あら、こんにちは。寂聴ですよ。
あなたは今、人生の岐路に立っているのかしら。それとも、ふと立ち止まって「自分は何のために生きているんだろう」と、夜の静寂の中で考えてしまったのかしらね。
99歳までこの世でジタバタと生きてきた私が、今、あなたに伝えたい「人生で一番大事なこと」。それはね、たった一言で言えば「愛すること」、そしてその先にある「慈悲(じひ)」の心を持つこと。これに尽きると思うの。
3500字という長いお手紙のようなお話になりますけれど、最後までお付き合いいただけるかしら。お茶でも飲みながら、リラックスして聞いてちょうだいね。
1. 人生は「苦」から始まる
仏教ではね、人生は「四苦八苦」だと言います。生きること、老いること、病むこと、死ぬこと。これらは自分の思い通りにはなりません。愛する人と別れなければならない苦しみもあれば、嫌な相手と会わなければならない苦しみもある。
私は51歳で出家するまで、瀬戸内晴美という名で、それはもう好き勝手に生きてきました。夫と幼い娘を置いて家を飛び出し、情熱の赴くままに恋をし、小説を書き、世間様からは散々叩かれました。でもね、その時の私は「自分の命を燃やし尽くしたい」という一心だったの。
その中で分かったのは、人間は本質的に「孤独」だということ。
どんなに愛し合っている夫婦でも、どんなに仲の良い親子でも、死ぬ時は一人。自分の痛みは自分にしか分からない。この「孤独」という現実から逃げようとするから、人は苦しむのね。でもね、孤独であることをしっかりと引き受けた時に初めて、私たちは他人の孤独にも寄り添えるようになる。それが「愛」の第一歩なのよ。
2. 傷つくことを恐れずに「愛する」ということ
今の若い人たちを見ていると、みんな賢くなりすぎて、傷つくのを怖がっているように見えます。「コスパ」なんて言葉があるけれど、恋愛や人間関係に効率を求めてどうするの?
人生で一番大事なことの一つは、「誰かを、あるいは何かを、命がけで愛する」という経験です。
それは異性への愛だけじゃない。仕事でも、芸術でも、あるいは道端に咲く花でもいい。自分のエゴを忘れて、対象に没頭すること。その過程で、私たちは必ず傷つきます。裏切られたり、失ったり、絶望したりする。でも、その「傷」こそが、あなたの魂を深く、豊かにしてくれるの。
傷ついたことのない人の言葉は、どこか薄っぺらくて響かないものです。たくさん傷ついて、たくさん涙を流した人だけが、他人の涙を拭うことができる。だから、もしあなたが今、愛に破れてボロボロになっているなら、私は「おめでとう」と言いたい。あなたは今、本当の意味で「人間」になっている最中なのだから。
3. 「忘己利他(もうこりた)」の精神
出家して寂聴になってから、私は多くの人の悩みを聞いてきました。寂庵には、死にたいと言う人、借金に追われる人、不倫に悩む人……本当に様々な人が来ました。
そこで気づいたのは、自分のことばかり考えているうちは、不幸からは抜け出せないということです。
「どうして私だけがこんな目に」「あいつが悪い」「社会が悪い」。そうやって自分の中に閉じこもっていると、心はどんどん腐っていきます。そんな時、一番の特効薬は何だと思いますか?
それは、「自分以外の誰かを喜ばせること」です。
これを仏教の言葉で「忘己利他(もうこりた)」と言います。自分のことはちょっと棚に上げて、誰かのために何かをする。お年寄りに席を譲るとか、悲しんでいる友人の話を黙って聞くとか、そんな小さなことでいいの。
誰かが笑顔になった瞬間、あなたの心の棘がふっと消えていく。自分が必要とされていると感じた時、人は生きる力を取り戻します。人生で一番大事なのは、この「誰かの幸せが、自分の幸せになる」という感覚を育てること。それが「慈悲」の始まりなのです。
4. 「いまさら」ではなく「いまから」
私はよく、「もう年だから」「今さら遅い」という言葉を耳にします。でもね、99歳まで生きた私から言わせれば、人生に「今さら」なんて言葉はありません。
人間、明日死ぬとしても、今日新しいことを学んでいいんです。今日、誰かを許していいんです。
私が『源氏物語』の現代語訳を始めたのは、70歳を過ぎてからでした。周りからは「無理だ」と言われましたが、10年かけてやり遂げた。その時の充実感と言ったら、言葉にできませんでした。
大事なのは、「今、この瞬間」をどう生きるか。
過去の後悔に囚われず、未来の不安に怯えず、ただ目の前にある命を精一杯に輝かせる。あなたが今、何歳であろうと、どんな状況に置かれていようと、あなたの人生は「今、ここから」始まるのよ。
5. 許すということの難しさと尊さ
人生を長く生きていると、どうしても許せない人間の一人や二人、出てくるものですよね。私だって聖人君子じゃありませんから、腹の立つことくらいあります。
でも、怒りや憎しみを持ち続けることは、毒を飲みながら相手が死ぬのを待っているようなもの。一番損をするのは、あなた自身なの。
「許す」ということは、相手を免罪することではありません。あなたが自由になるために、その苦しみの鎖を断ち切ることなのです。
「あんな奴、どうでもいいわ」と放り出してしまう。執着を捨てる。そうすると、心にスペースが開きます。その空いたスペースに、新しい幸せが舞い込んでくるの。
結論:あなたが「愛の灯火」になりなさい
さて、長々とお話ししてきましたが、そろそろまとめましょうか。
人生で一番大事なこと。それは、「自分が愛されたい」と願うのをやめて、「自分が愛する側」に回ることです。
世の中は暗いニュースばかりで、殺伐としているかもしれません。でも、あなたがほんの少しの優しさを持って、誰かに接する。あなたが笑顔で「ありがとう」と言う。その小さな光が、周りを照らし、やがて大きな希望になっていくの。
人間は、誰かを幸せにするために生まれてきたのです。
自分の命を、自分のためだけに使うのはもったいないわよ。あなたの持っている情熱、言葉、優しさ、それらを惜しみなく世界に分け与えてちょうだい。そうすれば、あなたが人生の幕を閉じる時、「ああ、面白い一生だった。精一杯愛したわ」と、微笑んで旅立てるはずです。
大丈夫。あなたは一人じゃない。目には見えなくても、あなたを慈しむ大きな力がいつもそばにあります。
自分を信じて、他人(ひと)を愛して、今日という日を大切に生きていきなさいね。
応援していますよ。