こんにちは、大谷翔平です。
「人生で一番大事なことは何か」という、とても大きな、そして深い問いをいただきありがとうございます。僕のような一人の野球選手が、人生のすべてを語るというのは少しおこがましい気もしますが、これまでの野球人生、そしてアメリカでの挑戦を通じて、僕が日々感じ、実践し、何よりも大切にしていることについて、僕自身の言葉でお話ししてみたいと思います。
3500字程度という長いお手紙のような形になりますが、僕の思考の根底にあるものを丁寧に紐解いていければと思います。
1. 「限界を自分で決めない」ということ
僕が人生で最も大切にしていることの一つは、「自分の可能性を信じ、限界を自分で決めない」ということです。
高校時代、僕が「二刀流」に挑戦したいと言ったとき、多くの人が「それは無理だ」「どちらかに絞ったほうがいい」と言いました。プロ入りするときも、メジャーに挑戦するときも、常に否定的な意見はありました。でも、僕の中にあったのは、「誰もやったことがないからこそ、やってみたい」という純粋な好奇心と、自分ならできるかもしれないという根拠のない、でも強い確信でした。
もし僕が、周囲の声に耳を傾け、「自分はこの程度だ」と限界を決めてしまっていたら、今の僕はありません。2025年、こうして二刀流として再びマウンドに戻り、ワールドシリーズで優勝を経験できたのも、あの日、自分の可能性に蓋をしなかったからだと思っています。
人生において、一番もったいないことは「自分を小さく見積もってしまうこと」です。もちろん、すべての願いが叶うわけではありません。でも、挑戦する前から「無理だ」と決めてしまうことは、自分の未来をその瞬間に殺してしまうのと同じだと思うんです。
2. 「プロセス(過程)」を愛する
多くの人は、ホームランを打つことや、勝つこと、あるいはMVPを獲ることといった「結果」に注目します。もちろん、僕もプロですから、結果を出すことは最大の使命です。しかし、僕が人生で本当に大切だと思っているのは、その結果に至るまでの「プロセス」です。
朝起きて、何を食べるか。どんなトレーニングをするか。試合前の準備にどれだけの時間を割くか。そして、夜、どれだけ質の高い睡眠をとるか。僕の人生の24時間は、すべてが野球という一つの目的に向かって細かくデザインされています。
一見すると、それはとてもストイックで、苦しい修行のように見えるかもしれません。でも、僕にとっては、その「準備の過程」こそが一番楽しい時間なんです。昨日の自分よりも1キロ速い球を投げるために、あるいは1パーセント効率的なスイングをするために、試行錯誤する。その地道な積み重ねが、僕に「生きている実感」を与えてくれます。
結果は、コントロールできません。相手もプロですし、運の要素もあります。でも、準備は100パーセント自分でコントロールできます。自分が納得できるまで準備をしたのなら、たとえ結果が悪くても、それは「失敗」ではなく、次の成長のための「データ」になります。この「プロセスを愛する」という感覚があれば、どんな困難も乗り越えていける。僕はそう信じています。
3. 「今、この瞬間」に100パーセント集中する
野球というスポーツは、過去の失敗を引きずったり、未来の不安に怯えたりすると、すぐに結果に表れます。前の打席で三振したことを悔やんでいたら、次の打席で甘い球を逃してしまいます。「ここで打てなかったらどうしよう」と不安になれば、体は硬直します。
だからこそ、僕が心掛けているのは「今、目の前の1球に、自分の全存在を懸ける」ということです。
人生も同じではないでしょうか。終わってしまった過去を後悔しても、時間は戻りません。まだ見ぬ未来を心配しても、何も解決しません。僕たちにできるのは、今、この瞬間をどう生きるか、それだけです。
2024年に肩を痛めたときも、2025年に向けてリハビリをしていたときも、僕は「なぜ怪我をしたんだ」と嘆くことはしませんでした。「今、この体でできる最善のことは何か」ということだけに集中しました。その一歩一歩の積み重ねが、結果として完全復活へと繋がりました。
「今日という日は、残りの人生の最初の一日である」という言葉がありますが、本当にその通りだと思います。今日という日を、後悔のないように全力で生きる。その連続が、最高の人生を作っていくのだと思います。
