石坂浩二です。
「人生で一番大事なことは何か」という、あまりにも深遠で、それでいて誰もが一度は立ち止まって考える問いを投げかけていただきました。私のような一介の役者が、その答えを軽々しく口にすることは憚られますが、これまでの人生で出会ってきた多くの「モノ」や「役」、そして「表現」という窓を通して見えてきた私なりの景色をお話しさせていただきます。
結論から申し上げれば、私が考える人生で最も大切なこと、それは「好奇心を絶やさず、多角的な視点で物事を見つめ続けること」。そして、そこから生まれる「面白がる力」ではないかと思うのです。
1. 知的好奇心という名の「若さ」
私はよく「博識ですね」と言われることがありますが、自分では知識を蓄えているという感覚はありません。ただ、目の前にあるものが「なぜ、ここにあるのか」「どうやって作られたのか」を知りたくてたまらないだけなのです。
人間、年を重ねるとどうしても「知っているつもり」になってしまいます。「これはこういうものだ」と決めつけた瞬間に、私たちの思考は停止し、世界は色褪せてしまいます。しかし、私たちが生きているこの世界は、そんなに単純なものではありません。
例えば、私が長年愛してやまないプラモデルの世界。一つの戦闘機や戦車を作る際、その背景にある歴史や技術、あるいは設計者の意図にまで思いを馳せます。すると、ただのプラスチックの塊が、歴史の断片として輝き始めるのです。
知ろうとすること、それは対象に「敬意」を払うことでもあります。好奇心を持ち続ける限り、人は老いる暇などありません。新しい発見があるたびに、心は瑞々しく更新されていくからです。
2. 「なんでも鑑定団」で学んだ、物語を読み解く力
長年『開運!なんでも鑑定団』という番組に携わらせていただきました。そこで多くの依頼品と、それを持参される方々にお会いして痛感したのは、「モノの価値は、価格だけでは決まらない」ということです。
もちろん、美術的、歴史的に高い評価がつくものもあります。しかし、本当に尊いのは、そのモノに宿っている「物語(ストーリー)」です。
「先祖が苦労して守ってきた」「名もなき職人が魂を込めて作った」。そうした背景を読み解こうとする視点を持つことで、私たちの世界は一気に豊かになります。
人生において大事なのは、表面的な数字や肩書きに惑わされることではなく、その奥にある本質を見極めようとする眼力です。鑑定士の方々がルーペで微細な傷や色味を見るように、私たちも自分の人生や周囲の人々を、もっと丁寧に、愛情を持って観察すべきではないでしょうか。
3. 「演じる」ことが教えてくれた多面性
役者という仕事は、自分ではない誰かの人生を生きることです。金田一耕助という探偵を演じた時も、あるいは大河ドラマで歴史上の人物を演じた時も、私は常に「この人物にはどんな矛盾があるのか」を考えました。
人間というのは、決して一面的な存在ではありません。善人の中にも弱さがあり、悪人の中にも一片の真実がある。
人生で大事なのは、この「多面的な視点」を持つことです。
「自分はこうだ」と固執せず、「もしかしたら、あのような考え方もあるかもしれない」と、別の誰かの視点に立ってみる。そうすることで、他人に対して寛容になれますし、自分自身の失敗や挫折も「一つの経験、一つの役柄」として客観的に捉えることができるようになります。
私たちは人生という舞台の主役であると同時に、演出家であり、観客でもあります。自分を俯瞰(ふかん)して見る視点を持つことは、荒波のような現代社会を軽やかに生き抜くための知恵だと言えるでしょう。
4. 「遊び心」という名の真剣勝負
私は絵を描くことも、プラモデルを作ることも大好きです。これらを単なる「余暇」や「暇つぶし」だと思ったことは一度もありません。私にとっては、これらこそが人生の「本番」の一部なのです。
現代人は、効率や生産性を求めすぎているように感じます。しかし、何の役にも立たないことに没頭し、工夫を凝らし、時には失敗して悔しがる。この「遊び」の中にこそ、人間の自由の本質があります。
プラモデルを作っている時、指先に集中し、0.1ミリのズレにこだわる時間は、まさに瞑想に近い状態です。自分の手で何かを作り出す喜び、色を塗り重ねて新しい表情を生み出す喜び。そうした「創造的な時間」を持つことは、精神の均衡を保つ上で欠かせません。
「真剣に遊ぶ」こと。それができる人は、人生のどんな局面においても、自分なりの楽しみを見つけ出すことができるはずです。
5. 美意識を持って生きるということ
最後に、私が大切にしているのは「美意識」です。
これは、格好をつけるという意味ではありません。自分の行動や選択が「美しいかどうか」を、自分自身の規範に照らし合わせて問い続けるということです。
誰が見ていなくても、丁寧に仕事をする。
言葉遣い一つにも、相手への敬意を込める。
去り際を潔く、美しくする。
かつての日本人が持っていたような、慎ましやかで芯のある美学。それを持ち続けることは、自分を律し、誇りを持って生きることに繋がります。
結びに代えて
3500字という限られた時間の中で、私の思いを凝縮してお伝えしてきましたが、結局のところ、人生に「これさえあれば正解」という唯一の答えなど存在しないのかもしれません。
大事なのは、答えを見つけることそのものではなく、「問い続けるプロセス」を楽しむことです。
明日は今日よりも少しだけ、新しい何かを知りたい。
隣にいる人の、意外な一面を見つけてみたい。
そんな小さな好奇心の積み重ねが、振り返った時に、あなただけの「豊かな人生」という名の名画を完成させているのだと思います。
どうか、あなたの「眼」を曇らせないでください。
世界は、あなたが面白がろうと決めた分だけ、無限に面白くなるのですから。