こんにちは。監督のジョン・M・チュウです。
いま、私の目の前には『ウィキッド』のセットが広がり、何百人ものスタッフが魔法のような世界を作り上げようと奔走しています。カメラのレンズ越しに世界を見ることは、私にとって単なる仕事ではなく、人生そのものを理解するための手段です。
「人生で一番大事なことは何か?」
この質問をされたとき、私の脳裏にはいくつかの鮮明なシーンが浮かびます。カリフォルニア州パロアルトにある父の中華料理店「Chef Chu’s」の賑わい、初めてキャノンの一眼レフを手にした時の重み、そして『クレイジー・リッチ!』のプレミアで観客が涙を流しているのを見た瞬間の熱気。
これらすべての経験から導き出された、私にとっての「人生で最も大切なこと」。それは、「自分の物語を信じ、他者と繋がるための橋を架け続けること」です。
これを、私のこれまでの旅路とともに、深く紐解いていきたいと思います。
1. 自分の「声」を見つける勇気
私は、シリコンバレーで育ったアジア系アメリカ人です。父の店は、スティーブ・ジョブズも通うような有名な場所でしたが、学校へ一歩足を踏み出せば、私は「その他大勢」の一人でした。当時のハリウッド映画やテレビに、私と同じような顔をしたヒーローはいませんでした。
幼い頃の私は、自分の意見を主張するのが苦手な、静かな子供でした。しかし、カメラを手にした瞬間、すべてが変わりました。レンズを通すと、世界は色鮮やかに、ダイナミックに、そして何よりも「コントロール可能」に見えたのです。
人生でまず大事なのは、「自分は何者で、何を伝えたいのか」という自分の声(ボイス)を見つけることです。
多くの人が、他人が決めた「成功のテンプレート」や「こうあるべき姿」に自分を当てはめようとして苦しみます。私自身、最初は「ハリウッド風」の映画を撮らなければならないと思い込んでいました。しかし、本当の魔法が起きたのは、私が自分自身のルーツ、つまりアジア系としてのアイデンティティや、家族の物語を作品に投影し始めてからでした。
自分の声を信じることは、勇気がいります。誰からも求められていないと感じることもあるでしょう。しかし、あなたにしか語れない物語、あなたにしか見えない景色が必ずあります。それを形にすることを諦めないでください。
2. 「不完全な魔法」を愛する
私はミュージカル映画を愛しています。なぜなら、言葉で言い表せないほどの感情が溢れたとき、人は歌い、踊り出すからです。それは現実世界では「不自然」なことかもしれません。しかし、その「不自然さ」こそが、人間の持つ情熱の純粋な形だと私は信じています。
映画制作の現場は、決して完璧ではありません。予算の不足、天候の悪化、機材のトラブル……毎日が問題の連続です。しかし、完璧を求めることよりも大事なのは、その場にある熱量を感じ取り、予期せぬ変化を「魔法」に変える力です。
人生も同じです。計画通りに進まないこと、挫折すること、思いもよらない方向に進むこと。それらを「失敗」と呼ぶのではなく、物語を豊かにする「ひねり(プロット・ツイスト)」だと捉えてみてください。
『クレイジー・リッチ!』を制作していたとき、多くの人が「アジア人だけの映画なんてヒットしない」と言いました。でも、その逆風こそが私たちの結束を強め、結果として世界を動かすエネルギーになりました。欠点や障害を隠すのではなく、それをどう演出して輝かせるか。その視点を持つことが、人生を映画のようにエキサイティングにするコツです。
3. コミュニティという名の「アンサンブル」
映画は一人では作れません。俳優、カメラマン、照明、衣装、そしてセットの掃除をしてくれるスタッフまで、全員が同じ夢を見て初めて一本の映画が完成します。
人生において、「誰と一緒に歩むか」は、どこへ行くかと同じくらい、あるいはそれ以上に重要です。
私は父の店で、食事が人々の心を解きほぐし、見知らぬ人同士を繋ぐ様子を飽きることなく見てきました。父は料理だけでなく、ホスピタリティ(もてなし)の達人でした。彼はいつも「お客さんの顔を見て、何を求めているかを察しなさい」と言っていました。
この教えは、私の監督としてのスタイルの根幹にあります。現場で大事なのは、監督がトップダウンで命令することではなく、全員が「自分の居場所がある」と感じられる安全な環境を作ることです。誰かが輝くために、誰かがライトを照らす。その助け合いの精神(アンサンブル)こそが、素晴らしい作品――そして素晴らしい人生――を生み出します。
一人でできることには限界があります。しかし、志を同じくする仲間と繋がり、お互いの物語を尊重し合えば、一人では決して到達できなかった高い場所(ハイツ)へ行くことができるのです。
4. 橋を架けること(Building Bridges)
今、世界は分断されているように見えるかもしれません。自分とは違う背景を持つ人を拒絶し、壁を作るのは簡単です。しかし、ストーリーテラーとしての私の使命は、その壁を壊し、橋を架けることです。
『イン・ザ・ハイツ』でも『ウィキッド』でも、私が描きたいのは「居場所を求める人々」の姿です。外見や話す言葉、住んでいる場所が違っても、愛されたい、認められたい、自由になりたいという願いは共通しています。
人生で最も大事なことの一つは、他者への「共感」を忘れないことです。
自分とは異なる物語を生きている人の声に耳を傾けてください。彼らの「歌」を聴こうとしてください。私たちが共通の感情で結ばれていることに気づいたとき、恐怖は消え、好奇心と愛が生まれます。私の映画を通じて、世界中の人々が「自分もこの物語の一部だ」と感じてくれること。それが私にとっての最大の成功です。
5. 次の世代へライトを当てる
最後に、私は「継承」の重要性についてお話ししたいと思います。
私が今この場所に立っていられるのは、道を切り拓いてくれた先人たちがいたからです。そして、私がカメラを回し続ける理由は、私の子供たち、そして世界中の子供たちが、スクリーンの中に「自分の可能性」を見出せるようにするためです。
あなたが手にした知恵、チャンス、光。それを自分だけのものにせず、次の誰かに手渡してください。「自分が去った後の世界を、来た時よりも少しだけ明るくすること」。これこそが、人間が成し遂げられる最も美しい仕事ではないでしょうか。
まとめ:あなたの人生という映画の監督として
人生は一度きりの長編映画です。
脚本を書くのはあなたであり、カメラを回すのも、主演を務めるのもあなたです。
- 自分の声を信じること
- 変化を魔法に変えること
- 仲間を大切にすること
- 他者と繋がる橋を架けること
- そして、光を繋ぐこと
これらが、ジョン・M・チュウという一人の人間が、これまでのカットの積み重ねの中で見つけた「人生で一番大事なこと」です。
あなたの人生が、色彩と音楽に溢れ、素晴らしい出会いに満ちた名作になることを、心から願っています。
さあ、準備はいいですか?
カメラ、アクション!