こんにちは。アルゼンチンのコルドバから、あなたに語りかけています。私はサンドラ・ディアス。科学者として、そしてこの地球という素晴らしい惑星に生きる一人の人間として、私の研究室やフィールドワークを通じて学んできたことをお話しできるのを嬉しく思います。
「人生で一番大事なことは何か」という問いは、一見すると個人的な問いに聞こえるかもしれません。しかし、私が長年、植物や生態系、そしてそれらと人間との関わりを研究してきた中で辿り着いた答えは、もっと広大な、そして密接に絡み合った世界観の中にあります。
私にとって、人生で最も大切なこと、それは「自分たちが『生命の織物(Tejido de la Vida)』の不可欠な一部であると深く理解し、そのつながりに対して誠実に生きること」です。
このことについて、私のこれまでの歩みと科学的な知見を交えながら、詳しくお話ししましょう。
1. 私たちは「生命の織物」の糸である
私はよく「生命の織物」という言葉を使います。英語では “Fabric of Life”、スペイン語では “Tejido de la Vida” と呼びます。この世界に存在するすべての生き物——目に見えない微生物から、空を突くような巨木、そして私たち人間まで——は、バラバラに存在しているのではありません。私たちは、何十億年もかけて編み上げられてきた、巨大で複雑なタペストリーの糸一本一本なのです。
人生において最も重要な気づきは、「人間は自然の上に君臨しているのではなく、自然の中に織り込まれている」という事実を受け入れることです。
多くの現代社会は、人間を自然から切り離し、自然を単なる「資源」や「背景」として扱ってきました。しかし、それは大きな誤解です。私たちの吸う空気、飲む水、食べるもの、そして心を癒やす風景のすべてが、他の生物たちの営みによって生み出されています。それらが損なわれれば、私たちの人生もまた、色あせ、脆くなってしまいます。
「自分は一人で生きているのではない。無数の生命との相互作用の中に生かされているのだ」という感覚を持つこと。これこそが、豊かな人生を送るための出発点だと私は信じています。
2. 多様性こそが「強さ」と「豊かさ」の源泉
私の研究の核心は「機能的多様性(Functional Diversity)」にあります。それは、単に種の種類が多いということだけでなく、それぞれの生物がどのような「役割」を担っているかという多様性です。背の高い植物、根を深く張る植物、乾燥に強い植物。それぞれが異なる個性(形質)を持っているからこそ、生態系は変化に対して柔軟に対応し、維持されるのです。
これは、私たちの人生や社会にもそのまま当てはまります。
人生において大事なのは、「違いを恐れるのではなく、多様性を祝福すること」です。画一的な成功や、たった一つの正解を追い求める必要はありません。自然界がそうであるように、システム全体の強さは、個々の違いが組み合わさることで生まれます。
私たちが直面している気候変動や生物多様性の危機に対して、私はIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)などの活動を通じて警鐘を鳴らしてきました。そこで学んだのは、自然を守ることは、単に特定の希少種を守ることではないということです。それは、私たちが生きていくための「選択肢」と「回復力(レジリエンス)」を守ることなのです。
多様性を失うことは、未来の可能性を閉ざすことです。自分の人生においても、そして社会の一員としても、異質なものを受け入れ、その多様性が織りなす豊かさを守ろうとする姿勢が、今ほど求められている時はありません。
3. 「所有」ではなく「関係性」に価値を置く
2025年にタイラー賞をいただいた際にもお話ししましたが、私たちが自然に対して抱くべきは、それを「いくらで売れるか」という経済的な価値観だけではありません。
人生で大事なのは、「どれだけ多くを所有したか」ではなく、「どれだけ豊かな関係性を築けたか」です。
これは人間関係に限ったことではありません。家の近くにある木、季節ごとに訪れる鳥、自分の食べる食べ物を育ててくれた土壌。それらとの間に敬意に基づいた関係を築くことです。アルゼンチンの先住民の方々は、自然を「共有財産」ではなく「親族」のように捉えることがあります。このような視点こそが、私たちが忘れてしまった大切な真理を突いています。
私たちが自然から恩恵を受ける(生態系サービス)とき、そこには感謝と返報の責任が伴います。奪うだけではなく、育み、戻すこと。この循環の中に身を置くことが、人生に深い意味と充足感をもたらしてくれます。
4. 科学と情熱を融合させ、行動すること
私は科学者です。データに基づき、客観的に世界を観察するのが仕事です。しかし、冷徹なデータだけでは世界を変えることはできません。そこに「情熱」と「倫理」が加わらなければならないのです。
人生で大事なことの四つ目は、「知ること、そして知ったことに責任を持って行動すること」です。
地球の現状を知れば、悲観的になることもあるでしょう。IPBESの報告書をまとめた際、100万種もの生物が絶滅の危機にあるという事実に、多くの人々が衝撃を受けました。しかし、知識は私たちを絶望させるためのものではなく、進むべき道を照らすためのものです。
私たちは今、「手遅れになる前に行動できる最後の世代」かもしれません。自分の専門知識を社会のために使い、政策を変え、人々の意識を変えるために声を上げること。それは科学者としての私の使命ですが、どのような立場の人であっても、自分の持ち場で「より良い未来」のために一歩踏み出すことは可能です。
小さな庭を豊かにすること、消費の選択を変えること、地域の自然保護に参加すること。それらすべての行動が、生命の織物を修復する一本の針目となります。
5. 未来の世代への「贈り物」としての人生
最後に、私たちが生きる時間は、地球の長い歴史の中ではほんの一瞬に過ぎません。しかし、その一瞬の積み重ねが未来を作ります。
人生で最も大事なことは、「自分が去った後の世界を、自分が来た時よりも少しだけ良く、あるいは少なくとも損なわないようにして次世代に手渡すこと」です。
私たちが今享受している多様な生命の輝きは、先代からの借り物です。それを未来の子どもたち、そしてまだ見ぬ生命たちに引き継ぐこと。この「世代を超えた連帯」こそが、個人の人生を超越した大きな喜びとなります。
まとめましょう。
人生で一番大事なこと。それは、あなたがこの広大な生命のネットワークの一員であることを自覚し、そのつながりを愛し、守り、育むことです。
- つながりを意識する: あなたは孤立した存在ではなく、地球という生命体の一部です。
- 多様性を尊ぶ: 違いこそが、生命を支える強さの源です。
- 関係性を深める: 所有する喜びよりも、つながり合う喜びを大切にしてください。
- 勇気を持って行動する: 知ることは、変化の始まりです。
私はコルドバの山々や植物たちを眺めながら、いつもその美しさと力強さに圧倒されます。それらは私に、謙虚であること、そして希望を捨てないことを教えてくれます。
あなたもぜひ、足元の土や頭上の葉、そして隣にいる人の中に、その「生命の織物」を感じてみてください。そのつながりの中にこそ、あなたが求めている「人生で最も大切なもの」の答えが隠されているはずです。
私たちは共に、この美しい織物の一部なのです。