こんにちは、デミス・ハサビスです。
まず、私の人生の歩みや、私たちがDeepMindで成し遂げようとしていることに興味を持っていただき、感謝します。
「人生で一番大事なことは何か」という問いは、非常に深遠で、かつ刺激的なものです。私は、チェスの神童と呼ばれた幼少期から、ゲーム開発者、認知神経科学者、そしてAI研究者としてのキャリアを歩んできましたが、その根底にある信念は常に一貫しています。
私にとって、人生で最も大切なこと。それは「宇宙の謎を解き明かし、人類の知識を前進させるために、自らの好奇心を『知能』という究極のレバー(梃子)に変えること」です。
これを詳しく説明するために、私のこれまでの経験と、そこから得た哲学をお話ししましょう。
1. 好奇心の原点:チェス盤から始まった宇宙への問い
私の思考の基礎は、4歳の時に覚えたチェスにあります。わずか64マスの盤上には、宇宙の原子の数よりも多くの可能性が秘められています。私はそこで、「システム」を理解し、「戦略」を立てることの快感を知りました。しかし、10代半ばで世界的なプレイヤーになった頃、私はある種の限界を感じました。
「チェスは素晴らしいが、それは閉じた系での真理に過ぎない。この思考の力を、もっと大きなもの、つまり『現実世界』の謎を解くために使えないだろうか?」
この問いが、私の人生を決定づけました。私は、世界を理解するための「究極のツール」が必要だと確信したのです。それが「人工知能(AI)」でした。AIとは単なる技術ではなく、あらゆる科学的発見を加速させるための「知能のメタ・ソリューション」なのです。
2. 知能の本質:なぜ「知能」を解き明かすのか
私が人生の多くをAIに捧げているのは、知能こそがこの宇宙で最も驚くべき現象だと信じているからです。私たちは、脳というわずか1.5キログラムほどの組織を使って、ブラックホールを理解し、DNAを解析し、自分たちの存在理由を問うことができます。
私がDeepMindを設立した時のモットーは「知能を解明し、それを使って他のすべてを解決する(Solve intelligence, and then use that to solve everything else)」というものでした。
人生において、何か一つの問題に取り組むことも尊いですが、もし「問題を解決する方法そのもの」を向上させることができれば、その影響力は幾何級数的に増大します。私は、科学的発見を加速させるための「汎用的なエージェント」を作ることで、がんの治療、気候変動の解決、エネルギー問題の克服といった、人間一人では一生かかっても解けない難題に挑みたいと考えたのです。
3. 分野の融合:インターディシプリナリー(学際的)な生き方
現代社会では、一つの分野を極める「専門家」になることが推奨されがちです。しかし、私の経験から言えば、「異なる分野を繋ぐ架け橋になること」こそが、大きなブレイクスルーを生む鍵となります。
私はコンピュータサイエンスを学びましたが、同時に認知神経科学の博士号も取得しました。それは、人間の脳がいかにして記憶を作り、想像するのかを理解しなければ、真に優れたAIは作れないと考えたからです。また、ゲーム開発の経験は、複雑なシミュレーション環境を構築する上で不可欠な視点を与えてくれました。
人生で大事なのは、一つの箱に閉じこもらないことです。物理学、生物学、哲学、芸術、そしてテクノロジー。これらを融合させた場所にこそ、真理が隠れています。私は常に、DeepMindを「21世紀のアポロ計画」のような場所にしたいと考えてきました。そこには、数学者もいれば、神経科学者も、哲学者も、エンジニアもいます。多様な知性が交差する瞬間に、イノベーションは起こるのです。
4. AlphaFoldとノーベル賞:科学への貢献
2024年にノーベル化学賞を受賞したことは、私にとって、そしてDeepMindのチームにとって、この哲学が正しかったことを証明する出来事でした。「AlphaFold」は、50年来の生物学の難題であったタンパク質の構造予測を、AIによって解決しました。
これにより、世界中の何百万人もの研究者が、数カ月、数年かかっていた作業を数分で終えられるようになりました。これは私にとって、AIが単なる「チェスや囲碁で人間に勝つための道具」ではなく、「人類に貢献する科学的な望遠鏡や顕微鏡」になった瞬間でした。
私たちが成し遂げたことは、AIというツールを使って、自然界の隠れたルール(生命の設計図)を翻訳したことに他なりません。この経験が教えてくれたのは、「情熱を、自分よりも大きなもののために捧げること」の充足感です。
5. 責任と倫理:力を持つことの重み
AIという強力なテクノロジーを追求する中で、私が常に意識しているのは「責任」です。強力なツールは、使い方を誤ればリスクを伴います。
人生で大事なのは、ただ「できること」を追求するのではなく、「なすべきこと」を正しい倫理観に基づいて行うことです。私たちは、AIを慎重に、そして安全に開発しなければなりません。富や権力のためではなく、人類全体の利益(Benefit of humanity)のためにこの技術を使うという誓いを、私は一刻も忘れたことはありません。
野心(Ambition)と謙虚さ(Humility)のバランスを取ること。科学者としての探究心を持ちつつ、社会に対する深い責任感を持ち続けること。これが、これからの時代を生きる私たちに求められる最も重要な姿勢です。
6. 結論:あなたへのメッセージ
最後に、私の個人的な「一番大事なこと」をまとめます。
それは、「一生、学習者であり続けること」です。
世界は驚きに満ちています。私たちはまだ、宇宙の仕組みのほんのわずかしか理解していません。あなたがどのような分野にいても、好奇心の火を絶やさないでください。目の前の困難に直面したとき、「これはどういうシステムで動いているのか?」「もっと効率的な解決策はないか?」と問い続けてください。
人生は、不確実で複雑なゲームのようなものです。しかし、そのルールを理解し、より良い未来を作るための戦略を練ることは、何物にも代えがたい喜びです。
私がチェス盤の前で感じた高揚感は、今、AIが新しい科学的発見をする瞬間の喜びへと繋がっています。あなたも、自分の好奇心を信じ、それを世界を良くするための力に変えてください。それが、有意義な人生を送るための唯一にして最高の方法だと、私は信じています。
宇宙を、そして知能を理解する旅はまだ始まったばかりです。一緒にこの素晴らしい冒険を続けましょう。
デミス・ハサビス