皆さん、こんにちは。東京都知事の小池百合子です。

「人生で一番大事なことは何か」――。

これは、私がこれまでの長い歩みの中で、幾度となく自らに問いかけ、また多くの試練に直面するたびに確認してきた、究極の問いでもあります。

エジプトでの学生時代、ニュースキャスターとしてのプロフェッショナルな日々、そして政治という荒波の世界へ身を投じた決断。これらすべての経験を通じて私が行き着いた答え。それは、「自らの人生の舵を、誰にも渡さず自分自身で握り続けること」。すなわち、「自己決定」と、それを支える「覚悟」です。

3500字というこの貴重な機会を借りて、私の歩みを振り返りながら、なぜこれが最も重要だと確信しているのか、お話しさせていただきます。


1. カイロの砂漠が教えてくれた「俯瞰の目」

私の人生の大きな転換点は、間違いなく10代の終わり、エジプト・カイロ大学への留学を決めた瞬間にありました。

当時の日本は高度経済成長の真っ只中にありましたが、私はふと疑問に思ったのです。「このまま日本という枠組みの中に守られ、決められたレールを歩むだけで、本当の世界が見えるのだろうか」と。その時、直感的に選んだのが、アラビア語という未知の言語であり、中東という激動の地でした。

カイロでの生活は、決して甘いものではありませんでした。灼熱の太陽、日本とは全く異なる価値観、そして言語の壁。しかし、そこで私は「鳥の目(Bird’s Eye View)」を持つことの重要性を学びました。

日本を外側から、しかも西洋ではなく中東という視点から眺めることで、物事の真理は多層的であることを知ったのです。人生で大事なのは、一つの価値観に縛られないこと。自分がいかに小さな世界にいたかを痛感し、それを打破するために自ら動くこと。この時、私は「自分で選び、その結果に責任を持つ」という、人生の基本姿勢を身につけました。


2. 「崖から飛び降りる」勇気とタイミング

メディアの世界から政界へ転身した際、多くの方から「無謀だ」と言われました。しかし、私は確信していました。現状に安住し、変化を恐れることこそが、人生における最大の「リスク」であると。

私がよく使う言葉に、「崖から飛び降りる」という表現があります。政治の世界も、人生も、時には大きな決断を下さなければならない局面が必ず訪れます。その時、パラシュートが開くかどうかを心配して立ち止まるのではなく、信じる道のために飛び込む勇気。そして、そのタイミングを逃さない直感。

私が環境大臣として「クールビズ」を提唱した時も、最初は戸惑いの声ばかりでした。しかし、「日本のライフスタイルを変える」という強い意志と覚悟を持って臨んだ結果、それは文化として定着しました。

大事なのは、周囲の目や既存の慣習ではありません。「自分は何を成し遂げたいのか」という内なる声に従い、一歩を踏み出す覚悟です。この「覚悟」こそが、停滞を打破し、新しい景色を見せてくれるのです。


3. 「レジリエンス」――しなやかに、強く

人生は、常に順風満帆ではありません。私自身、政治の場において、何度も「ガラスの天井」にぶつかり、冷たい風にさらされる経験をしてきました。特に2016年、東京都知事選に初めて立候補した時は、まさに「組織対個人」の孤独な戦いでした。

その時私を支えたのは、「レジリエンス(復元力)」という考え方です。

強い風が吹いた時、硬い大木は折れてしまいますが、しなやかな竹はしなって風をやり過ごし、また元に戻ります。批判や困難に直面した時、それをただ受け止めて傷つくのではなく、エネルギーに変えて跳ね返す力。

人生において、失敗や挫折は「終わり」ではありません。それは、次なる跳躍のための「バネ」に過ぎないのです。私が「都政の透明化」や「東京大改革」を掲げ、逆風の中でも突き進んでこれたのは、このしなやかさを持っていたからだと思っています。

大事なのは、折れないことではありません。倒れても、何度でも立ち上がる、その精神の強靭さなのです。


4. 「サステナブル」な未来をデザインする責任

人生の後半戦において、私たちが考えなければならないのは「自分だけの幸福」ではありません。自分がいなくなった後も続く社会に対して、どのような責任を果たせるか。

私は今、東京都知事として「サステナブル・リカバリー」を掲げています。これは、単なる政策のスローガンではなく、私自身の人生哲学でもあります。

人生で大事なことの一つは、「次世代へのバトン」を意識することです。私たちが今、享受している平和や環境は、先人たちの努力の賜物です。ならば、私たちは未来の子どもたちに、より良い、より強靭な社会を残す義務がある。

「もったいない」という言葉が世界共通語(MOTTAINAI)になったように、資源を大切にし、人を大切にし、多様性を尊重する。自分とは異なる存在を認め、互いに高め合う「ダイバーシティ」の精神。これこそが、成熟した人間が持つべき視点ではないでしょうか。


5. 最後に――「チェックメイト」は自分で決める

さて、ここまでお話ししてきましたが、結局のところ、人生で一番大事なことは「あなたの人生の主人公は、あなた自身である」という自覚に集約されます。

他人の評価を気にして、誰かが作った正解を探していませんか?

失敗を恐れて、安全な場所で足踏みをしていませんか?

私の好きな言葉の一つに、チェスで勝利を確定させる「チェックメイト」があります。人生の盤面において、駒を動かすのはあなた自身です。たとえ周囲が反対しようとも、たとえ勝率が低いと言われようとも、あなたが「これが私の道だ」と確信して指す一手には、何物にも代えがたい価値があります。

東京都知事としての激務の日々、私が常に心に留めているのは、「今日という日は二度と来ない」という切実な事実です。だからこそ、一分一秒を惜しみ、全力で改革に挑み、東京を、そして日本を良くしたい。その情熱の源泉は、「自分で選んだ道である」という誇りに他なりません。

人生とは、自分を表現するためのキャンバスです。

そこにどのような色を塗り、どのような線を引くのか。

それは他の誰でもない、あなたに委ねられています。

時に大胆に、時に繊細に。

「セルフ・パブリッシング」の精神で、あなた自身の物語を書き進めてください。

困難に直面した時は、カイロの砂漠で見たあの広い空を思い出してください。世界は広く、可能性は無限です。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と言われますが、私は、歴史を学びつつも、自分自身の経験を血肉とし、新しい歴史を創る側に回りたいと考えています。

皆さんの人生が、自らの決断と覚悟によって、輝かしいものとなることを心より願っています。

さあ、皆さんも「自分史上最高の自分」を目指して、新しい一歩を踏み出してみませんか。

東京から、世界へ。そして、輝く未来へ。

共に行きましょう。


結びに代えて

私の人生哲学を、いくつかのキーワードでまとめるとすれば、以下のようになります。

  1. 自己決定 (Self-Determination): 自分の意志で道を選ぶこと。
  2. 俯瞰 (Bird’s Eye View): 広い視野を持ち、多角的に物事を見ること。
  3. 覚悟 (Commitment): リスクを取って挑戦し、結果に責任を持つこと。
  4. しなやかさ (Resilience): 困難をエネルギーに変える強さを持つこと。
  5. 次世代への視点 (Sustainability): 社会の持続可能性に貢献すること。

これらは、私が政治家として、そして一人の人間として大切にしてきた指針です。3500字という枠の中では語り尽くせないこともありますが、このメッセージが、あなたの人生という航海の、ささやかな羅針盤となれば幸いです。

人生の「大改革」は、いつだって、今のあなたの決断から始まります。