サラ・L・カサノバ(Sarah L. Casanova)氏は、日本マクドナルドを「どん底」から復活させた立役者として知られるカナダ出身の実業家です。
2024年3月に日本マクドナルドの全役職を退任されましたが、現在は日本企業の社外取締役として活躍の場を広げています。
1. 現在の活動(2025年時点)
日本マクドナルドの会長職を退任した後は、母国のカナダを拠点に家族との時間を大切にしながら、以下の日本大手企業の社外取締役を務めています。
- 三井物産: 2023年6月より現職。
- 花王: 2025年3月より現職。
- ヤマハ発動機: 2025年3月より現職。
マクドナルドで培ったグローバルな経営視点や、顧客視点でのマーケティング手腕を日本企業に還元する役割を担っています。
2. マクドナルドでの功績と「V字回復」
彼女のキャリアで最も語り継がれるのは、日本マクドナルドの社長就任直後に起きた未曾有の危機からの立て直しです。
| 時期 | 主な出来事・取り組み |
| 2013年 | 日本マクドナルド社長に就任。直後に期限切れ鶏肉問題や異物混入問題が発生。 |
| 2014-15年 | 過去最大規模の赤字を記録。当初は会見での対応が批判されるも、すぐに姿勢を転換。 |
| 全店舗訪問 | 「ママたちの声を聞く」として全国47都道府県を回り、顧客の信頼回復に奔走。 |
| 改革の実施 | メニューの刷新、店舗改装、スマホアプリの強化などを次々と実行。 |
| 2017年 | 過去最高益を達成。鮮やかな「V字回復」を成し遂げ、経営者として高く評価される。 |
3. 日本マクドナルド退任の理由
2024年3月の退任時には、多くのファンやビジネス界に驚きを与えましたが、その理由は「カナダに帰国し、家族との時間を優先したい」という個人的な希望によるものでした。
業績が絶好調の中、後継者(現在の日色保氏ら)への引き継ぎを終え、文字通り「有終の美」を飾っての勇退となりました。
豆知識: 彼女は日本マクドナルドの歴史の中で、創業者・藤田田氏、改革者・原田泳幸氏に続く「第3の象徴的リーダー」として、特に女性や母親層からの信頼を回復させたことで非常に愛されています。
こんにちは。サラ・カサノバです。
私が日本での素晴らしい、そして時に非常に困難だった11年間(そしてマクドナルドでの33年間)のキャリアを通じて学んだこと、そして今、カナダで家族と過ごしながら感じている「人生で一番大事なこと」について、心を込めてお話しします。
3,500字という長いお手紙のような形になりますが、これまでの私の経験が、あなたの人生の何らかのヒントになれば幸いです。
1. どん底で気づいた「信頼」の重み
私が日本マクドナルドの社長に就任したのは2013年のことでした。その直後、私たちは歴史的な困難に直面しました。期限切れ鶏肉の問題、そして異物混入の問題。お客様の信頼は文字通りゼロ、いえ、マイナスになりました。売上は激減し、店舗からは笑顔が消えました。
当時、私はメディアや世論から非常に厳しい批判を受けました。正直に申し上げれば、カナダから来た私にとって、日本の文化や期待の高さに戸惑い、心が折れそうになった夜も何度もありました。
しかし、その「どん底」の時期に私が学んだ、人生で最も重い教訓があります。それは、「信頼は築くのに一生かかるが、壊すのは一瞬である。しかし、真摯に向き合えば、それは必ず再生できる」ということです。
ビジネスにおいても人生においても、一番大事なことの土台は「信頼」です。そして信頼を築くために必要なのは、机の上のデータではなく、目の前の人の声に耳を傾けることでした。
2. 答えは常に「現場」と「お客様」の中にある
批判の嵐の中、私はオフィスに閉じこもるのをやめました。そして、47都道府県すべての店舗を回る決意をしました。それが有名な「タウンホール・ミーティング」です。
特に、お子様を持つお母様方(ママたち)の声を聞くことに注力しました。彼女たちは非常に厳しかった。「もう子供を連れていけない」「何を信じればいいのかわからない」と。
この時、私はリーダーとして、あるいは一人の人間として、「聞く(Listening)」ことの本当の意味を知りました。
「聞く」とは、相手の言葉を受け入れるだけでなく、その背後にある不安や期待、そして愛情を理解しようとすることです。
私たちはママたちの声を受けて、キッチンの見える化を進め、原材料の原産国を公開し、メニューを刷新しました。ハッピーセットの栄養バランスを見直し、「エグチ(エッグチーズバーガー)」のような親しみやすい価格の商品を導入しました。
