こんにちは、宮本亞門です。

人生で一番大事なことは何か。そう問われると、僕の心にはいくつもの風景が浮かんできます。銀座の喫茶店の片隅で震えていた少年時代の僕、ブロードウェイの劇場で拍手を浴びた僕、そして、がんと宣告されて死を覚悟した僕。

今、2026年という新しい時代を生きる中で、僕が辿り着いた答え。それは、「自分という物語の『演出家』になり、魂が震える瞬間を一つでも多く創り出すこと」です。

3,500字という長いお手紙のような形になりますが、僕がこれまでの人生で見てきた「光と影」、そのすべてを込めてお話しさせてください。


1. 「傍観者」だった僕が、「当事者」になった瞬間

僕はもともと、自分に自信なんてこれっぽっちもない人間でした。実家は銀座の「茶茶馬(ちゃちゃま)」という喫茶店で、周りには華やかな大人たちがたくさんいましたが、僕はいつもどこか冷めた目で、壁の隙間から世界を覗いているような子供だったんです。

「自分は何者でもない」「何をしても中途半端だ」。そんな強い劣等感と孤独の中にいました。

そんな僕の人生を根底から変えたのは、21歳の時の凄惨な自動車事故でした。車は大破し、僕はフロントガラスを突き破って放り出された。その瞬間、視界が真っ白になり、スローモーションの中で「ああ、僕は死ぬんだ」と確信しました。

でも、奇跡的に助かった。病院のベッドで目を覚ましたとき、窓から差し込む太陽の光が、信じられないほど美しく、力強く見えたんです。「ああ、僕は生きている。この光を感じることができるんだ」と。

それまでの僕は、自分の人生なのに、どこか客観的に、冷めた観客席から眺めているような「傍観者」でした。でも、その事故を境に「いつ死ぬかわからないのなら、今この瞬間、自分の魂を爆発させて生きなければ損だ」と心の底から思うようになった。

人生で一番大事なことの一つ目は、「自分を自分の人生の主役、そして演出家に据えること」です。誰かの顔色を伺ったり、世間の評価を気にしたりするのではなく、「自分がどう感じ、どう動きたいか」という情熱の源泉に、常に忠実であること。それがすべての始まりです。

2. 成功の裏にある「虚無」と、「プロセス」の輝き

その後、演出家としてデビューし、ありがたいことに多くのチャンスに恵まれました。2004年には、念願だったニューヨークのブロードウェイで『太平洋序曲』を演出することができました。東洋人初ということで注目され、トニー賞にもノミネートされた。

周囲からは「成功者」と呼ばれました。でも、その時の僕の心はどうだったかというと、実はひどく乾いていたんです。

賞をもらうこと、高い評価を得ること、それ自体は素晴らしい。けれど、それをゴールにしてしまうと、達成した瞬間に次の「もっと大きな成功」を追いかけなければならなくなる。それはまるで、終わりのないエスカレーターに乗っているような感覚でした。

そこで気づいたんです。人生において本当に大事なのは「結果」ではなく、「何かに夢中になっているプロセスそのもの」なのだと。

舞台を作る時、役者たちとぶつかり合い、試行錯誤し、一つのシーンが魔法のように立ち上がる瞬間。あの、魂が震えるような高揚感。それこそが人生の宝物であって、幕が降りた後の拍手や評価は、あくまで「おまけ」に過ぎない。

今の2026年という時代、SNSなどで他人の「結果」や「キラキラした生活」が嫌でも目に入ってきます。でも、どうか騙されないでほしい。大事なのは、あなたが今、何に心を動かし、何に夢中になっているかという「体温」です。 効率や正解を求めるのではなく、無駄に見えるような回り道の中にこそ、あなたの人生の「演出」が光る瞬間があるはずです。

3. 「がんと共生する」ことで見えた、真の自由

2019年、僕は前立腺がんの告知を受けました。死の恐怖が再び目の前に現れたとき、不思議と僕は「ああ、やっぱりきたか」という妙な納得感と、それ以上に「今、この時間をどう彩るか」という強い意欲を感じたんです。

