こんにちは。イスマハン・エルオアフィです。
今、私は国際農業研究協議グループ(CGIAR)のエグゼクティブ・マネージング・ディレクターとして、またかつては国連食糧農業機関(FAO)の初代首席科学官として、地球上のすべての人に食料を届け、持続可能な未来を築くための挑戦を続けています。
「人生で一番大事なことは何か」という問いは、非常に深遠で、かつ私たちの存在の根幹に関わるものです。科学者として、また一人の女性として、そして世界各地の農地や研究現場で多くの困難を目の当たりにしてきた人間として、私がたどり着いた答えをお話ししましょう。
私にとって、人生で最も大切なこと。それは「科学に基づいた真実を追求し、それを他者への慈しみ(コンパッション)と結びつけて社会に変革をもたらすこと」です。
もう少し詳しく、私のこれまでの歩みと情熱を交えて紐解いていきましょう。
1. 好奇心と教育:すべての基盤となる「鍵」
私はモロッコで育ちました。幼い頃から、自然界の複雑さと美しさに魅了されていました。なぜ作物は育つのか、なぜある土地では豊作になり、別の土地では枯れてしまうのか。その答えを知りたいという純粋な好奇心が、私の原動力でした。
人生において、まず第一に大事なのは「学び続けること」です。
教育は、私たちが自分自身を解放し、世界を変えるための最も強力な武器です。私は遺伝学という分野で博士号を取得しましたが、それは単に知識を得るためではなく、複雑な世界を理解するための「レンズ」を手に入れるためでした。
科学的な視点を持つということは、偏見や先入観に惑わされず、エビデンス(根拠)に基づいて物事を判断するということです。これは、不確実な現代を生き抜くために、誰にとっても欠かせない資質だと言えるでしょう。
2. 目的意識:自分を超えた「大きな使命」を持つ
私たちは、自分一人の幸福のために生きているわけではありません。人生に真の充足感をもたらすのは、「自分よりも大きな何かのために貢献している」という感覚です。
私にとっての使命は、「食料安全保障」の実現です。
世界では今、何億人もの人々が飢餓に苦しみ、一方で気候変動が農業の基盤を脅かしています。これは単なる経済問題ではなく、人権の問題であり、倫理の問題です。
「食料は基本的人権である。誰もが健康で栄養のある食べ物にアクセスできる世界を作ることは、私たちの世代の最大の義務である」
この明確な目的意識があるからこそ、私はどんなに困難な交渉や、複雑な組織改革の中にあっても、立ち止まることなく進み続けることができます。皆さんも、自分の才能や情熱が、社会のどの部分に貢献できるかを常に問いかけてみてください。
3. レジリエンス:逆境を「進化の糧」に変える
私のこれまでのキャリアは、決して平坦なものではありませんでした。
科学の世界、特に国際機関のリーダーシップ層は、長く男性中心の社会でした。モロッコ出身の女性科学者として、偏見や壁に突き当たったことは一度や二度ではありません。
しかし、そこで私が学んだのはレジリエンス(しなやかな強さ)の大切さです。
私は「塩生農業(塩分を含む水や土地での農業)」を長年研究してきました。過酷な環境下で生き抜く作物は、独特の強さと知恵を持っています。人間も同じです。
- 失敗を恐れない: 科学実験に失敗はつきものです。それは「うまくいかない方法」を一つ見つけたという進歩なのです。
- 適応する: 状況が変われば、アプローチを変える。固執せず、常に最適な解を模索する柔軟さが重要です。
- 信念を貫く: 周囲に何と言われようと、自分の内なるコンパスが指し示す方向を信じること。
逆境は、あなたを打ち負かすためのものではなく、あなたをより強く、より賢く鍛え上げるためのプロセスに過ぎません。
4. 多様性と包摂:異なる視点が「イノベーション」を生む
私がCGIARやFAOで一貫して訴えてきたのは、多様性の重要性です。
複雑な地球規模の課題を解決するためには、単一の視点では不十分です。
- 科学の力: 最先端のバイオテクノロジーやデジタル技術。
- 伝統の知恵: 先住民や小規模農家が何世代にもわたって培ってきた知識。
- 女性の視点: 農業の現場で中心的な役割を果たしながら、長く過小評価されてきた女性たちの声。
これらを統合することが、真のイノベーションを生み出します。
人生においても、自分とは異なる背景、価値観、文化を持つ人々と対話し、受け入れることは非常に重要です。多様性は単なる「正しいこと」ではなく、「生存と進化のための戦略」なのです。
特に女性の皆さんには伝えたい。あなたたちの視点、あなたたちのリーダーシップが、今の世界には切実に必要なのです。テーブルに着くことを恐れず、自分の声を届けてください。
5. 「忘れられたもの」に光を当てる慈しみ
科学者としての私のライフワークの一つに、「忘れられた作物(Underutilized Crops)」の再評価があります。キヌアやミレット(雑穀)などは、栄養価が高く気候変動にも強いにもかかわらず、長い間、世界の主要な市場からは無視されてきました。
これと同じことが、人間社会にも言えるのではないでしょうか。
効率や利益ばかりを追求する中で、私たちは多くの「大切なもの」を置き去りにしていないでしょうか。
人生で大事なのは、効率の影に隠れた価値を見出す目を持つことです。
社会的弱者と呼ばれる人々、顧みられない地域、失われつつある文化。そこにこそ、未来を救うヒントが隠されていることが多々あります。他者に対する深い共感と慈しみの心を持って接すること。それが、冷徹になりがちな科学や経済を、血の通った「希望」へと変えるのです。
結論:科学と慈しみのハーモニー
最後に、私からあなたへ。
人生で一番大事なことは、特定の「何か」を手に入れることではありません。
それは、「科学的な探究心を持って真実を見極め、揺るぎない使命感を持って行動し、あらゆる生命に対する慈しみを忘れない」という、その生き方そのものにあります。
私たちは今、歴史の転換点に立っています。気候変動、紛争、不平等。課題は山積みです。しかし、私は楽観主義を捨てていません。なぜなら、人間の知性と、他者を思いやる心があれば、必ず道は拓けると信じているからです。
あなたも、自分の「種」をどこに撒くかを決めてください。
そして、それを育てるために、学び、耐え、多様な人々と手を取り合ってください。あなたの人生という畑に、豊かな実りが訪れることを、私は心から願っています。