導入:ようこそ、創造的な問題解決の世界へ

「どうしてもうまくいかない」「良いアイデアが思いつかない」——。何かに挑戦しているとき、問題解決に行き詰まってしまうのは、誰にでもあるごく自然なことです。大切なのは、そこで立ち止まってしまうのではなく、ほんの少し視点を変えて、新しい一歩を踏み出すことです。このツール集は、そんなあなたの最初の一歩を力強くサポートするために作られました。

ここで扱う「問題」とは、単なる「クレーム」や「トラブル」といったネガティブなものだけを指すわけではありません。よりシンプルに、「問題」とは「目標(あるべき姿)と現状とのギャップ」のことです。この定義の素晴らしい点は、問題を「乗り越えるべき障害」から「達成したい目標」へと、視点を前向きに転換させてくれることです。つまり、「もっと売上を伸ばしたい」「プロセスを改善したい」といった、前向きな挑戦もすべて「問題解決」の一環なのです。

では、なぜ視点を変えることが、そのギャップを埋める鍵となるのでしょうか?

MBA 問題解決100の基本

※こちらの記事は、『MBA問題解決100の基本』 の内容を基に作成されました。

1. なぜ「視点を変える」ことが重要なのか?

行き詰まりを感じるとき、私たちの思考は知らず知らずのうちに一つの方向に固まってしまっていることがよくあります。

行き詰まりの本質とは?

問題解決の世界には、次のような教えがあります。

解決案が一つしか見つからなければ、それは、先入観に理屈をつけたにすぎないものと疑うべきである

なぜ、一つしか解決策が思いつかないことが危険信号なのでしょうか? それは、私たちの脳が心地よさや効率を求め、慣れ親しんだ思考パターンに安住しようとするからです。最初に出てくる解決策は、多くの場合、最も分かりやすく、私たちの既存の経験や偏見から生まれたものです。それは創造的な探求の結果ではなく、無意識の固定観念の表れかもしれないのです。

同じ場所から物事を眺め続けていては、見える景色は変わりません。しかし、一歩横にずれたり、少し高い場所から見下ろしたりするだけで、これまで気づかなかった道や新しい可能性が見えてくるのです。

視点変更がもたらすメリット

視点を意識的に変えることで、次のような大きなメリットが得られます。

  • 誰も気づかない答えを発見できる: 論理だけではたどり着けないユニークな解決策は、想像力や直感、そして新しい視点から生まれます。
  • 創造的な解決策につながる: それまでの「当たり前」を打ち破ることで、業界の常識を変えるような革新的なアイデアが生まれるきっかけとなります。

視点を変える重要性がわかったところで、早速、具体的な思考ツールを見ていきましょう。まずは、問題そのものから一度離れてみる方法です。

2. 思考ツール①:問題の本質を見抜く「ファンクショナル・アプローチ」

コンセプト:表面的な形ではなく「機能」に注目する

目の前の問題に真正面から取り組むことは大切ですが、時にはそれがかえって視野を狭めてしまうことがあります。そんなときは、一度問題そのものから意識的に離れてみることが有効です。そのための具体的な手法が「ファンクショナル・アプローチ」です。

これは、製品やサービスの物理的な形や色といった表面的な特徴ではなく、それが顧客やユーザーにとって本来果たすべき「機能(ファンクション)」は何か?という本質的な価値に注目する考え方です。これは、経営学者クレイトン・クリステンセンが提唱した「ジョブ理論(顧客が片づけるべき用事)」にも通じる考え方です。

