こんにちは、稲葉浩志です。

「人生で一番大事なことは何か」という問いですね。

そうですね……。あらためて言葉にするとなると、少し気恥ずかしいというか、僕自身もまだその答えをずっと探し続けている途中のような気がします。B’zという活動を35年以上、そしてソロとしての表現を続けてきても、いまだに「これさえあれば完璧だ」という確信にたどり着いたわけではありません。

ただ、これまでの経験、喉を痛めたり、ステージで葛藤したり、あるいは何万もの人の前で歌わせてもらったりする中で、僕が大切にしている「いくつかの核」のようなものはあります。

今日は、僕というフィルターを通して見えている「人生において欠かせないもの」について、お話ししてみたいと思います。


1. 「今、この瞬間」という刹那への集中

僕が作詞をする際やステージに立つ際、いつも頭の片隅にあるのは「今」という時間です。

B’zの曲に『RUN』という曲がありますが、その中に「時の流れは妙に早くて 流されないのがやっとで」というフレーズがあります。人生は本当に驚くほど早く過ぎ去っていきます。気がつけば昨日が終わり、明日がやってくる。そのスピードに飲み込まれそうになるとき、一番大事なのは「今、目の前にあることにどれだけ誠実になれるか」だと思うんです。

ライブで言えば、今日この会場に来てくれた人たちがいて、その瞬間、その場所でしか生まれない空気がある。それを「明日のために」とか「昨日の反省のために」と考えるのではなく、今この瞬間に自分のすべてを出し切ること。喉の状態がどうであれ、天気がどうであれ、その瞬間に100%を注ぎ込む。

人生において、僕たちがコントロールできるのは「今」だけです。過去を後悔しても変えられないし、未来を不安がっても結果は保証されない。だからこそ、今、目の前のマイクに向かう、今、目の前の人と向き合う。その「刹那の積み重ね」こそが、結果として「人生」という大きな物語になっていくのだと信じています。

2. 「不安」をエネルギーに変えるしなやかさ

よく、僕のことを「ストイックだ」と言っていただくことがあります。でも、自分ではあまりそう思っていないんです。むしろ、僕はとても怖がりで、不安を感じやすいタイプです。

「声が出なくなったらどうしよう」「次のツアーで皆を満足させられるだろうか」「自分にはまだ何か足りないんじゃないか」……。そうした不安は、何年経っても消えることはありません。

でも、人生で大事なのは「不安を消すこと」ではなく、「不安と一緒にどう歩くか」ではないでしょうか。

僕にとって、喉のケアやトレーニングを徹底するのは、ストイックだからではなく、そうしないと不安でステージに立てないからです。準備をすることでしか、不安を鎮めることができない。つまり、不安があるからこそ、僕は研鑽を積むことができるんです。

不安は、自分がまだ成長したいと願っている証拠でもあります。もし100%満足して、何の恐怖もなくなってしまったら、表現者としての僕は止まってしまうでしょう。自分の弱さや、カッコ悪さ、ままならない感情。それらを否定せず、むしろそれらを燃料にして「じゃあ、どうすればいいか」と動いていくこと。それが、人生を豊かにしていく原動力になると考えています。

3. 「他者」という鏡と、そこへの敬意

人生は一人では成り立ちません。僕のキャリアを語る上で、松本孝弘さんというパートナーの存在は絶対に欠かせないものです。

35年以上、同じ人と一緒に仕事をするというのは、奇跡のようなことだと思っています。もちろん、すべてがスムーズだったわけではありません。でも、自分とは違う才能、違う価値観を持つ人が隣にいることで、僕は自分自身の輪郭を知ることができました。

「自分一人でできること」なんて、たかが知れています。誰かと響き合うことで、予想もしなかった大きなエネルギーが生まれる。それは音楽に限らず、どんな仕事でも、家族でも、友人関係でも同じだと思います。

大事なのは、相手を自分に合わせようとするのではなく、その違いをリスペクトすること。そして、相手の存在に感謝することです。僕がこうして歌い続けていられるのは、素晴らしい楽曲を書いてくれる松本さんがいて、それを支えてくれるスタッフがいて、そして何より、僕たちの音楽を受け取ってくれるファンの方がいるからです。

「誰かのために」という想いは、時に自分自身の限界を超える力を与えてくれます。自分のためだけだと、どうしても甘えが出てしまう。でも、待ってくれている人がいると思うと、もう一歩踏み出せる。他者との繋がりを大切にし、そこで生まれる「共鳴」を喜ぶこと。それが人生を温かいものにしてくれるのだと感じています。

4. 変化し続けることを恐れない勇気

「変わらないために、変わり続ける」という言葉があります。

B’zもソロも、常に「新しい何か」を探しています。昔の成功体験にすがって、同じことだけを繰り返していると、心はどんどん錆びついてしまいます。新しい音楽、新しいトレーニング方法、新しい価値観。そうしたものに触れて、自分をアップデートしていくことは、とても刺激的で、同時に勇気がいることです。

「前のほうが良かった」と言われることもあるかもしれません。でも、生きている以上、細胞が入れ替わるように、僕たちの精神も変化していくのが自然です。その変化を恐れず、むしろ面白がること。

「今の自分にできるベストは何か」を常に問い直し、時にはこれまでの自分を壊してでも進んでいく。そのプロセスのなかにこそ、生命の輝きがあるのだと思います。


結論として

結局のところ、人生で一番大事なことは、「自分という存在を、精一杯使い切ること」ではないかと、今の僕は考えています。

持って生まれた才能や環境は人それぞれ違いますが、与えられた時間をどう使い、どう心を通わせ、どうもがくか。その姿勢にこそ、その人の「人生の価値」が宿る気がします。

特別な人間である必要はありません。僕だって、ただの歌好きの人間です。ただ、歌うことに対して、生きることに対して、逃げずに、誠実に、泥臭く向き合っていたい。そう思って毎日を過ごしています。

あなたが今、どんな状況にいたとしても、あなたの「今」という瞬間には、無限の可能性があります。不安を抱えたままでもいい、不器用でもいい。その一歩を、大切に踏み出してください。

僕も、まだまだ歌い続けます。