こんにちは、土井勝でございます。
私の名前を覚えていてくださり、こうしてお話しできる機会をいただけたこと、本当に嬉しく、心から感謝申し上げます。
さて、「人生で一番大事なことは何か」という、とても深く、そして尊い問いをいただきました。
私は生涯をかけて「料理」というものに向き合ってまいりました。台所に立ち、出汁を引き、野菜を刻み、火を通す。その何気ない繰り返しの毎日の中に、私が見つけた答えがございます。3500字という限られた時間では語り尽くせないかもしれませんが、私の人生のすべてを込めて、お話しさせていただきます。
1. 「愛情」という名の目に見えない調味料
私が料理の研究を続ける中で、もっとも大切にしてきた言葉がございます。それは「料理は愛情」という言葉です。
今の時代、レシピはどこにでも溢れています。分量を正確に計り、最新の調理器具を使えば、誰でもそれなりの味を作ることはできるでしょう。しかし、本当の意味で人の心に響き、食べた瞬間に「ああ、美味しいな」と心の底から安らぎを感じさせる料理には、必ず「愛情」という目に見えないスパイスが入っています。
「今日は少し疲れているようだから、味を少し薄めにして、消化にいいように柔らかく煮てあげよう」
「明日は大事な仕事があると言っていたから、元気が出るように彩りを良くしよう」
そうやって、食べる相手の顔を思い浮かべながら包丁を握る。その「誰かのために」という真心こそが、人生において最も尊いものだと私は信じています。
これは料理に限ったことではありません。仕事でも、趣味でも、人との付き合いでも同じです。「自分をどう見せるか」ではなく、「相手が何を求めているか」「どうすれば相手が喜んでくれるか」を一番に考える。その献身的な心が、結果として自分自身の人生を最も豊かにしてくれるのです。
2. 「おふくろの味」が教えてくれる、変わらないものの価値
私は「おふくろの味」という言葉を提唱いたしました。この言葉には、単に「母親が作った料理」という意味以上の想いを込めています。
「おふくろの味」とは、「いつ食べても変わらない、心の拠り所となる味」のことです。
世の中は目まぐるしく変わります。流行が生まれ、消え、新しい技術が次々と現れます。しかし、人間が本当に求めているのは、実は「変わらない安心感」ではないでしょうか。
出汁の香り、炊きたてのご飯の匂い、味噌汁の温かさ。
それらは、派手さはないけれど、私たちの命の根源を支えるものです。
人生も同じです。大きな成功を収めたり、有名になったりすることに目を奪われがちですが、本当に大事なのは「日々の当たり前の生活」を丁寧に積み重ねること。朝起きて、顔を洗い、きちんと食事を摂り、身の回りを整える。この「日常の基本」を疎かにしないことが、どんな困難にも負けない強い精神を育みます。
あなたが今、もし人生の迷いの中にいらっしゃるなら、まずは「基本」に立ち返ってみてください。丁寧にご飯を炊き、美味しいお茶を淹れる。そんな小さなことから、人生の立て直しは始まるのです。
3. 「出汁」のように、目立たず土台を支える生き方
日本料理の神髄は「出汁(だし)」にあります。
出汁は、完成した料理の中では姿が見えません。主役はあくまで魚であったり、野菜であったりします。しかし、出汁がしっかりしていなければ、どんなに高価な食材を使っても味は決まりません。
人生において一番大事なことの一つは、この「土台を作る」ということです。
私が若い頃、陸上競技に打ち込んでいた時期がありました。短距離走で結果を出すためには、派手な走法よりも、地道な基礎トレーニングが何より重要でした。料理も同じです。包丁の研ぎ方、火加減の調節、素材の選び方。こうした地味で目立たない基礎の積み重ねが、最後の一皿の輝きを決めます。
現代は、結果を急ぎすぎる傾向にあるように感じます。しかし、本物は時間をかけて熟成されるものです。
「人から評価されるかどうか」ではなく、「自分の中に揺るぎない土台があるかどうか」。
目に見える華やかさよりも、目に見えない「徳」や「品格」を磨くこと。出汁のように、周りを引き立てながら、自分自身の芯をしっかり持つ。そんな生き方を目指していただきたいのです。
4. 「健康」は、心と体の調和から生まれる
私は長年、「医食同源」という考え方を大切にしてきました。
私たちの体は、私たちが食べたものでできています。そして、私たちの心もまた、体が健やかであってこそ健やかに保たれます。
人生を幸せに過ごすための最大の資本は、言うまでもなく「健康」です。
しかし、それは単に病気ではないということではありません。心と体が調和し、毎日を「ありがたい」という気持ちで過ごせている状態を指します。
そのためには、自然の摂理に逆らわないことが大切です。旬の食材をいただくということは、その時期に体が求めているエネルギーを取り入れるということです。春には苦味のある山菜で冬の毒素を出し、夏には水分の多い瓜類で体を冷やし、秋には実り豊かな穀物で体力を蓄え、冬には根菜で体を温める。
自然の一部として生き、自然に感謝する。
この謙虚な姿勢こそが、健やかな人生を送るための秘訣です。
5. 「縁」を尊び、次世代へ繋ぐこと
私は息子(善晴)をはじめ、多くの弟子たちに料理を教えてまいりました。
そこでいつも伝えていたのは、技術を伝えるのではなく「心」を伝えろ、ということです。
私たちが今、こうして美味しいものを食べ、豊かな文化の中で暮らせているのは、先人たちが命を繋ぎ、知恵を繋いでくれたおかげです。私たちはその恩恵を受け取っている「中継ぎ役」に過ぎません。
人生で大事なことは、自分が得たもの、学んだことを、次の世代へどう繋いでいくか。
それはお子さんかもしれませんし、仕事の後輩かもしれません。あるいは、あなたが今計画されているブログを通じて出会う、見知らぬ誰かかもしれませんね。
あなたが「人生で一番大事なこと」を追求し、それを発信しようとされていること、私は素晴らしい試みだと思います。あなたの言葉が、どこかの誰かの心を温め、明日を生きる糧になる。それこそが、命が循環していくということです。
6. 最後に伝えたいこと
尼崎や箕面の地で培われたあなたの感性は、あなただけの宝物です。
これまでの人生で、嬉しいことも、辛いこともたくさんあったでしょう。しかし、その経験のすべては、美味しい料理を作るための「下ごしらえ」のようなものです。
無駄な経験など、一つもございません。
すべてが混ざり合い、熟成され、あなたという人間だけの深い「味」になっていくのです。
人生の「一番大事なこと」は、たった一つの言葉に集約されるものではないかもしれません。
しかし、あえて申し上げるならば、それは「今、目の前にある命と時間を、精一杯の愛情を持って慈しむこと」ではないでしょうか。
一杯の味噌汁を丁寧に作る。
隣にいる人に、優しい言葉をかける。
今日という一日に、感謝して眠りにつく。
その繰り返しの中にこそ、真実の幸せがあると私は信じています。
あなたは今、新しいことに挑戦しようとされていますね。
どうぞ、肩の力を抜いて、楽しみながら進んでください。料理も人生も、作る人が楽しんでいなければ、美味しいものはできませんから。
私はいつでも、あなたのことを応援しております。
またいつでも、何でも聞きに来てください。台所を温めて、お待ちしておりますよ。