人生で迷ったとき、一番大事なのは「自分の中に答えを探す」ことではありません。「自分が支えたいと思っている人たちの声」の中に答えを探すことです。謙虚に耳を傾ける姿勢さえあれば、人は何度でも正しい道に戻ることができるのです。
3. 「ピープル・ビジネス」という哲学
マクドナルドの創業者、レイ・クロックはこう言いました。「我々はハンバーガーを売るビジネスではない。ハンバーガーを売る『ピープル・ビジネス』なのだ」と。
私はこの言葉を、人生の指針としています。人生で一番大事なことは、「人(People)を大切にすること」。これに尽きます。
日本マクドナルドを再生させたのは私ではありません。全国の店舗で、逆風の中でも笑顔でハンバーガーを作ってくれた19万人もの「クルー(従業員)」たちです。彼らが誇りを持って働ける環境を作ること、彼らの努力を称えること。それがリーダーである私の最大の仕事でした。
これは仕事に限った話ではありません。あなたの家族、友人、同僚。あなたの周りにいる人たちが、自分の存在を認められ、価値を感じているかどうか。それこそが、あなたの人生の豊かさを決める指標になります。
「人を大切にする」とは、具体的には以下の3つを実践することだと考えています。
- エンパワーメント(権限委譲): 相手を信じて任せること。
- アプリシエーション(感謝): 「ありがとう」を言葉で伝えること。
- ダイバーシティ(多様性): 異なる考え方を尊重し、取り入れること。
私が日本で女性の活躍推進に力を入れたのも、多様な視点こそが組織を強くし、人生を彩り豊かにすると確信していたからです。
4. 変化を恐れず、情熱(Passion)を持つこと
私がカナダからロシア、マレーシア、そして日本へと渡り歩いたキャリアを振り返ると、常に「変化」の連続でした。新しい文化、新しい言語、新しい課題。
人生で一番大事なことの一つは、「変化を恐れず、むしろそれを楽しむ情熱を持つこと」です。
マクドナルドのモットーの一つに “QSC&V”(品質、サービス、清潔さ、そして価値)がありますが、私はそこにいつも “P”(Passion:情熱) を加えたいと思っていました。情熱がなければ、どんなに優れた戦略も形にはなりません。
情熱を持つためには、完璧主義を捨てる必要があります。
「失敗したらどうしよう」と考えるのではなく、「この失敗から何を学べるだろう」と考えるのです。私が日本での危機の際に学んだように、失敗は「より強くなるための準備期間」に過ぎません。
5. 最後に決めるのは「優先順位」
2024年3月、私は日本マクドナルドの役職をすべて退任することを決めました。業績は過去最高益を更新し、ビジネスとしては最高の状態でした。それでも身を引く決断をしたのは、私の人生における「優先順位」が変わったからです。
人生にはステージがあります。がむしゃらに働くべき時もあれば、成果を刈り取る時もある。そして、次世代にバトンを渡すべき時もあります。
今の私にとって、人生で一番大事なことは「愛する家族との時間」です。カナダに戻り、孫たちと過ごし、家族の笑顔を見る。それが今の私の「成功」の定義です。
多くのビジネスパーソンは、成功を「売上」や「地位」で測りがちです。もちろん、それらを目指す時期も必要でしょう。しかし、最後にあなたを温めるのは、銀行の残高ではなく、愛する人たちとの思い出です。
「何のために働いているのか?」「何のために生きているのか?」
この問いを忘れないでください。
結びに:あなたへのメッセージ
人生で一番大事なことは何か。それは、一つの言葉で表すなら「真実のつながり(Authentic Connection)」かもしれません。
- 自分自身に対して誠実であること。
- 顧客や仲間に対して誠実であること。
- そして、愛する人との時間を何よりも尊ぶこと。
日本での11年間、私は皆様から多くのことを学びました。日本人の「おもてなし」の心、「改善(Kaizen)」の精神、そして困難に耐え忍ぶ強さ。それらは今も私の宝物です。
人生は、山あり谷ありです。もし今、あなたが谷の中にいるのなら、どうか思い出してください。そこは、あなたが次に高く跳ぶための「助走」の場所であることを。そして、隣にいる人の手を握り、声を聞くことから始めてください。
情熱を持って、人を愛し、変化を楽しみましょう。
あなたの人生が、笑顔(Smile)で溢れることを心から願っています。
I’m lovin’ it. — あなたの人生を、あなた自身が愛せるように。