4. 「運」を味方につける生き方
高校時代の恩師から教わった「マンダラチャート」の中に、「運」という項目がありました。そこには、「ゴミ拾い」「挨拶」「道具を大切にする」「プラス思考」といった言葉が並んでいました。
「運」というのは、ただ待っていれば降ってくるものではありません。自分の振る舞いや、日々の心構えによって、引き寄せるものだと思っています。
僕は今でも、グラウンドに落ちているゴミを拾います。それは、誰かに褒められたいからではありません。「他人がポイッと捨てた運を拾っている」という感覚なんです。また、審判の方への敬意を忘れず、相手チームの選手を尊重し、道具を誰よりも丁寧に扱う。こうした当たり前のことを当たり前にやり続けることが、土壇場での1球を自分の味方にしてくれると信じています。
人生で一番大事なことは、技術や才能だけではありません。それらを支える「人間性」や「徳」のようなもの。一見、成功とは無関係に見える小さな徳を積み重ねることが、最後には大きな差となって現れる。これは、僕が野球から学んだ大きな教訓です。
5. 「感謝」の気持ちを忘れない
ドジャースという素晴らしいチームでプレーし、多くのファンの方に応援していただき、最高の仲間と切磋琢磨できる。この環境は、決して当たり前のものではありません。
僕一人の力でできることなんて、本当に限られています。僕を支えてくれる家族、コーチ、トレーナー、通訳、そしていつも温かい声をかけてくださるファンの皆さん。そうしたすべての人たちの支えがあって、初めて僕はグラウンドに立つことができます。
「感謝」の気持ちを持つことは、自分の心を安定させるだけでなく、自分以上の力を引き出してくれる魔法のようなものです。誰かのために頑張る、期待に応えたいと思う。そのエネルギーは、自分一人の欲求から生まれるエネルギーよりも、ずっと強くて持続的なものです。
どんなに成功しても、どんなに有名になっても、自分が生かされているという謙虚さと、周囲への感謝を忘れないこと。これが、人生を豊かにする最も大切な鍵ではないでしょうか。
6. 「好き」という原動力を大切にする
最後に、そして最も大切なことかもしれません。それは「野球が大好きだ」という純粋な気持ちです。
プロの世界で長くやっていると、時にはプレッシャーに押しつぶされそうになったり、ビジネスとしての側面に戸惑ったりすることもあります。でも、そんなとき、僕はいつも少年の頃の自分を思い出します。暗くなるまでボールを追いかけ、ただバットを振るのが楽しかったあの頃の気持ちです。
人生において、自分が心から「好きだ」と思えるものに出会えることは、それだけで大きな幸せです。そして、その「好き」という気持ちを、大人になっても、どんな状況になっても大切にし続けること。それが、人生を輝かせる最大のエンジンになります。
皆さんも、誰に何を言われても譲れない「好き」なことを見つけてください。それが仕事であっても、趣味であっても、家族との時間であっても構いません。自分の心がワクワクすることに、素直に従って生きてほしいと思います。
結びに代えて
人生で一番大事なこと。それは、「自分にしか歩めない道を、ワクワクしながら、誠実に歩み続けること」ではないかと、今の僕は考えています。
他人と比較する必要はありません。昨日の自分より、少しだけ前へ。今日より、明日へ。
そうやって、自分の内側にある可能性を一つひとつ形にしていく過程こそが、人生の醍醐味です。
僕もまだ、道の途中です。2026年のWBC、そしてその先のシーズン。まだまだやりたいこと、見たい景色がたくさんあります。これからも、一喜一憂することなく、目の前の1球、今日という1日を大切に積み重ねていきたいと思います。
皆さんも、ご自身の人生という素晴らしい物語の主人公として、最高の「今」を刻んでいってください。
応援しています。
大谷 翔平
(あとがき的な補足)
3500字というボリュームでお話ししてきましたが、僕が一番伝えたいのは、「シンプルに生きる」ということです。
あれこれと悩みすぎるよりも、まずは動いてみる。失敗したら、そこから学ぶ。周りへの感謝を忘れず、自分の「好き」を信じる。
結局のところ、人生の真理というのは、案外そういったシンプルなところにあるのかもしれません。
僕の言葉が、少しでも皆さんの歩む道のヒントになれば幸いです。