導入部:はじめに

ビジネスや日常生活において、「問題解決」は誰もが直面する普遍的なテーマです。多くの場合、私たちは過去の経験や一般的に正しいとされる方法に頼って、目の前の課題に取り組もうとします。

しかし、真に効果的な解決策は、時として私たちの常識の逆を行くものです。

この記事では、ビジネスパーソンのための問題解決の技術を100項目にわたって解説した名著『MBA 問題解決100の基本』の中から、特に私たちの思い込みを揺さぶり、インパクトの大きい5つの教えを厳選してご紹介します。あなたの問題解決へのアプローチを、根底から見直すきっかけになるかもしれません。


MBA 問題解決100の基本

1. 会社が失敗するとき、社員はずっと前から問題に気づいている

一見、突然に見える企業の失敗。しかし、その内部では何が起きているのでしょうか。MBAの視点は、私たちが抱きがちな「突然の悲劇」という常識に疑問を投げかけます。

企業の失敗は、ある日突然起こるのではありません。その予兆は、ずっと前から現場で働く多くの従業員によって認識されています。これはアメリカを代表するベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者、ベン・ホロウィッツが指摘する厳しい現実です。

失敗した会社では、多くの社員は、ずっと前から問題を知っている

では、なぜその「悪い知らせ」は経営層に届く前に握りつぶされてしまうのでしょうか。同調圧力や見て見ぬふりをする組織文化がその一因ですが、本質はさらに深いところにあります。

テスラのイーロン・マスクは「耳の痛い意見を聞くことが大事だ」と語ります。しかし、多くの組織では、悪い報告を歓迎するどころか、問題を指摘した人間が疎まれることさえあります。コンサルタントの名和高司氏が提唱する「Why Not Yet?(なぜそれはまだ片付いていないのか?)」という問いは、こうした組織の病巣を鋭くえぐり出します。問題の解決を妨げているのが、実は社内の実力者のトラウマや「虎の尾」であることは少なくないのです。

リーダーはこの教えを、悪い知らせほど歓迎される組織文化を築くという、自らへの厳しい戒めとして受け取るべきです。現場の違和感こそが、致命的な失敗を防ぐ最も価値ある情報源なのです。

2. 最も不満を持つ顧客こそ、最高の学習源である

顧客からのクレームは避けるべきトラブル──そんな常識も、視点を変えれば宝の山に変わります。MBAの視点では、不満の声は事業を改善するための最高の学習源と捉え直します。この考え方は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツによって広く知られるようになりました。

あなたの顧客の中で一番不満を持っている客こそ、あなたにとって一番の学習源だ

なぜなら、不満を声に出してくれる顧客は、自社の製品やサービスが顧客の期待とどこでズレているのかを、極めて正確に教えてくれる「無料のコンサルタント」だからです。満足している顧客は、わざわざ改善点を教えてはくれません。

さらに重要なのは、彼らの声が、氷山の一角に過ぎないということです。不満を口にする顧客の背後には、何も言わずに静かに去っていく、はるかに多くの「声なき顧客」が存在します。彼らの声に真摯に耳を傾けることは、このサイレントマジョリティーが抱える潜在的な問題を発見し、競合に先んじて改善策を打つための、またとない機会となるのです。

3. 品質の85%は、現場でなくマネジメントの責任である

「品質問題は現場の責任」という、誰もが疑わない常識にも、MBAの視点は鋭く切り込みます。製品やサービスに品質問題が発生した際、私たちはつい現場担当者のミスを責めてしまいがちです。しかし、品質管理の世界的権威であるエドワーズ・デミング博士は、衝撃的な事実を指摘しています。

品質問題の85%は、マネジメントに責任がある

この原則を物語る有名な逸話があります。かつて米国のある自動車会社が、品質改善のために日本企業と提携しました。米国側は「今の従業員を使っている限り品質は良くならない。全員入れ替えるべきだ」と主張しました。しかし、日本企業が断行したのはその逆、つまりマネジャーの総入れ替えでした。結果、現場の従業員は同じまま、品質は劇的に向上したのです。

この教えの本質は、問題解決のアプローチを、個人を責める「人基点(犯人探し)」から、ミスが起こりにくい仕組みを構築する「システム基点」へと転換させることの重要性です。これは「ミスを憎んで人を憎まず」というトヨタ流の問題解決にも通じる考え方であり、持続的な品質向上を実現するための鍵となります。

4. 模倣は最も穏当なイノベーションである

イノベーションとは完全な独創性から生まれる──この神話にも、現実的な経営戦略は一石を投じます。「戦略的模倣(コピーキャット)」は、リスクを抑えながら成果を出すための、極めて有効な選択肢なのです。中国の巨大IT企業テンセントの創業者、ポニー・マーはこの戦略の有効性を喝破しています。

模倣は最も穏当なイノベーションである

なぜ模倣が有効なのでしょうか。特に、解決すべき問題の「サンプル数が少なく」、前例に乏しい新規分野において、模倣は「ローリスク・ミドルリターン」の賢い戦略となり得ます。先行者が市場を教育し、リスクを検証してくれるため、後発者はその学びを活かし、より洗練された製品をより低いリスクで提供できるのです。

もちろん、単なる丸写し(Imitation)では成功は続きません。他社の優れた点を徹底的に分析し、そこに独自の改善を加えることで、新たなイノベーション(Immovation)へと昇華させることが、この戦略の要諦です。

5. 口論は、誰も勝てない奇妙なゲームだ

最後に、ビジネスにおける対立の常識です。「議論では相手を論破してこそ勝利」──この考え方の不毛さを、歴史的な賢人は喝破しています。たとえ論理で勝ったとしても、相手の感情を害し、協力関係を損なってしまっては、プロジェクト全体としては「負け」に他なりません。

この教えは、アメリカ建国の父の一人、ベンジャミン・フランクリンが残した言葉であり、『人を動かす』で知られるデール・カーネギーも同様の主旨を説いています。

口論は誰にもできるが、双方とも決して勝てない奇妙なゲームだ

この言葉が深いのは、議論の目的が「勝利」ではなく、より良い結論に到達するための「協働」であるべきだという本質的な視点を示しているからです。相手を論破するのではなく、相手の意見の背景にある考えを理解し、尊重することで初めて建設的な対話が生まれます。人間関係における真の問題解決とは、どちらが正しいかを決めることではなく、共に前進する方法を見つけることなのです。

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結論:まとめ

今回ご紹介した5つの教えには、一つの共通したテーマが流れています。それは、「常識を疑い、物事の本質を見る」という視点の重要性です。

現場の声に耳を傾け、顧客の不満に学び、議論での勝利よりも協働を優先する。そして、個人のミスを責めるのではなく、マネジメントを入れ替えて仕組みを変えることで品質を劇的に改善した自動車工場の話のように、表面的な現象にとらわれず、その裏側にある構造や力学を理解しようとする姿勢こそが、ブレークスルーを生むのです。

最後に、あなた自身に問いかけてみてください。 「あなたが当たり前だと思っている仕事の進め方の中に、実は見直すべき『常識』は隠れていないでしょうか?」