(手段)をこの手順(計画)で揃えなければならない」というように、最終的な目標から逆算して、最適な手段とプロセスを決定し、実行します。予測可能性が高く、効率性や最適化が求められる既存事業の改善などに適しています。

2. エフェクチュエーション(Effectuation:実行論)

これは、シェフが冷蔵庫にある残り物を見て料理を作るイメージです。

「今、この食材(手段)があるから、これを使って何か美味しいもの(目標)が作れないか?」と考えます。市場や未来が不確実で予測が難しい新規事業やイノベーションの創造に特に有効なアプローチです。手持ちの資源を基盤とするため、迅速に行動を開始でき、学習と修正を繰り返しながらゴールを形作っていきます。


🚀 5つの原則の深い意味

エフェクチュエーションの5原則は、起業家が「手中の鳥」である手段をいかに活用し、不確実性に対応するかを示しています。

1. 手中の鳥の原則(Bird in Hand Principle)

  • 手段の特定: エフェクチュエーションの出発点となる手段は、以下の3つです。
    1. Who I am (私は誰か): 個性、強み、才能、価値観。
    2. What I know (何を知っているか): 専門知識、スキル、経験。
    3. Who I know (誰を知っているか): 人脈、ネットワーク。
  • 意味: 優れた起業家は、まず自己資源を棚卸しし、「今の自分にできること」から始めます。外部環境の分析や市場調査に時間をかけるよりも、コントロール可能な自分の資源をすぐに活かすことを優先します。

2. 許容可能な損失の原則(Affordable Loss Principle)

  • 意味: 投資対効果(ROI)を追求するのではなく、「もしこの試みが失敗したとして、自分が経済的・時間的に失っても大丈夫な上限はどこまでか」を考え、それを基準に行動の規模を決定します。この考え方により、心理的なプレッシャーが軽減され、大胆な一歩を踏み出しやすくなります。

3. クレイジーキルトの原則(Crazy-Quilt Principle)

  • 意味: 多様な色や形をした布(ステークホルダー)を縫い合わせて、ユニークなキルト(事業)を作るイメージです。
    • 初期段階で完璧な契約を結ぶのではなく、**協力者(顧客、サプライヤー、競合他社など)**を次々と巻き込み、彼らのコミットメントを得ることで、事業の方向性を共同で形作っていきます。
    • このプロセスを通じて、事業が失敗した際のリスクを分散し、また、協力者との関係自体が新しい市場の機会を生み出します。

4. レモネードの原則(Lemonade Principle)

  • 意味: 「レモンを渡されたら、レモネードを作れ」という言葉が由来です。
    • 計画通りにいかない**「サプライズ」や「予期せぬ失敗」**を、単なる障害ではなく、新たな価値創造のヒントとして活用します。
    • 例えば、3M社の「ポスト・イット」は、強力な接着剤開発の「失敗作」であった、粘着力の弱い接着剤を、別の用途(付箋)に活用したことで誕生しました。これは、予期せぬ結果を手段として捉え直したエフェクチュエーション的な成功事例です。

5. 飛行機の中のパイロットの原則(Pilot-in-the-plane Principle)

  • 意味: 外部の環境(天候や気流)はコントロールできませんが、パイロット(起業家)は操縦桿(行動)を握り、自分の航路を調整することができます
    • 未来を予測して準備するのではなく、自分がコントロール可能な行動に集中し、一つ一つの行動の積み重ねによって未来を自ら創造していくという、エフェクチュエーション全体の根幹となる考え方です。