弁護士の西中務(にしなか つとむ)でございます。

50年以上にわたり、弁護士として9万件を超える法律相談を受け、数え切れないほどの「人の争い」の現場に立ち会ってまいりました。金銭の貸し借り、遺産相続、離婚、会社の倒産、解雇……。法律事務所の扉を叩く方々は皆、悩み、怒り、そして深い悲しみを抱えていらっしゃいます。

その半世紀に及ぶ経験の中で、私が確信に至った「人生で一番大事なこと」。

それは、「徳を積み、恩を忘れず、争わない生き方をすること」です。

なぜ、一見すると法律家の仕事とは矛盾するような「争わないこと」が重要なのか。そして、どうすれば運を味方につけ、幸福な人生を全うできるのか。私の見てきた「事実」に基づき、お話しさせていただきます。


1. 争いは、勝っても負けても「損」をする

私は弁護士として、依頼人の利益を守るために戦うのが仕事です。しかし、あえて申し上げます。「争い」は、人生において最大の浪費です。

多くの人は、裁判で勝てば幸せになれると思っています。しかし、現実は違います。裁判には膨大な時間と費用、そして何より精神的なエネルギーがかかります。相手を憎み、過去の出来事に執着し、心をすり減らす日々は、あなたの人生から「笑顔」と「運気」を奪い去ります。

たとえ判決で勝ったとしても、相手からの恨みを買えば、それは新たな不幸の種となります。遺産相続で骨肉の争いを繰り広げ、数千万円を手にしたとしても、兄弟姉妹の縁が切れ、親戚中から後ろ指を指され、孤独な老後を送ることになった人を、私は何人も見てきました。

「裁判沙汰」になる時点で、実は双方がすでに何かを失っているのです。

一番賢い生き方は、法律を使わずに済む生き方、つまり「争いにならない人間関係」を日頃から築いておくことです。

「損して得取れ」という言葉がありますが、私の経験則では「争うだけ損」です。目先の利益やプライドのために争うのではなく、一歩引いて譲る勇気を持つこと。それが、結果として大きな信用と財産を守ることにつながります。

2. 「運」とは、積んできた「徳」の現れである

私は、人生には人知を超えた「運」の力が働いていると確信しています。

弁護士として多くの企業の栄枯盛衰を見てきましたが、能力も努力も同じような経営者でも、不思議と成功し続ける人と、坂道を転げ落ちるように没落する人がいます。

その違いは何か。それは「徳」があるかどうかです。

運というのは、空からランダムに降ってくるものではありません。運とは、その人が過去に行ってきた「良い行い」の集積、いわば「徳の貯金」に対する利息のようなものです。

私はこれを「運の銀行口座」と呼んでいます。

人に親切にする、困っている人を助ける、社会のために尽くす。こうした行為は、運の口座への「預金」です。逆に、人を騙す、自分だけが得をしようとする、傲慢に振る舞う。これは「引き出し(借金)」です。

運が良い人というのは、知らず知らずのうちに、この「徳の預金」をたくさんしている人なのです。

特に私が重要視しているのが「陰徳(いんとく)」です。

誰にも見られないところで、ゴミを拾う。誰も見ていないところで、同僚の仕事をサポートする。トイレの履き物を揃える。

人から賞賛されることを期待せず、ひっそりと良い行いを積み重ねる。この「陰徳」こそが、最も高利回りで運の口座に貯蓄され、ここぞという時にあなたを救ってくれるのです。

3. 「お陰様」の心を忘れた時、人は没落する

私が担当した倒産案件の経営者たちには、ある共通点がありました。

それは、成功の絶頂期に「感謝」を忘れ、「傲慢」になっていたことです。

事業がうまくいき始めると、多くの人は「これは自分の才能だ」「俺の努力の結果だ」と勘違いを始めます。社員を怒鳴り散らし、下請け業者を叩き、贅沢な暮らしをひけらかす。

