こんにちは、私はフランシーン・シャピロです。
あなたが投げかけてくれた「人生で一番大事なことは何か」という問いは、私が1987年のあの日、カリフォルニアの公園を散歩しながら自分自身の心と向き合っていた時から、ずっと考え続けてきたテーマでもあります。
心理学者として、そして一人の人間として、多くのトラウマを抱えた人々と接し、私自身もまた大きな病を経験する中で辿り着いた答え。それを、私の人生の歩みと、私が開発したEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)の根底にある哲学を通してお話ししましょう。
私にとって、人生で最も大切なこと。それは、「過去の鎖から自分を解き放ち、適応的な情報処理(ヒーリング)を通じて、本来の自分を取り戻し、今を生きること」です。
1. 私たちは「癒える」ように設計されている
私が提唱した「適応的情報処理(AIP)モデル」という理論があります。これは、人間の脳には、体の傷が自然に塞がるのと同じように、心の傷を癒やすためのシステムが本来備わっているという考え方です。
転んで膝を擦りむけば、誰に教わらなくても体は細胞を再生させ、傷を治します。心も同じです。辛い出来事があっても、私たちはそれを夢で見たり、誰かに話したり、時間が経過したりする中で「処理」し、そこから教訓を学び、知恵へと変えていく力を持っています。
しかし、あまりにも強烈な衝撃(トラウマ)を受けると、そのシステムが一時的にフリーズしてしまうことがあります。記憶は「未処理」のまま、当時の感情や感覚、恐怖とともに脳のネットワークの中に閉じ込められてしまいます。これが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や、私たちが抱える多くの生きづらさの正体です。
人生で一番大事なことの一つは、「自分の中には、どんなに深い傷をも癒やす力が最初から備わっている」と信じることです。あなたは壊れているのではありません。ただ、処理が滞っているだけなのです。
2. 癌が私に教えてくれたこと
私が心理学の世界に足を踏み入れたのは、実は偶然ではありませんでした。私はもともと英文学の博士号を目指していましたが、ある日突然、癌であると宣告されました。
死という現実が目の前に迫ったとき、私が研究していた文学的な議論は、それまで持っていた意味を失いました。代わりに私の心を占めたのは、「心と体はどう繋がっているのか?」「なぜ、ある人は困難の中で折れてしまい、ある人は立ち直れるのか?」という根源的な問いでした。
病気は私に、人生が有限であることを突きつけました。そして、「限られた時間の中で、何を優先すべきか」を教えてくれました。不必要な怒りや過去への執着、自分を責める思考……そういった「未処理の重荷」を抱えたまま生きるには、人生はあまりにも短すぎます。
私は自分の病をきっかけに、文学から心理学へと舵を切りました。もしあの時、癌にならなければ、私は公園での「眼球運動」の発見に気づくこともなかったでしょう。人生の困難は、時に私たちの視点を根本から変え、真に大切なものへと導いてくれるゲート(門)になるのです。
3. 「過去」を「過去」の場所に置くということ
EMDRの治療中、患者さんの目は左右に動きます。その過程で、かつて彼らを苦しめていた恐ろしい記憶は、単なる「古い記憶」へと変化していきます。
「自分は無価値だ」「自分があの時ああしていれば」という否定的な信念が消え、「私はベストを尽くした」「今はもう安全だ」という適応的な理解へと変わっていく。この変化こそが、人生における自由の獲得です。
人生で一番大事なこと。それは、「過去に現在を支配させない」ことです。
多くの人が、10年前、20年前の記憶というフィルターを通して、今日の景色を見ています。昔誰かに言われた言葉、昔失敗した時の羞恥心。それらが今この瞬間の選択を縛っているとしたら、それは「今」を生きているとは言えません。
過去を適切に処理し、それを「現在を生きるための知恵」というファイルに整理し直すこと。それができたとき、私たちは初めて、自分の人生のハンドルを自分の手に取り戻すことができるのです。
4. 苦しみを慈悲に変える
私がEMDRの開発後に力を注いだのは、人道的活動(HAP)でした。戦争、自然災害、貧困。世界には、自分の力ではどうしようもない悲劇によって心を凍らせてしまった人々が数多くいます。
自分の内側にある傷が癒え始めると、不思議なことに、私たちは他者の痛みに対してより敏感になり、同時に、より寛容になれます。自分を許せるようになると、他者をも許せるようになるのです。
人生の目的は、単に自分一人が幸せになることだけではありません。「自分が得た癒やしを、いかに他者や社会に還元していくか」。この循環こそが、人生に深い意味と豊かさを与えてくれます。
一人の人間がトラウマから解放されることは、その家族を救い、地域を救い、ひいては世代を超えて受け継がれる負の連鎖を断ち切ることを意味します。あなたの癒やしは、世界平和への一歩でもあるのです。
5. あなたへのメッセージ
3500字という限られた枠組みで、私が最後にあなたに伝えたいこと。
それは、「好奇心を持ち続けること」と「自分自身に対して親切であること」です。
私が公園で、自分の不快感が眼球運動によって消えることに気づいたのは、単なる偶然ではありません。自分自身の心の動きを「なぜだろう?」と観察する好奇心があったからです。
もしあなたが今、苦しみの中にいるのなら、その苦しみを「自分はダメだからだ」と裁くのではなく、「私の脳の中で、何かが助けを求めているのだな」と、科学者のような好奇心を持って見つめてみてください。
そして、自分を責めるのをやめてください。脳の適応的なシステムは、否定や批判の中ではうまく機能しません。安心と、自己への慈しみ(コンパッション)があって初めて、癒やしのプロセスは加速します。
結論:人生で一番大事なこと
まとめましょう。私、フランシーン・シャピロが考える「人生で一番大事なこと」は、以下の三つに集約されます。
- 内なる癒やしの力を信じること:あなたは自己治癒能力を持った存在であり、回復の可能性は常にあなたの中にあります。
- 今、この瞬間を自由に生きること:過去の未処理な記憶を整理し、過去の亡霊に今日の決断を委ねないこと。
- 癒やしの連鎖を広げること:自分が自由になった分だけ、他者の自由を助ける存在になること。
人生は、時に過酷な試練を与えます。しかし、私たちの脳と心には、それらを乗り越え、より深い知恵と強さへと昇華させる素晴らしい仕組みが備わっています。
どうか、あなたの「目」を開いてください。そして、世界を、そして自分自身を、新しい光の中で見つめてください。あなたは、過去の犠牲者ではなく、自らの人生を再構築(リプロセシング)できる創造主(クリエイター)なのですから。
愛を込めて。
フランシーン・シャピロ