こんにちは。原田知世です。
「人生で一番大事なことは何ですか?」という、とても深くて、それでいて素敵な問いかけをありがとうございます。
窓から差し込む柔らかな光を感じながら、これまでの自分の歩みをゆっくりと振り返ってみました。14歳でデビューしてから、映画やドラマ、そして音楽という表現の世界で、本当に多くの時間を過ごさせていただきました。その時々で、大切にしたいと思うものは少しずつ形を変えてきたような気がします。
でも、今の私が行き着いた、たった一つの答え。
それは、「自分の心に、嘘をつかない透明な時間を積み重ねること」。そして、「日常の中にある小さな幸せに、丁寧に出会い続けること」です。
3,500字という長いお手紙のようなこの場所をお借りして、私がなぜそう思うようになったのか、私なりの言葉でお話しさせていただきますね。
1. 「透明であること」の美しさと勇気
私はよく、周りの方から「透明感がありますね」という言葉をいただくことがあります。それは俳優として、あるいは一人の女性として、最高の褒め言葉だと受け止めています。けれど、その「透明感」というものは、決して何もしないで得られるものではないとも感じているのです。
10代の頃、映画『時をかける少女』で皆さんに知っていただいた時、私はまだ、自分というものが何なのかも分からないまま、大きな流れの中にいました。目の前のことに一生懸命取り組む日々。でも、年齢を重ねるにつれて気づいたのは、「何かに染まること」よりも「自分自身の透明さを保つこと」の方が、ずっと勇気が必要だということです。
透明であるということは、空っぽであるということではありません。むしろ、自分の中にある感情、例えば喜びや悲しみ、時には不安や迷いさえも、否定せずにそのまま受け入れる。濁らせずに、濾過(ろか)していくような作業です。
人生には、どうしても自分を飾りたくなったり、誰かの期待に応えようとして無理をしてしまったりする瞬間がありますよね。でも、心が曇ったままでは、本当に美しいものを見分けることができなくなってしまいます。
「今、私は心地よいと感じているかな?」
「この言葉は、私の本当の心の音かな?」
そうやって、自分の心に静かに問いかけること。その誠実さの積み重ねが、人生の質を決めていくのではないかと思うのです。
2. 音楽が教えてくれた「余白」の大切さ
私の人生にとって、音楽は演技と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な場所です。特に、プロデューサーの伊藤ゴローさんと作る音楽や、これまでの素晴らしいミュージシャンとの出会いは、私の価値観を大きく広げてくれました。
音楽において、音符と同じくらい大切なのは「休符」、つまり「間(ま)」や「余白」です。ぎっしりと音が詰まっているだけでは、音楽は呼吸を忘れてしまいます。人生もそれと同じではないでしょうか。
私たちは、つい「何かを達成しなきゃ」「もっと成長しなきゃ」と、スケジュールや目標で人生を埋め尽くそうとしてしまいます。でも、本当に大切なインスピレーションや、自分を癒やす優しさは、その「余白」から生まれるものです。
私は、何も予定のない午後に、一杯のコーヒーを丁寧に淹れて、湯気が立ち上るのを眺めている時間が大好きです。あるいは、ただ窓の外の木々が風に揺れている音を聴いている時間。
そんな、一見「何の意味もないような時間」こそが、心の澱(おり)を流し、また明日を新鮮な気持ちで迎えるためのエネルギーを与えてくれます。
「何もしない時間」を自分に許してあげること。それは、自分を愛することの第一歩かもしれません。
3. 「今、この瞬間」という贈りもの
俳優という仕事は、役として誰かの人生を生きることです。けれど、どれほど素晴らしい役を演じても、カメラが止まれば、私は一人の原田知世に戻ります。その時に、自分の足がしっかりと地面についている感覚、つまり「生活者としての自分」を大切にしたいと常に思っています。
若い頃は、どうしても遠い未来の成功や、過ぎ去った過去の失敗に心が奪われがちでした。でも、今の私は、「今、ここ」にしかないものに、より強い輝きを感じます。
例えば、朝起きた時のひんやりとした空気の感触。
スーパーで見つけた、旬の果物の鮮やかな色。
友人との何気ない会話の中でこぼれた、心からの笑い声。
これらはすべて、その瞬間にしか存在しない「ギフト」です。人生は、こうした刹那の集積です。遠くにある大きな幸せを追い求めるのもいいけれど、足元に咲いている名もなき花に気づける感性を持っていたい。
「人生で一番大事なこと」は、何か特別なイベントの中にあるのではなく、こうした日々の暮らしの細部に宿っているのだと確信しています。
4. 変化を恐れず、しなやかに重ねる
時が経てば、私たちの外見も、置かれる環境も変わっていきます。それを「衰え」と捉えるか、「深み」と捉えるかで、人生の景色は全く違ったものになります。
私は、今の自分の年齢がとても気に入っています。若い頃のような瑞々しさとは違うけれど、経験を重ねたからこそ歌える歌があり、演じられる役がある。そして何より、自分自身との付き合い方が上手になってきました。
「変わっていくこと」を恐れず、むしろ楽しむこと。
それは、季節が巡るのを楽しむ感覚に似ています。春の桜も美しいけれど、秋の枯葉も、冬の静寂も、それぞれにかけがえのない情緒があります。
自分の変化に抗うのではなく、その時々の「自分らしさ」を面白がることができれば、人生はいつまでも新鮮な冒険であり続けます。
しなやかであること。それは、芯を持ちながらも、固執しないということです。自分はこうあるべきだという執着を少しずつ手放していくことで、心はもっと自由になれるはずです。
5. 優しさの循環の中で生きる
最後に、もう一つ大切にしていることがあります。それは、人との関わりにおいて「優しい温度」を忘れないことです。
私一人の力でできることなんて、本当に限られています。映画も、音楽も、舞台も、関わってくださるスタッフの皆さん、共演者の皆さん、そして何より応援してくださる皆さんの想いがあって初めて形になります。
誰かに優しくしてもらった時、その温もりは心に深く残りますよね。その温もりを、自分の中だけで止めず、また別の人へと繋いでいく。そんな、目には見えない「優しさの循環」の中に身を置いていたいのです。
それは、大きな慈善活動をすることだけではありません。
笑顔で挨拶をすること。
誰かの話を、心を込めて聴くこと。
丁寧な言葉を選ぶこと。
そうした小さな「優しさのしずく」を落としていくことで、波紋のように穏やかな世界が広がっていくのだと信じています。自分が発するエネルギーが、そのまま自分の住む世界の色を決めるのですから。
結びに代えて
人生で一番大事なこと。
それは、特別な何者かになることではなく、「ありのままの自分」を愛し、丁寧に日々を慈しむことではないでしょうか。
たとえ、今日という日が思うようにいかない日だったとしても、夜に温かいお風呂に入り、清潔なシーツに身を包んで、「今日までよく頑張ったね」と自分に声をかけてあげてください。
自分を大切にできる人は、同じくらい他人のことも大切にできます。
澄んだ水のような心で、余白を楽しみ、今を生きる。
そんな生き方を、私はこれからも大切にしていきたいと思っています。
あなたの人生も、穏やかで美しい光に満ちたものでありますように。
遠くから、心からのエールを送ります。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
原田知世