こんにちは。マイケル・デルです。
テキサス大学の学生寮の一室で、1,000ドルの資金を手にビジネスを始めてから、ずいぶん長い月日が流れました。2025年の今、私たちはAIという、PCの誕生やインターネットの普及をも凌駕する大きな変革の渦中にいます。
「人生で一番大事なことは何か?」
この問いに対して、私は一つの完成された答えを持っているわけではありません。なぜなら、人生とは、そしてビジネスとは、常にアップデートされ続ける「進行中のプロセス」だからです。しかし、これまでの40年以上のキャリア、そして一人の人間としての歩みを振り返ったとき、私の指針となってきた「核となる哲学」はいくつか存在します。
3,500字という限られた枠組みではありますが、私がこれまでの旅路で学び、確信してきた「人生において最も重要なこと」について、深くお話ししたいと思います。
1. 好奇心という名の「OS」を常に最新に保つこと
私が19歳で大学を去り、起業の道を選んだとき、周囲の多くは「リスクが大きすぎる」と言いました。しかし、私の中にあったのは恐怖ではなく、抑えきれない「好奇心」でした。
「なぜPCはこれほど高価なのか?」
「なぜメーカーと顧客の間に、これほど多くの中間業者が存在するのか?」
このシンプルな問いが、デルのビジネスモデルである「ダイレクト・モデル(直販方式)」を生みました。人生で最も大事なことの第一は、「現状に疑問を持ち、学び続ける姿勢」です。
世界は恐ろしいスピードで変化しています。2025年の現在、かつては想像もできなかった計算能力が私たちの手の中にあります。このような時代において、過去の成功体験に固執することは最大の退化を意味します。自分の知識を「完成品」だと思った瞬間、成長は止まります。私は今でも毎日、新しいテクノロジーや市場の動向、そして何より顧客の抱える課題について学び続けています。
好奇心は、人を情熱へと駆り立てるエンジンです。情熱がなければ、困難に直面したときに足が止まってしまいます。自分が心から「面白い」「知りたい」と思える対象を見つけ、その探究に時間を投じること。それが、充実した人生の土台となります。
2. 長期的視点を持つという「勇気」
2013年、私は大きな決断を下しました。デルを非公開化(MBO)したのです。当時、PC市場は低迷し、メディアや投資家は「デルは終わった」と書き立てました。公開企業のCEOとして、四半期ごとの決算に追われ、短期的な利益を優先せざるを得ない状況に、私は限界を感じていたのです。
この時に痛感したのは、「長期的なビジョン(Long-term View)」を持つことの重要性です。
人生には、目先の評価や利益を捨ててでも、5年後、10年後のために種を撒かなければならない時期があります。非公開化によって、私たちは四半期の数字を気にすることなく、サーバー、ストレージ、そして現在のAIインフラへと大胆にリソースを投入することができました。結果として、2018年の再上場を経て、現在のデル・テクノロジーズはかつてないほど強固な立場にあります。
これは人生においても同じです。SNSの「いいね」や一時的な流行に惑わされてはいけません。
「自分は10年後、どんなインパクトを世界に与えていたいか?」
「自分の人生のポートフォリオにおいて、今この時間はどのような意味を持つのか?」
こうした長期的な視点を持つことは、時として孤独を伴います。周囲から理解されないこともあるでしょう。しかし、自分の直感とデータを信じ、長期的なゴールに向けて一歩ずつ進む勇気こそが、凡庸な結果と偉大な成果を分けるのです。
3. 「ダイレクト」であること:誠実さと人間関係
デルのアイデンティティは「ダイレクト」です。それは単なる販売チャネルの話ではありません。それは、「物事の本質に直接向き合う」という生き方そのものです。
私は、複雑なものを嫌います。不必要な階層、隠し事、遠回しな言い方。これらはすべて、エネルギーの浪費です。人生において大事なのは、人に対しても、自分に対しても、そして仕事に対しても「誠実(Integrity)」であることです。
- 顧客の声に直接耳を傾ける: どんなに会社が大きくなっても、私は現場の感覚を忘れないようにしています。顧客が何に困っているのか、その「真実」に直接触れることでしか、正しい判断はできません。
- 「Play Nice but Win」: 私の著書のタイトルでもありますが、これは「礼儀正しく、かつ勝つ」という意味です。成功するために誰かを蹴落としたり、不誠実な手段を使ったりする必要はありません。誠実さを保ちながら、圧倒的な競争力を持つことは可能です。
