私はピーター・ドラッカーです。あなたが「人生で一番大事なことは何か」と私に問うたこと、それは非常に建設的で、かつ「真摯(インテグリティ)」な問いです。
私は長い生涯を通じて、マネジメントのあり方や社会の変遷を観察してきましたが、私を突き動かしてきたのは、常に「人間をいかに幸福にし、社会をいかに機能させるか」という社会生態学者としての視点でした。
3,500字という限られた、しかし思索を深めるには十分な空間の中で、私が考える「人生で最も大切なこと」を、いくつかの層に分けてお話ししましょう。
1. 究極の問い:「何をもって覚えられたいか」
まず、あなたに一つの物語を共有しましょう。私が13歳の時、宗教の教師だったフィリップ・プファイファー神父が、私たち生徒にこう問いかけました。
「君たちは、何をもって覚えられたいかね?」
当然、13歳の少年たちには答えられませんでした。神父は笑って言いました。
「今答えられるとは思っていない。だが、50歳になっても答えられなければ、君たちの人生は無駄に過ごされたことになる」
この問いこそが、人生において最も重要な指針となります。なぜなら、この問いは「今の自分」と「未来の成果」を繋ぐ架け橋だからです。この問いは、あなた自身の成長に合わせて、生涯を通じて変化し、成熟していくものです。
人生で一番大事なことは、この「自分は社会や他者に対して、どのような価値を残す存在でありたいか」という問いを、常に自分自身に投げかけ続けることです。
2. 自らの「強み」を「貢献」へと繋げる
人生を意義あるものにするためには、自分が持っている道具、すなわち「強み」を知り、それを最大限に活用しなければなりません。
多くの人は、自分の弱みを克服することに時間とエネルギーを費やします。しかし、断言しましょう。弱みを並みの水準にするには、多大な努力を要する一方で、得られる成果はごくわずかです。しかし、「強み」を一流の水準に高めるには、同じ努力で何倍もの成果をあげることができます。
人生で大事なのは、自分の強みを見つけ出し、それを「何に貢献すべきか」という問いに結びつけることです。
「私が得意なことは何か?」「その得意なことを使って、組織や社会のどのような課題を解決できるか?」
この二つが重なったとき、仕事は単なる労働ではなく、自己実現の手段へと昇華します。
3. 「真摯さ(インテグリティ)」という絶対的な土台
私は著書の中で、マネジャーに欠かせない資質として「真摯さ(インテグリティ)」を挙げました。これは人生全般においても言えることです。
知識やスキルは後から習得できます。しかし、真摯さだけは、その人がもともと持っていなければならないものであり、後から教えることはできません。真摯さとは、自分自身を欺かないことであり、正しいことを正しく行うという姿勢です。
もしあなたが、どれほど有能で、どれほど大きな財産を築いたとしても、この真摯さを欠いていれば、人々はあなたを信頼せず、あなた自身も鏡の中の自分を誇りに思うことはできないでしょう。
「自分自身をどのように管理するか(セルフマネジメント)」の根底には、常にこの真摯さがなければなりません。
4. 継続的な学習と「第二の人生」
現代のような知識社会において、学びを止めることは、人生の活動を止めることと同義です。
私は90歳を過ぎても、数年ごとに新しいテーマ(日本美術、統計学、中世の歴史など)を決めて深く研究してきました。一つの分野を極めることで、世界を見る視点は多層的になります。
特に、人生の後半戦(セカンドハーフ)において、この「継続的な学習」は決定的な意味を持ちます。かつての平均寿命が短かった時代とは異なり、現代の私たちは、組織の寿命よりも長く生きます。50代、60代になってから、それまでのキャリアとは別の「第二の人生」や、社会貢献活動、パラレルキャリアを築くことが求められています。
「学び続けること」そして「自らを新しく作り変え続けること」。
これが、人生を最後まで輝かせるための秘訣です。
5. 成果をあげるための「時間」の管理
時間は、最も希少な資源です。時間は貸りることも、買うことも、蓄えることもできません。
人生で大事なことを成し遂げるためには、自分の時間を何に費やしているかを冷徹に把握しなければなりません。
多くの人が「重要ではないが緊急なこと」に追われ、人生の貴重な時間を浪費しています。しかし、真に成果をあげる人は、「緊急ではないが重要なこと」に、まとまった時間を割く勇気を持っています。
自分の時間を記録し、整理し、そして最も重要な活動に集中させる。この「時間の管理」は、自分自身の人生を大切に扱うという意思表示そのものなのです。
結論:人生は「貢献」という名のプロジェクトである
結局のところ、人生で一番大事なことは、「自らの人生に責任を持ち、自らの強みをもって、社会の役に立つこと」に集約されます。
私は「幸福」という言葉をあまり使いません。なぜなら、幸福とは求めるものではなく、何かに貢献した結果として後からついてくる報酬のようなものだからです。
人生は、あなたに何を与えてくれるかを問う場ではありません。
逆に、「あなたは人生に何を与えることができるか」を問われている場なのです。
80歳のヴェルディが、なぜあのような素晴らしいオペラ『ファルスタッフ』を書けたのか。彼はこう言いました。「常に完璧を求めてきた。それだけだ」と。
私もその精神で生きてきました。
あなたも、自らの強みを知り、真摯さを保ち、常に「何をもって覚えられたいか」を自問してください。その答えを追求するプロセスそのものが、あなたの人生にとって最も大事な「成果」となるはずです。