はじめに:久米宏が問いかける「人生で一番大事なこと」
このガイドは、伝説的なニュースキャスターである久米宏さんが、自身のエッセイの中で探求した「人生で一番大事なことは何か」という大きな問いへの答えをまとめたものです。この要約は、特にこれから自分の人生を歩み始める学生のみなさんが、久米さんの深い洞察とウィットに富んだ人生哲学の核心を理解するための一助となることを目的としています。
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1. 中心的な思想:「疑うこと」のすすめ
久米さんが「人生で一番大事なこと」として掲げた核心的な思想、それは「疑うこと」です。
これは単に物事を否定的に捉えることではありません。久米さんの言う「疑う」とは、「常識とされていることを、自分の頭でもう一度考え直してみる姿勢」を指します。彼がこの考えに至った背景には、主に2つの経験があります。
- ニュースキャスターとしての経験: テレビで伝えられる「事実」は、絶対的な真実ではありません。それはあくまで「ある視点から見た事実」に過ぎない、という気づきです。彼は、視聴者に対して「テレビが言うことを鵜呑みにしないでほしい」というメッセージを送り続け、「久米が言ってることも怪しいぞ」と思ってほしかったと語っています。
- 「正解」を求める社会への違和感: 日本の学校教育や社会全体が、すぐに一つの「正解」を求めてしまう傾向にあります。しかし久米さんによれば、人生において「正解」などほとんどありません。彼が最も大事だと考えるのは、「答えのない宙ぶらりんな状態」に耐える知性です。すぐに白黒をつけたがる姿勢こそが、思考を停止させてしまう危険な罠だと考えているのです。
結論として、「疑う」という行為は、思考停止を避け、他人の価値観に流されることなく、自分の人生の主導権を握るための重要な第一歩であると久米さんは主張しています。
このように「疑う」ことによって守られる、最も大切なものとは何でしょうか。
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2. 目指すべき状態:「精神の自由」を守る
「疑う」という姿勢を通して守るべき最も大切な財産、それが「精神の自由」です。
久米さんは、TBSという大組織を辞め、フリーランスの道を選びました。その理由は、組織の論理に縛られず、自分の頭で考え、自分の言葉で語る「精神の自由」を確保するためでした。彼の経験に基づく2つの立場の違いは、以下の表のようにまとめることができます。
| 立場 | 特徴 | 精神的な状態 |
| 組織人 | 「会社の論理」で物事を考える必要がある | 自由度が低い |
| フリーランス | 保障はないが、自分の発言に全責任を持つ | 精神の自由度がまるで違う |
もちろん、彼も「まあ、実際にはスポンサーの顔色とか、いろいろ窺わなきゃいけないこともありましたけど(笑)」と現実的な側面をユーモラスに認めていますが、それでも精神的な自由度の違いは決定的だったのです。
特に、情報が洪水のように押し寄せる現代社会において、「精神の自由」はこれまで以上に重要です。久米さんは、これからの時代に最も必要な能力として「編集力」を挙げています。これは、溢れる情報の中から自分に必要なものを選び取り、それらを繋ぎ合わせて「自分だけの物語」を構築する力のことです。誰かが作った物語のエキストラで終わるのではなく、自分の人生の主役として脚本も演出も自分で手がけること。そのために、「精神の自由」は何よりも守られるべきなのです。久米さんはこの姿勢を、次のような強烈な比喩で表現しています。
行儀よく整列して崖に向かって行進するよりは、行儀が悪くても立ち止まって「こっちの道は危ないんじゃないか」と言える人間の方が、私は信用できるし、好きですね。
自分の物語を作る上で、私たちが使う「言葉」について、久米さんはどのような注意を促しているのでしょうか。
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3. 扱うべき道具:「言葉」の危うさと向き合う
言葉を巧みに操るプロである久米さんですが、実は「言葉をあまり信用していない」という逆説的な考えを持っています。
彼が言葉に対して慎重な姿勢をとる理由は、主に2つあります。
- 言葉にした瞬間に、本当の感情や複雑なニュアンスがこぼれ落ちてしまうため。
- 時には言葉を発しない「沈黙」の方が、雄弁に物事を伝えることがあるため。
この点について、彼は自身の経験を次のように振り返ります。「テレビで私が沈黙したり、涙ぐんだりしたことがありましたが、あれは演出でもなんでもなくて、言葉が見つからなかっただけなんです。でも、その『言葉にならない時間』こそが、一番雄弁に何かを伝えたかもしれない」。
この考えから、久米さんは私たち読者に対して、特に「手垢のついた綺麗な言葉」に注意するよう促します。例えば、「感動」「絆」「夢」といった言葉です。こうした便利な言葉で安易に自分の感情をラッピングしてしまうのではなく、言葉にならない「ザラザラした、生々しい感覚」をそのまま抱えておくことの大切さを説いています。
では、このような複雑な世界と自分自身に対して、私たちはどのような態度で向き合えばよいのでしょうか。
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4. 貫くべき態度:「面白がること」の精神
久米さんが提唱する、人生に対する最も基本的なスタンス。それが「面白がること」です。
「面白がる」とは、具体的に次のような態度を指します。
- 自分の思い通りにならない世の中を、理不尽な他人を、そして何より、矛盾だらけの自分自身を面白がること。
- 物事を深刻に捉えすぎず、常に肩の力を抜いて斜めから眺めてみること。
彼のこの哲学は、次の一言に象徴されています。
人間なんて、どうせ大したもんじゃない
自分自身さえも少し突き放して見ることで、心に余裕が生まれます。久米さんは、深刻になったところで事態が好転するわけではない、という非常に現実的な視点から、この「面白がる」精神の重要性を語るのです。
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まとめ:久米宏流「人生で大事なこと」
これまでの4つのポイントを統合すると、久米さんの人生哲学は、「軽やかに、疑って、面白がる」というフレーズに集約されます。常識を疑うことで精神の自由を守り、言葉の危うさを理解し、最後はすべてを面白がってしまう。これが、彼がたどり着いた生き方の極意です。
そしてエッセイの最後に、彼はまるで冗談のようにこう付け加えるのです。「まあ、今の話も全部、私が適当に喋ったことですから、みなさん、くれぐれも鵜呑みにしないでくださいよ?」。この一言は、彼が最も大切にする「疑うこと」というテーマを、読者自身に実践させようとする最後のメッセージです。それは、私たち一人ひとりが自分の頭で考え、自分だけの人生を歩んでいくことへの、彼からの力強いエールなのです。