こんにちは、吉岡里帆です。

「人生で一番大事なことは何ですか?」という、とても深く、そして素敵な問いを投げかけてくださり、ありがとうございます。今の私にできる精一杯の言葉で、ゆっくりとお話しさせてくださいね。

3500字という長いお手紙のような形で、私のこれまでの歩みや、その中で見つけてきた「心の灯火」について綴ってみようと思います。少し長くなりますが、温かい飲み物でも片手に、リラックスして読んでいただけたら嬉しいです。


はじめに:京都の空の下で考えていたこと

私は京都で生まれ育ちました。古い街並みや、四季折々の表情を変える景色が当たり前にある環境です。幼い頃の私は、どちらかと言えば静かな子供で、書道に打ち込んだり、映画や演劇の世界に憧れを抱いたりしていました。

当時の私にとって、人生で一番大事なことなんて、まだ雲を掴むような話でした。ただ漠然と「何者かになりたい」「表現をしたい」という強い熱量だけが、体の中で静かに燃えていたのを覚えています。

でも、夢を追いかけ始めてからの日々は、決してキラキラしたものではありませんでした。そこから私の「人生で大事なこと」探しが始まったように思います。


1. 「夜行バス」が教えてくれた、積み重ねる力

俳優を目指して、京都の大学に通いながら東京の養成所へ通っていた数年間。私は何度も何度も、夜行バスに乗って往復していました。

当時の私にはお金もコネクションもなく、ただ「演技を学びたい」という一心で、格安の深夜バスのシートに身を沈めていました。朝方に新宿や東京駅に着き、漫画喫茶で身支度を整えてオーディションに向かう。そして結果が出ないまま、また夜のバスで京都へ帰る。そんな繰り返しでした。

あの暗いバスの中で、窓の外を流れる街灯を眺めながら、私はいつも自問自答していました。「私のやっていることに意味はあるんだろうか」「このまま誰にも見つけてもらえないんじゃないか」と。

そんな苦しい時期に気づいたのが、「結果が出るまでやり続けること」、そして「その過程自体を愛すること」の大事さです。

多くの人は、結果だけを求めて最短距離を走ろうとします。でも、人生にはどうしても「溜めの時間」が必要なんです。芽が出る前の、土の中で根を張っている時間。そこを疎かにせず、泥臭く、地道に一歩ずつ進むこと。夜行バスの揺れに耐えたあの時間は、今の私の根性や、どんな現場でも動じない精神的なタフさを育ててくれました。


2. 四つのアルバイトと「目の前の人」

下積み時代、私は四つのアルバイトを掛け持ちしていました。歯科助手、居酒屋、カフェ、派遣の清掃……。今振り返ると、その経験は俳優としての技術以上に、私の人生観を大きく変えてくれました。

アルバイトを通じて出会ったのは、本当に多様な人生を歩んでいる方々でした。

  • 歯が痛くて不安そうに来院される患者さん。
  • 仕事帰りに一杯のお酒で一日の疲れを癒やす会社員の方。
  • 誰も見ていないところで黙々と床を磨き上げる清掃の先輩。

その方々と接する中で学んだのは、「誠実であること」の尊さです。

どんなに小さく見える仕事であっても、そこに心を込める人がいる。その誠実さが、誰かの心を救ったり、世界をほんの少し綺麗にしたりする。

俳優の仕事も同じです。画面の向こう側にいる誰かが、私を見て少しでも元気になってくれたり、心が動いたりしてくれたらいい。そう願う原点は、あの多忙なアルバイト生活の中にありました。

人生で大事なのは、「今、自分の目の前にいる人や、目の前にある仕事に対して、どれだけ純度の高い真心を込められるか」。これに尽きるのではないかと、今の私は強く感じています。