具体例:「板書の字が汚い」という問題を考える

ある先生が「自分の板書の字が汚くて、学生が読みにくそうだ」という問題に直面したとします。この問題をファンクショナル・アプローチで考えてみましょう。

  • ステップ1(表面的な問題)
    • 「板書の字が汚い」ことが問題だと認識します。
  • ステップ2(コインの裏返し的解決策)
    • 最も直接的な解決策は「字を綺麗に書く練習をする」ことです。しかし、これは問題の表面をなぞっただけの「コインの裏返し」的な発想であり、時間もかかりますし、根本的な解決にならないかもしれません。
  • ステップ3(本質的な機能)
    • ここで一度、「板書」という行為から離れてみます。学生が本当に求めている「機能」は何でしょうか? それは「綺麗な字」そのものではなく、「授業内容を理解し、知識を習得すること」です。
  • ステップ4(新しい解決策)
    • この本質的な機能に注目すると、解決策の幅が一気に広がります。
      • パワーポイントで資料を作成し、板書を極力減らす
      • 字の綺麗な学生を書記に指名し、代わりに書いてもらう
      • 事前に印刷した講義ノートを配布する

このように、問題の本質を見抜くことで、より創造的で効果的な解決策を見つけ出すことができるのです。

このように問題の本質を見抜く視点を持った上で、次はアイデアを強制的に広げるためのツールを紹介します。

3. 思考ツール②:アイデアを量産する「SCAMPER(スキャンパー)」

コンセプト:アイデアを生み出すための「質問リスト」

「SCAMPER(スキャンパー)」は、ブレインストーミングなどで新しいアイデアを行き詰まりなく生み出すための、強制的に視点を変える質問のチェックリストです。既存の製品やサービス、アイデアに対して7つの切り口から質問を投げかけることで、これまで思いもよらなかった新しい発想を得るのに非常に役立ちます。

では、具体的にどのような質問を投げかければ、強制的に視点を変えることができるのでしょうか?そのための地図がSCAMPERです。

SCAMPERの7つの視点

視点 (Approach)問いかける質問の例どのようなアイデアに繋がりやすいか
Substitute (入れ替える)この部分を他のものと入れ替えたらどうなるか?既存の素材やプロセスを新しいものに置き換える発想
Combine (組み合わせる)他の製品やサービスと組み合わせたらどうなるか?iPhone(iPod+携帯電話+小型PC)のように、複数の機能を統合した「新結合」によるイノベーション
Adapt (当てはめる)他業種の成功事例をこの問題に当てはめられないか?異分野の仕組みやアイデアを応用する発想
Modify (変更する)もっと大きく、または小さくしたらどうなるか?既存のルール(ビールの税率)の範囲内で製品を「変更」することで生まれた発泡酒のように、新しい価値を生む発想
Put to other Uses (他の用途に使う)この製品を全く別の目的で使えないか?吉見製作所の釣り具「竿中とおる君」が巻き爪治療に使われた例のように、本来の用途以外での新しい市場を発見する発想
Eliminate (排除・縮小する)この機能やプロセスをなくしたらどうなるか?QBハウスが洗髪や髭剃りをなくしカットに特化したように、サービスを絞ることで新しい価値を提供する発想
Rearrange / Reverse (並べ替え・逆転する)手順を逆にしたらどうなるか?ベネトンが「縫製→染色」という業界の常識を逆転させ、在庫リスクを減らしたような発想

SCAMPERで多くのアイデアを出した後は、問題の根本原因を深く掘り下げるツールが役立ちます。

4. 思考ツール③:真の原因を探る「なぜを5回問う」

コンセプト:表面的な現象から「真因」を突き詰める

「なぜを5回問う」は、トヨタ生産方式で用いられる有名な問題解決手法です。目の前で起きている表面的な現象に惑わされることなく、「なぜ、それが起きたのか?」という問いを繰り返し、問題を引き起こしている「真因(根本的な原因)」を徹底的に突き詰めることを目的としています。

実践上の最重要ポイント:「何が」の後になぜが来る

このツールを効果的に使うためには、非常に重要な注意点があります。それは、いきなり「なぜ?」から始めないことです。リコーという会社には次のような教えがあります。

何がの後になぜが来る

つまり、最初に「何が(What)」問題なのかを具体的かつ明確に定義することが、このツールを正しく使うための絶対的な鍵となります。問題の定義が曖昧なまま「なぜ」を繰り返しても、見当違いの結論に至ってしまう危険性が高いのです。

