私はクリスチャン・ハッピです。ナイジェリアのリディーマーズ大学で、アフリカの感染症ゲノミクス・センター・オブ・エクセレンス(ACEGID)の所長を務めています。
「人生で一番大事なことは何か」という問いは、私のようなゲノム科学者にとって、非常に深い意味を持ちます。日々、目に見えないウイルスという死の脅威と向き合い、遺伝子の配列という生命の設計図を読み解いていると、自ずと「生命の本質」と「人間としての使命」について考えざるを得ないからです。
私にとって、人生で最も大事なこと。それは「自らの痛みを使命に変え、他者のためにその才能を捧げ、次世代に希望という『灯火』を繋ぐこと」です。
これを詳しくお話しするために、私の歩んできた道のりと、その過程で得た確信について綴らせてください。
1. 痛みを使命に変える:原点としての「約束」
私がなぜ、アフリカで感染症の研究に人生を捧げているのか。その原点は、私の幼少期にあります。
私はカメルーンで育ちました。12歳の時、私の弟がマラリアで命を落としました。昨日まで一緒に笑い、遊んでいた大切な家族が、一匹の蚊が媒介する病気によって、あまりにもあっけなく奪われてしまったのです。その時の絶望と、何もできなかった自分への無力感は、今でも鮮明に覚えています。
母の涙を見たとき、私は心に決めました。もし神が私をこの世界に生かしてくださるなら、私はこの悲劇を繰り返させないために人生を使おう、と。私の「痛み」が、科学者としての「情熱」に変わった瞬間でした。
人生で直面する困難や悲しみは、避けがたいものです。しかし、それを単なる「不幸」として終わらせるか、あるいはそれを原動力にして「誰かの救い」に変えるか。その選択こそが、人生の価値を決めると私は信じています。
2. 尊厳と自立:アフリカがアフリカを救う
私が科学者として、また一人のアフリカ人として最も情熱を注いできたのは、「アフリカの科学的自立」です。
長年、アフリカは「科学の受動的な受け手」と見なされてきました。アウトブレイクが起きれば欧米から専門家がやってきて、サンプルを持ち帰り、自国の研究室で解析し、論文を書く。現地の人々は、自分たちを苦しめている病気の正体さえ、他国の発表を待たなければ知ることができなかった。これを私は「パラシュート科学」と呼び、断固として拒絶してきました。
2014年、西アフリカでエボラ出血熱が猛威を振るった時、私はナイジェリアで最初の症例を特定しました。世界中がパニックに陥る中、私たちは自らの手で、自国の研究室で、ゲノム解析を行いました。その迅速な診断が、ナイジェリアでの爆発的な感染拡大を食い止めたのです。
2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)の際も同様です。アフリカで最初のゲノム配列を解読したのは、私たちACEGIDのチームでした。サンプルが届いてから48時間以内に配列を決定し、世界に公開しました。
なぜこれが大事なのか。それは、「自らの問題を自らの力で解決する」という尊厳こそが、人間が生きる上で不可欠だからです。依存は脆弱さを生みますが、自立は自信と強さを生みます。科学は単なる技術ではなく、人々を依存から解放し、自らの運命をコントロールするための「ツール(道具)」なのです。
人生において大事なのは、誰かに救ってもらうのを待つことではありません。自分が救い手になるための力を蓄え、誇りを持って立ち上がることです。
3. 次世代への投資:未来へ繋ぐ「灯火」
私一人がどれほど優れた論文を書いても、私一人がどれほど多くの賞を受賞しても、それだけでは世界は変わりません。私がいつかこの世を去った後、後に続く者がいなければ、私の活動はそこで途絶えてしまいます。
だからこそ、私にとって研究と同じくらい、あるいはそれ以上に大事なのが「教育」と「メンターシップ」です。
ACEGIDでは、アフリカ全土から若手科学者を募り、最先端のゲノム技術を教えています。彼らには「自分たちは世界一になれる」「自分たちの手で大陸を救える」という信念を叩き込みます。かつて「設備がない」「資金がない」と言い訳をしていた若者たちが、今では自信に満ち溢れ、世界レベルの成果を出しています。
科学の真髄は、知識の蓄積ではなく、その「精神」を繋ぐことにあります。人生で最も価値のある投資は、自分自身の成功ではなく、他人の才能を開花させることにある。私はそう確信しています。私が育てた数千人の科学者たちが、それぞれの国で感染症と戦い、人々を救っている姿を見ることほど、私の心を揺さぶる報酬はありません。
4. 人類への献身:科学の向こう側にある「愛」
私はよく「科学者として客観的であれ」と言われますが、同時に私は、科学とは究極的に「人間愛」の表現であるべきだと考えています。
ゲノム解析で塩基配列を読み取っているとき、私の目に見えているのは単なる「A, T, G, C」の羅列ではありません。そのデータの向こう側には、熱に苦しんでいる子供、看病する母親、悲しみに暮れる家族がいます。
データは冷徹ですが、その目的は温かいものであるべきです。テクノロジーは目的ではなく、あくまで手段です。もし科学が人々の生活を向上させず、一部の特権階級のためだけのものになるなら、それは失敗です。
私が開発に関わったラッサ熱の迅速診断キットもそうです。高価な機械がなくても、村の小さな診療所で10分で結果がわかる。それによって一人の命が救われる。その「一人の命」の重みを知っていることが、科学者として、また人間として最も大事な矜持です。
5. 結論:あなたがこの世界に残すもの
最後になりますが、人生で一番大事なこと。それは、「自分がこの世を去る時、自分が来た時よりも少しだけ世界を良くして去ること」です。
私の人生は、マラリアで死んでいった弟の代わりに、どれだけ多くの命を救えるかという挑戦の連続でした。ゲノム科学という武器を手に、私はアフリカという大地に、科学の拠点と、次世代の希望の種を植えてきました。
人生は、長さではありません。その「密度」と、どれだけ多くの「魂」に触れたかです。
皆さんに伝えたいことがあります。どんなに過酷な環境にいても、どんなに不可能な壁に直面しても、決して諦めないでください。あなたの「痛み」を、世界を変える「力」に変えてください。そして、自分のためだけに生きるのではなく、誰かのために自分の才能を役立てる喜びを知ってください。
科学、ビジネス、教育、芸術。どんな分野であっても、あなたがそこに「愛」と「自立の精神」を持って取り組むなら、あなたの人生は輝かしいものになります。
私は、アフリカの未来を信じています。人類の未来を信じています。なぜなら、困難に直面したとき、人間は自らの限界を超えて連帯し、英知を絞り、克服することができると、私はラボの中で、そしてアウトブレイクの現場で、何度も目撃してきたからです。
私の物語は、一人のアフリカ人科学者の物語ではありません。それは、絶望から立ち上がり、知識を武器に戦い、次世代に未来を託そうとする、すべての人間に共通する物語だと信じています。
真理を追い求め、自律し、そして他者を愛すること。
それが、私の考える「人生で一番大事なこと」です。