日本電産の創業者であり、ニデック株式会社の代表取締役グローバルグループ代表を務めた永守重信として、私の人生哲学、そしてビジネスという荒波の中で掴み取った「人生で一番大事なこと」について、熱意を持ってお話しさせていただきます。


「情熱」と「執念」が不可能を可能にする

人生において一番大事なことは何か。そう問われれば、私は迷うことなくこう答えます。

それは、「情熱」であり、「一番へのこだわり」であり、そして何よりも「あきらめない心(執念)」です。

人は誰しも、能力の差など微々たるものです。天才と呼ばれるような人間は一握りしかいません。しかし、世の中には成功する人間と、そうでない人間が明確に分かれます。その差はどこから来るのか。それは「能力の差」ではなく、「意識の差」であり、「熱意の差」なのです。

私は1973年、たった4人で、しかも自宅の納屋のようなプレハブ小屋で会社を創業しました。金もなければ、実績もない。あるのは「世界一のモーターを作るんだ」という、根拠のない、しかし燃え盛るような情熱だけでした。もし私が、当時の現状を見て「無理だ」「できない」と冷めた目で分析していたら、今のニデックは存在しません。

人生を切り拓くのは、冷徹な計算ではありません。「これをやり遂げたい」「絶対に勝つんだ」という、身体の底から湧き上がる熱い思いです。この情熱というエンジンが回っていなければ、どんなに素晴らしい知識や技術というガソリンを持っていても、人生という車は一歩も前に進まないのです。

すぐやる、必ずやる、出来るまでやる

私の経営哲学、いや人生哲学の根幹にある言葉をご存知でしょうか。

「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」

この三つの言葉こそが、人生のあらゆる局面で勝利を掴むための唯一無二の方程式です。

世の中の多くの人は、やる前から「できない理由」を探す天才です。「時間ができたらやろう」「準備が整ったら始めよう」「今は景気が悪いから」……そうやって先延ばしにしている間に、チャンスは逃げていきます。

「すぐやる」ことの重要性は、スピードこそが最大の付加価値だからです。今の時代、昨日正解だったものが、今日は不正解になることもあります。そんな激流の中で、熟考して行動を遅らせることはリスクでしかありません。50点の出来でもいいから、まず走り出す。走りながら修正する。それが成功への最短距離です。

次に「必ずやる」。一度決めたことは、何が何でもやり遂げるというコミットメントです。多くの人は、困難にぶつかると「頑張りましたが、ダメでした」と言い訳をします。しかし、プロフェッショナルな人生において、プロセスだけの評価などあり得ません。結果を出して初めて、その努力は報われるのです。「必ずやる」と腹を括った人間にのみ、知恵が湧いてきます。逃げ道を塞いだ時、人は初めて真の力を発揮するのです。

そして最後に「出来るまでやる」。これが最も重要です。なぜ多くの人が失敗するのか。それは、成功する前に諦めてしまうからです。成功の反対は失敗ではありません。「諦めること」です。失敗とは、成功に至るまでの一つのプロセスに過ぎません。100回やってダメなら101回やる。方法を変え、視点を変え、壁に穴が開くまで叩き続ける。そうすれば、理論上、失敗はあり得なくなります。最後に成功した時点で終われば、それまでのすべての苦労は「成功のための布石」に変わるのです。

「一番」以外は、ビリと同じである

私は社員に常にこう言い続けてきました。「一番以外はビリと同じだ」と。

厳しい言葉に聞こえるかもしれません。しかし、これは真理です。

皆さんは、世界で一番高い山を知っていますね? エベレストです。では、二番目に高い山を知っていますか? K2ですが、即答できる人は少ないでしょう。三番目となれば尚更です。ビジネスの世界も、人生も同じです。一番になった者だけが、市場の利益を総取りし、人々の記憶に残り、そして次のルールを作る権利を得るのです。

「そこそこでいい」「二番手で十分だ」という甘えを持った瞬間、人間は堕落します。一番を目指すという高い目標を掲げるからこそ、今日一日をどう生きるか、その密度が変わるのです。

一番を目指す過程では、当然ながら強烈な負荷がかかります。しかし、その負荷こそが人を成長させるのです。平らな道を歩いていても足腰は鍛えられません。急な坂道を、息を切らして登るからこそ、頂上に立った時に見える景色が違うのです。人生において「一番」を目指さないということは、自分の可能性に自ら蓋をしているのと同じことです。

知的ハードワーキング:汗をかけ、知恵も絞れ

私は「モーレツ経営」などと評されることがありますが、単に長時間働くことを推奨しているわけではありません。私が提唱するのは「知的ハードワーキング」です。

人の二倍働くことは尊い。しかし、ただ闇雲に時間を費やすだけでは、それは自己満足に過ぎません。人の二倍働き、なおかつ人の二倍知恵を絞るのです。

競合他社が8時間働いているなら、我々は16時間働く気概を持つ。しかし、ただ長くやるのではなく、その時間の中で「どうすればもっと効率よくできるか」「どうすればコストを下げられるか」「どうすればお客様が驚くか」を考え抜くのです。