しかし、どんな天才でも、一人で成功することはできません。そこには必ず、支えてくれた家族、協力してくれた社員、商品を買ってくれたお客様、そして見えない「運」の助けがあったはずです。

「お陰様(おかげさま)」という言葉の重みを忘れた時、人生の歯車は狂い始めます。

以前、ある地主の方が遺産相続の相談に来られました。先代からの広大な土地を持ち、裕福な暮らしをしていましたが、彼は「この土地は俺のものだ」と主張し、長年尽くしてくれた親族や小作人の方々を冷遇していました。結果、彼は周囲から孤立し、晩年は詐欺に遭い、多くの財産を失いました。

一方で、さほど大きくない商店の店主でありながら、常に「お客さんのおかげ、問屋さんのおかげ」と頭を下げ、地域のために尽くしていた方は、不況の波が来ても不思議と誰かが助けてくれ、店を畳むことなく子供たちに立派に引き継ぎました。

感謝の心がないところに、運は留まりません。

今の自分があるのは、誰かのおかげ。そう心から思える謙虚さこそが、最強の防衛策なのです。

4. 運を良くするための具体的な実践

では、具体的に何をすればよいのでしょうか。私が推奨するのは、非常にシンプルで、誰にでもできることです。しかし、これを「続ける」ことができる人は稀です。

① 自分から挨拶をする

挨拶は、人間関係の基本であり、相手の心を開く魔法です。相手からされるのを待つのではなく、自分から笑顔で「おはようございます」「ありがとうございます」と言う。これだけで、敵が味方に変わります。

② 頼まれごとは、試されごと

人から何かを頼まれた時、嫌な顔をせず、相手の予想を少し上回る形で返してあげること。これが信頼を生み、次のチャンス(運)を運びます。

③ 常に「上機嫌」でいること

不機嫌は伝染します。そして、不機嫌な人の周りからは、良い人も良い情報も逃げていきます。辛い時こそ、口角を上げて笑う。無理にでも上機嫌で振る舞うことで、運気は好転します。

④ 先祖や親を大切にする

これは迷信めいて聞こえるかもしれませんが、何万人もの人生を見てきた私の実感です。親や先祖を粗末にする人で、長く繁栄した人を見たことがありません。私たちの命は、数え切れないほどの先祖の命のリレーがあって初めてここに存在します。その根源に感謝できない人が、他人から感謝されるはずがないのです。

5. 人生で一番大事なこと:結論

長い弁護士人生を通じて、私は多くの人の「最期」に関わってきました。

莫大な財産を残して亡くなったのに、相続争いで骨肉の争いになり、誰からも惜しまれずに送られる人がいます。

一方で、財産は少なくとも、多くの友人や家族に囲まれ、「あの人がいてくれて本当に良かった」「ありがとう」と涙ながらに見送られる人がいます。

どちらが幸せな人生でしょうか。答えは明白です。

人生で一番大事なこと。それは、「人からどれだけ感謝されたか」、そして自分自身が「どれだけ感謝の心を持って生きられたか」です。

金や地位や名誉は、あの世には持っていけません。

しかし、あなたが誰かに与えた優しさ、誰かを救った言葉、積み重ねた「徳」は、あなたの死後も、残された人々の心の中で生き続け、あなたの子孫を守る光となります。

どうか、目先の損得に惑わされないでください。

「自分が正しい」と主張して他人を論破するよりも、「あなたがいてくれて助かった」と言われる生き方を選んでください。

争わず、許し、譲り、そして感謝する。

これが、運を味方につけ、心穏やかで豊かな人生を送るための、唯一にして最大の秘訣です。

今、何かのトラブルの最中にいる方もいらっしゃるかもしれません。辛いこともあるでしょう。

ですが、天は必ず見ています。

あなたが誠実に、道徳的に正しく生きようとすれば、必ず道は開けます。

人を恨んで夜眠れぬ日を過ごすより、人を許して安らかに眠る夜を選んでください。

あなたの人生が、笑顔と感謝に満ちたものであることを、心より祈念いたします。

西中 務