例えば、問題が曖昧なまま「なぜチームの士気が低いのか?」と問うと、給料、人間関係、仕事内容など、無数の答えが散乱してしまいます。しかし、まず「何が」問題かを「営業チームの契約件数が3ヶ月連続で目標未達である」と定義すれば、「なぜ」の問いは遥かに鋭く、本質的な原因へと導いてくれるのです。

「なぜを5回問う」の使い方ステップ

  1. Step 1: 問題を明確にする(What)
    • まず、解決したい問題を具体的に記述します。
  2. Step 2: 最初の「なぜ?」を問う
    • その問題が「なぜ」起きたのかを考え、直接的な原因を突き止めます。
  3. Step 3: 「なぜ?」を繰り返す
    • 出てきた原因に対して、さらに「それはなぜ?」と問いを重ねます。これを5回繰り返すことを目指します。
  4. Step 4: 真因を特定する
    • 繰り返し問い続けた結果、これ以上分解できない根本的な原因(真因)にたどり着きます。
  5. Step 5: 対策を考える
    • 特定した真因に対して、具体的な解決策を立案します。

根本原因がわかったところで、最後に、すべての前提をリセットして全く新しい「あるべき姿」を描くツールを紹介します。

5. 思考ツール④:常識を打ち破る「ゼロベース思考」

コンセプト:すべての前提をリセットして考える

ゼロベース思考とは、既存の前提、常識、過去の成功体験といったすべてを一度忘れ、「全く何もないゼロの状態」から物事を考えるアプローチです。業界の「当たり前」を疑うことで、革新的なアイデアやビジネスモデルを生み出す際に特に強力な武器となります。

例えば、1000円カットのQBハウスは、「理髪店ならカットだけでなく洗髪や髭剃りもするのが当たり前」という業界の常識を疑い、「顧客が本当に必要なのはカットだけではないか?」とゼロベースで考えたことから生まれました。

ゼロベース思考を実践するヒント

この思考法を身につけるために、日頃から次のような「思考の筋トレ」を自分に課してみましょう。

  • 過去の成功体験を忘れる
    • これまでのやり方が、これからも最善とは限りません。「昔はこれでうまくいった」という考えを一度手放してみましょう。
  • 「なぜこうなっているのか?」と問う
    • 当たり前になっているルールやプロセスに対し、「そもそも、なぜこの手順が必要なのだろう?」と根本的な疑問を投げかけます。
  • 顧客の課題から発想する
    • 社内の都合やこれまでのやり方ではなく、顧客が本当に困っていることは何か、という原点から考えます。
  • 極端な制約を設けてみる
    • 「もし、コストを10分の1にしなければならなかったら?」「もし、使える時間が今の半分だったら?」といった厳しい制約をあえて課すことで、全く新しい発想が生まれることがあります。
  • 極端な逆張りのやり方が機能しないか考えてみる
    • 業界の常識と正反対のことを試したら、どうなるかを想像してみます。
  • 「できない理由」ではなく「どうすればできるか」を考える
    • 最初から「無理だ」と諦めるのではなく、どうすればそのアイデアを実現できるか、可能性を探る姿勢が重要です。

結び:あなたも今日から問題解決の実践者

このツール集では、視点を変えるための4つの強力なツールを紹介しました。問題の「本質的な機能」を見抜くファンクショナル・アプローチから、あらゆる常識を疑うゼロベース思考まで、これらのツールは単なる手法ではなく、あなたの思考を解放するための鍵なのです。

これらを知ると、問題解決は一部の天才だけが持つ特別な能力のように感じるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。

能力として考えるととてつもなく見えることも、技術として学び、実用すると、身につく

問題解決は、才能ではなく「技術」です。つまり、誰でも学び、練習し、実践することで身につけることができるのです。このツール集が、あなたの行き詰まりを打破し、創造的な未来を切り拓くための最初の一歩となることを心から願っています。さあ、今日からあなたも問題解決の実践者です。