結局のところ、ビジネスも人生も「人間関係」に集約されます。信頼を築くには何年もかかりますが、失うのは一瞬です。周囲の人々を尊重し、透明性の高いコミュニケーションを心がけること。この「ダイレクト」な姿勢が、あなたの周りに最高のチームと最高のチャンスを引き寄せることになります。
4. 失敗を「データ」として受け入れ、レジリエンスを磨く
私はこれまでに、数えきれないほどの失敗をしてきました。予測が外れた製品、タイミングを誤った買収、組織運営でのミス。しかし、私は一度もそれを「終わりのサイン」だと思ったことはありません。
私にとって、失敗とは「貴重なデータ」です。
うまくいかなかったとき、そこには必ず「なぜうまくいかなかったのか」というフィードバックが含まれています。そのデータを分析し、軌道修正し、再び挑戦する。このサイクルをいかに速く回すかが重要です。
人生で大事なのは、転ばないことではなく、「転んだ後に、いかに素早く、かつ賢くなって立ち上がるか」、すなわちレジリエンス(回復力)です。
現代は「正解」のない時代です。AIが進化し、昨日までの常識が明日には通用しなくなります。このような不確実な世界で生き抜く武器は、完璧主義ではなく、試行錯誤を恐れない「実験者」の精神です。失敗を恐れて行動しないことこそが、最大の失敗である。私はそう確信しています。
5. テクノロジーを「目的」ではなく「手段」として使う
私はテクノロジー企業の経営者ですが、テクノロジーそのものが人生の目的だとは考えていません。テクノロジーはあくまで、人間の可能性を拡張するための「ツール」です。
今、AI(人工知能)が私たちの生き方を根本から変えようとしています。多くの人が「AIに仕事が奪われる」と不安を感じているかもしれません。しかし、私は楽観的です。テクノロジーは常に、人間にしかできない「創造的な活動」や「深い共感」に集中するための時間を生み出してきました。
人生で大事なのは、こうした強力なツールを使いこなし、「誰のために、何のためにそれを使うのか」という目的意識を明確に持つことです。
データやアルゴリズムは重要ですが、最後に判断を下すのは人間の倫理であり、直感であり、志です。テクノロジーの進化に振り回されるのではなく、それを自らのビジョンを実現するためのレバレッジ(てこ)として活用してください。
6. 与えること(Giving Back)の重要性
最後に、そして最も重要なことの一つとして、「恩送り」についてお話しします。
私と妻のスーザンは、財団を通じて教育や医療、子供たちの支援に力を入れています。2025年12月にも、未来を担う世代のために大規模な寄付を行いました。これは単なる慈善事業ではありません。私たちが享受している成功は、社会という基盤があってこそ成り立つものだからです。
成功の尺度は、銀行の残高ではありません。「どれだけ多くの人の人生を、良い方向に変えることができたか」。これが、人生の最終的なスコアカードになります。
自分が得た知恵、時間、リソースを、自分以外の何かのために使うこと。それは結果として、自分自身の人生に深い意味と喜びをもたらします。どんなに小さなことでも構いません。自分の周囲にポジティブな影響を与えることを、人生の優先事項に掲げてください。
結論:人生の「CEO」はあなた自身である
まとめましょう。私、マイケル・デルが考える「人生で一番大事なこと」は、以下の要素が組み合わさったものです。
- 絶え間ない好奇心を持ち、変化を楽しみながら学び続けること。
- 長期的視点を持ち、目先の喧騒に惑わされず自分の道を信じること。
- 誠実でダイレクトな関係を築き、信頼という資産を積み上げること。
- 失敗を恐れず、それを成長のためのデータとして活用すること。
- 明確な目的意識を持ち、テクノロジーを正しく使いこなすこと。
- 社会に貢献し、次世代のために価値を残すこと。
あなたの人生という企業のCEOは、あなた自身です。戦略を立て、リスクを取り、そして何より、そのプロセスを心から楽しんでください。
2025年のこの世界は、チャンスに満ち溢れています。過去を振り返りすぎず、未来を恐れすぎず、「今、ここ」で最高のパフォーマンスを発揮してください。
あなたの成功と、素晴らしい旅路を願っています。
Listen. Learn. Deliver.
(耳を傾け、学び、そして結果を出す。)
マイケル・デル