3. 書道八段から学んだ「今、この瞬間の命」

私は長年、書道を続けてきました。真っ白な半紙に向かい、墨を磨り、筆を置く。あの静寂の時間が大好きです。

書道が教えてくれたのは、「二度と同じ瞬間は訪れない」という覚悟です。

一度筆を入れたら、後戻りはできません。書き直しもきかない。その瞬間の呼吸、指先の微かな震え、心の乱れがすべて文字に現れます。

これは人生そのものです。私たちはつい、「明日がある」「また次がある」と思ってしまいがちですが、本当は「今」という瞬間が積み重なっているだけなんですよね。

お芝居の現場でも、本番のカメラが回る瞬間の緊張感は、書道のあの一筆目と似ています。その一瞬に、これまでの自分の人生すべてを乗せてぶつける。

「今、ここ」を全力で生き切ること。 過去への後悔や未来への不安に心を奪われるのではなく、目の前の白い紙(現在)に、今の自分の精一杯の墨を乗せる。それが、自分らしい人生を描く唯一の方法なのだと信じています。


4. 弱さを受け入れ、感謝の風を吹かせる

ありがたいことに、多くの方に知っていただけるようになってから、プレッシャーや責任を感じる場面も増えました。時には心が折れそうになったり、自分の無力さに打ちひしがれたりすることもあります。

以前の私は、強くあろうとして無理をしていました。「弱音を吐いてはいけない」「完璧でなければならない」と自分を追い詰めていたんです。

でも、ある時から考え方が変わりました。

「弱さ」を認めることは、決して恥ずかしいことではない。 むしろ、自分の弱さを知っているからこそ、他人の痛みにも敏感になれるし、周りの人の支えがどれほど有り難いものかに気づくことができるんです。

私の周りには、いつも支えてくださるスタッフさん、切磋琢磨する共演者の方々、そして何より、応援してくださるファンの皆さんがいます。

私が今ここに立っていられるのは、自分の力ではなく、皆さんが吹かせてくれる「追い風」があるからです。

だから、人生で一番大事なことの一つに、私は「感謝を循環させること」を挙げたいです。

いただいた優しさやチャンスを、自分のところに留めておくのではなく、もっと良い作品を作ることや、誰かへの言葉を通じて外へ返していく。感謝の気持ちを持って生きていると、不思議と心に余裕が生まれ、新しい幸せが舞い込んでくるような気がします。


5. 私が考える「人生で一番大事なこと」の答え

さて、ここまでいろいろとお話ししてきましたが、結局のところ、私が思う「人生で一番大事なこと」を一つの言葉に凝縮するなら、それは……

「自分自身の人生を、誰よりも深く慈しみ、面白がること」

だと思います。

人生には、晴れの日もあれば、土砂降りの雨の日もあります。

思いがけない幸運に恵まれることもあれば、理不尽な出来事に涙を流す夜もあります。

でも、そのすべてが「あなた」という物語を構成する、かけがえのない1ページなんです。

夜行バスで泣いていた二十歳の私も、ドラマの撮影で悩み抜いている今の私も、全部繋がっていて、全部私です。

誰かと自分を比べて落ち込む必要はありません。あなたの人生の主役は、他の誰でもない、あなた自身です。

「今日は良いことがなかったな」と思う日でも、道端に咲く花が綺麗だったり、ご飯が美味しかったり、そんな小さな幸せを見つけられる自分を、どうか褒めてあげてください。

そして、自分の可能性を信じてあげてください。

私は俳優として、これからも誰かの人生に寄り添えるような表現を続けていきたいと思っています。

それが私の「面白がり方」であり、「慈しみ方」だからです。


おわりに:あなたへ

3500字近く、私の拙い想いをお伝えしてきました。

最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

この文章を読んでくださっているあなたも、きっと今、何かに向き合い、一生懸命に生きていらっしゃるのだと思います。

もし今、少し疲れていたり、迷っていたりするのなら、どうか自分を優しく抱きしめてあげてください。

人生で一番大事なことは、遠くにあるすごい目標を達成することではなく、「今日という日を、あなたらしく、誠実に、そして少しの遊び心を持って生きること」だと、私は信じています。

あなたの明日が、光に満ちた素敵な一日になりますように。

私も、京都の空や東京の空の下で、精一杯歩き続けます。

またいつか、作品を通じて、あるいはどこかでお会いできるのを楽しみにしています。

吉岡里帆より