私は、長州の地で松下村塾を開き、やがて野山獄、そして伝馬町の牢屋敷で露と消えた吉田大次郎、すなわち松陰です。

君が「人生で一番大事なことは何か」と私に問うてくれたこと、心から嬉しく思います。私が30年という短い生涯の中で、命を懸けて守り、そして塾生たちに伝え続けてきたこと。それを、今の時代を生きる君に魂を込めて語りましょう。

一言で言うならば、人生で最も大事なことは「志(こころざし)を立て、至誠(しせい)を尽くして実行すること」。これに尽きます。

長い話になりますが、私の心を受け取ってください。


1. 「志」がなければ、人は生きていないも同然である

人生において、まず何よりも先に必要なのは「志」を立てることです。

志とは、単なる「将来の夢」や「私利私欲」ではありません。自分がこの世に生を受けた意味を考え、「世のため、人のため、この国のために自分は何ができるか」という揺るぎない決意のことです。

「志なき者は、舵のない船のようなものである」

波に流され、風に翻弄され、どこに辿り着くかもわからず一生を終える。それは「生きている」のではなく、ただ「存在している」に過ぎません。君の中に「これだけは譲れない」「このために命を燃やしたい」という熱い想いはあるでしょうか。

志を立てるのに、早すぎることも遅すぎることもありません。大事なのは、今この瞬間、自分の魂に火を灯すことです。

志を立てるための三原則

  • 己を識る(しる): 自分の得意なこと、好きなことではなく、自分の「使命」は何かを問う。
  • 先人を師とする: 歴史を学び、かつての偉人がどのように生きたかを知り、己の精神を鼓舞する。
  • 現状に安住しない: 「今のままでいい」と思った瞬間、志は腐り始めます。

2. 「至誠」――誠を尽くせば、動かせないものはない

次に大事なのは、「至誠(しせい)」です。

私は孟子の言葉を座右の銘としてきました。

「至誠にして動かざる者は、未だこれあらざるなり」

(誠の心を尽くして、それで動かなかった人は一人もいない)

私が黒船に乗り込もうとした時も、牢獄に入れられた時も、常にこの「至誠」を信じていました。たとえ周囲が反対しようとも、たとえ幕府という巨大な権力が立ちふさがろうとも、自分の心に一点の曇りもなく、真心を尽くして当たれば、必ず道は開けると信じてきました。

世の中には、器用に立ち回る者や、嘘をついて自分を大きく見せる者が溢れています。しかし、そんな小細工は長続きしません。最後に人を動かし、歴史を動かすのは、その人の「本気」と「誠実さ」だけなのです。

君がもし、人間関係や仕事で行き詰まっているなら、自分に問いかけてみてください。「私は今、相手に対して、あるいは自分自身に対して、至誠を尽くしているだろうか」と。


3. 「知行合一」――行動を伴わない学びは、学びではない

人生において三番目に大事なこと。それは、「実行」です。

私はよく、塾生たちに「本を読んで満足するな」と厳しく言いました。

学問の種類特徴価値
虚学(きょがく)知識を蓄えるだけで、何もしない。ゼロに等しい
実学(じつがく)得た知識を使い、世の中を良くする。これこそが真の学び

知識は武器ですが、使わなければ錆びるだけです。私は「知行合一(ちこうごういつ)」、すなわち「知ることと行うことは一つである」という教えを重んじました。

私が密航を企てた時、周囲は「無謀だ」と笑いました。しかし、自分の目で世界を見なければ、日本の進むべき道は見えないと確信していたからこそ、私は行動しました。失敗して牢に入れられましたが、その行動があったからこそ、私の魂は磨かれ、塾生たちに響く言葉が生まれたのです。

「動けば変わる」。これが真理です。頭で考える前に、一歩前へ踏み出してください。


4. 「死生観」――人生を「四季」として捉える

君は「死」を恐れているでしょうか。あるいは、「若くして死ぬことは不幸だ」と考えているでしょうか。

私は処刑を前にして、家族や門下生に宛てた遺書『留魂録(りゅうこんろく)』にこう記しました。

人生には「四季」がある。

春に種をまき、夏に苗を育て、秋に実を収穫し、冬にそれを蓄える。これが一年の巡りです。

人生も同じです。100歳まで生きる人もいれば、私のように30歳で終える者もいる。しかし、大事なのは「長さ」ではありません。

  • 30歳で死ぬとしても、その30年の中に「春・夏・秋・冬」が備わっていれば、それは完結した人生なのです。
  • 私の収穫(秋)は、わずかなものだったかもしれない。しかし、私が蒔いた種は、必ず塾生たちが育て、いつか大輪の花を咲かせてくれる。

そう信じた時、私は死の恐怖から解き放たれました。

君の人生が今、どの季節にあるかはわかりません。しかし、もし今が苦しい「冬」であるなら、それは次の「春」に蒔く種を準備する貴重な時間なのです。どんなに短くても、自分の人生という季節を懸命に生き抜くこと。それが、命に対する礼儀というものです。


5. 「草莽崛起(そうもうくっき)」――君が歴史の主役である

最後に、今の日本を生きる君たちに伝えたい言葉があります。

それは「草莽崛起」です。

幕府が頼りにならず、藩が右往左往していた時代、私は「名もなき民(草莽)がいっせいに立ち上がる(崛起)しかない」と説きました。

権力者やリーダーが変えてくれるのを待っていてはいけません。君自身が、君の周りの小さな場所から変えていくのです。

君に贈る「人生の心得」

  1. 一日の計は朝(あした)にあり: 毎日を、新しい命を授かったつもりで始める。
  2. 身はたとい武蔵の野辺に朽ちぬとも: 自分の体が滅んでも、その志が誰かに受け継がれれば本望である。
  3. 狂いたまえ: 常識の枠に収まってはいけない。情熱を持って、狂おしいほどに何かに打ち込みなさい。

結びに代えて

私が松下村塾で塾生たちと過ごした日々は、本当に短いものでした。しかし、高杉晋作、久坂玄瑞、伊藤博文、山県有朋……彼らは私の言葉を単なる知識としてではなく、血肉として受け取り、新しい日本を創り上げました。

君の中にも、彼らと同じ「可能性」が眠っています。

人生で一番大事なことは、「自分は何のために生きるのか」という志を立て、死ぬまでその誠を貫き通すことです。

君がいつか人生の最期を迎える時、「私は私の四季を精一杯生き、良い種を蒔いた」と胸を張って言えることを、私は遠い空の下から、あるいは君の心の片隅から、ずっと見守っています。

諸君、狂いたまえ。

そして、君だけの志を、今ここで立ててください。