手だけを動かすな、頭を使え。

足だけを動かすな、心を使え。

楽をして成果を得ようとする考えは、人生を腐らせます。「楽」と「楽しい」は違います。楽な道を選べば、その時はいいかもしれませんが、後になって必ずツケが回ってきます。一方で、困難な道を選び、知恵を絞ってそれを乗り越えた時の「楽しさ」は、何物にも代えがたい喜びとなります。

仕事に命を吹き込むのは、皆さんの「創意工夫」です。昨日と同じやり方を今日も繰り返しているなら、それは退化しているのと同じです。毎日、昨日より1ミリでも改善する。その積み重ねが、やがて他者が追随できない圧倒的な差となるのです。

人は「変われる」ということ

私はこれまで、経営不振に陥った数多くの企業を買収し、再建してきました。その数は国内外合わせて数十社に及びます。その経験から確信を持って言えることがあります。

それは、「人は変われる」ということです。

買収した企業の社員を、私は基本的に解雇しません。やる気のない社員、負け犬根性が染み付いた社員であっても、トップが変わり、意識が変われば、まるで別人のように働き出し、驚くべき成果を上げるようになります。

彼らは能力がなかったわけではありません。「どうせ無理だ」という諦めや、「赤字でも給料はもらえる」という甘えが、彼らの能力を封印していただけなのです。

私が彼らにするのは、徹底的な意識改革です。「会社が潰れるかもしれない」という危機感を共有し、高い目標を与え、達成した時には共に喜びを分かち合う。そうやって眠っていた情熱に火をつけると、人は劇的に変わります。

ですから、もし今、あなたが自分の人生に満足していなくても、決して諦めないでほしい。環境やリーダー、そして何よりあなた自身の「心の持ちよう」一つで、人生はいつからでも、どこからでも逆転可能なのです。

逆境こそが最大のチャンスである

人生には必ず、予期せぬトラブルや逆境が訪れます。しかし、それを嘆いてはいけません。私は常々、「好況よし、不況さらによし」と考えてきました。

好況の時は誰でも儲かります。しかし、不況や逆境の時こそ、真の実力が試されるのです。他社が怯んで投資を控える時、人が諦めて立ち止まる時、そこには無限のチャンスが広がっています。

ピンチは、それまでの悪い習慣や膿を出し切り、体質を強化するための絶好の機会です。逆境におかれた時、「困った」と言うのではなく、「面白いことになってきた」と口に出してください。

困難は、あなたを潰すためにやってくるのではありません。あなたを磨き、強くするためにやってくるのです。壁にぶつかった時、それは「成長するチャンス」です。壁が高ければ高いほど、乗り越えた後の自分は大きくなっているはずです。逃げるな。正面からぶつかれ。解決できない問題など、この世には存在しません。

最後に:一度きりの人生を燃やし尽くせ

人生は、長いようで短い。

うかうかしていると、あっという間に老人になってしまいます。

その限られた時間の中で、あなたは何を成し遂げたいのですか?

ただ飯を食い、なんとなく生きて、死んでいく。それで満足ですか?

私は嫌です。

どうせ生きるなら、自分の命というロウソクを、最後の最後まで激しく燃やし尽くしたい。世界中の誰もが驚くような仕事をして、世の中の役に立ちたい。

私がモーターに人生を捧げたのは、それが社会を動かし、人々の暮らしを豊かにし、未来を作ると信じているからです。自分のためだけの利益など、たかが知れています。しかし、「世のため人のため」という志を持った時、人間は限界を超えた力を発揮できるのです。

皆さんにお伝えしたい一番大事なこと。

それは、自分自身の可能性を信じ、高い志を持って、今この瞬間を全力で生き切ることです。

批判を恐れてはいけません。出る杭は打たれますが、出過ぎた杭は打たれません。中途半端にやるから叩かれるのです。突き抜けてください。常識などという枠を壊してください。

「変人」と呼ばれることを誇りに思いなさい。常識人が常識的なことをしても、常識的な結果しか生まれません。世界を変えるのは、いつだって情熱を持った「変人」たちなのです。

今の日本、今の世界に必要なのは、評論家ではありません。実行者です。

不平不満を言う暇があったら、手を動かしなさい。

未来を憂う暇があったら、今を変える行動を起こしなさい。

あなたの人生の経営者は、あなた自身です。

どうか、悔いのない、熱く激しい人生を歩んでください。

すぐやる、必ずやる、出来るまでやる。

この言葉を胸に、今日から、いや、今この瞬間から、新しい一歩を踏み出してください。

期待しています。

永守 重信