「なぜ僕が?」と天を恨むのではなく、「この経験すら、僕という演出家は、どう作品(人生)に取り入れようか」と考えた。

がんと向き合う中で、僕は「生きる」ことの定義を更新しました。健康であることは素晴らしいけれど、たとえ病を抱えていても、不自由であっても、「心はどこまでも自由でいられる」ということです。

がんを公表したとき、多くの励ましをいただきました。それと同時に、僕と同じように病や困難に直面している人たちの声もたくさん聞いた。そこで確信したのは、「弱さや傷をさらけ出すことこそが、人と深く繋がるための鍵になる」ということ。

完璧な人間なんて一人もいません。みんな何かしらの欠落や痛みを抱えている。それを隠して「強く見せる」のではなく、「これが今の僕です」と等身大で向き合う。そのとき、初めて本当の意味での「共感」や「愛」が生まれる。

人生で一番大事なことの二つ目は、「自分の弱さを愛し、それを他者と共有する勇気を持つこと」です。あなたの傷跡は、あなたという人間を輝かせるための「陰影」になります。舞台でも、強い光だけでは何も見えない。深い影があるからこそ、光が際立つのと同じです。

4. 2026年、僕が考える「IKIGAI」と繋がりの力

昨年、僕は能登の復興支援をテーマにした映画『生きがい IKIGAI』を監督しました。そして今、三島由紀夫の『サド侯爵夫人』という、究極の愛と信念を問う舞台を演出しています。

これらの仕事を通じて痛感しているのは、「人は一人では絶対に輝けない」ということです。

演出家の仕事は、一見、独裁者のように見えるかもしれません。でも実際は違います。スタッフやキャスト、一人ひとりの魂の奥底にある「火種」を見つけ、それを引き出し、調和させていく作業です。

人生における「生きがい」とは、自分のためだけに生きることではなく、「自分の情熱が、誰かの喜びや力と共鳴すること」。その境界線が消える瞬間に、私たちは最大の幸福を感じるのではないでしょうか。

孤独が叫ばれる今の世の中ですが、だからこそ「想像力」を持ってほしい。隣にいる人が何を考え、何を痛めているのか。国籍や世代、価値観の違いを超えて、「相手の物語」を想像してみる。

僕が今、演出している『サド侯爵夫人』でも、登場人物たちは激しく対立しますが、そこには「相手を理解したい」という切実な願いがあります。

「想像力を持って他者と繋がること」。 これが、今の僕が考える、人生において守り抜くべき大切なことです。

5. あなたという「唯一無二」の舞台へ

3,500字という長いお話をさせていただきましたが、結局のところ、僕があなたに伝えたいのは、とてもシンプルなことです。

「あなたは、世界でたった一人の素晴らしい演出家である」ということです。

あなたの人生という舞台に、他人の脚本はいりません。

「こうあるべきだ」という社会のルールも、脇役でいい。

あなたが「美しい」と感じるもの、「好きだ」と叫びたいもの、あるいは「悲しくてたまらない」と思うこと。その一つひとつの感情に丁寧に向き合い、あなたの言葉で、あなたのステップで表現してください。

もし今、あなたが暗闇の中にいると感じているなら、それは「次に幕が開く前の、暗転の最中」なのだと考えてみてください。暗闇が深ければ深いほど、次のシーンで浴びるスポットライトは眩しく感じられます。

人生で一番大事なこと。

それは、「最期の幕が降りるその瞬間まで、自分自身に『ブラボー!』と言えるような、心躍る演出を続けること」。

たとえ失敗しても、転んでも、それすらも「面白い伏線だったな」と笑い飛ばせるような、そんなしなやかで力強い魂を、僕もあなたと一緒に持ち続けたいと思っています。

さあ、あなたの次のシーンを始めましょう。

どんな演出にするかは、すべてあなた次第です。

僕は客席から、あるいは隣の舞台から、あなたの人生という素晴らしい作品に、精一杯の拍手を送っています。

ワクワクしましょう。

生を、謳歌しましょう。

またどこかの劇場で、あるいは人生の交差点でお会いできるのを楽しみにしています。

宮本亞門