やあ、こんにちは。児玉清です。
「人生で一番大事なことは何か」……。そんな大層な問いを私に投げかけてくださるなんて、恐縮すると同時に、身の引き締まる思いです。ふだん、クイズ番組で「アタックチャンス!」などと威勢よく拳を握っていた私ですが、いざ自分自身の人生を振り返り、その核心にあるものを言葉にしようとすると、心地よい緊張感とともに、静かな書斎で一冊の古い本を開くときのような、深い感慨が込み上げてきます。
もし、私がこの問いに一つだけ答えを出すとするならば、それは「想像力を羽ばたかせ、他者の人生を生きる糧にすること」。そして、その根底にある「知的好奇心を持ち続けること」だと言えるかもしれません。
少し長くなりますが、私のこれまでの歩みと、本から学んだ知恵を交えて、ゆっくりとお話しさせてください。
1. 知的好奇心という名の「アタックチャンス」
私の人生を語る上で、切っても切り離せないのが「本」の存在です。私はこれまで、数えきれないほどの物語を読み、何万人もの登場人物と対話してきました。なぜそこまで本を愛したのか。それは、本というものが、たった一度きりの自分の人生を、何百倍にも、何千倍にも広げてくれるからです。
人生には、どうしても自分の力だけでは変えられない環境や、自分一人の経験では到達できない感情があります。しかし、ページをめくればどうでしょう。私は19世紀のロンドンを歩くこともできれば、宇宙の果てを旅することも、絶望の淵に立たされた誰かの心の震えを共に感じることもできる。
「知らない」を楽しむ姿勢
私が『アタック25』という番組で36年間司会を務めさせていただけたのも、結局は「人間に対する好奇心」があったからだと思っています。
- 「この方は、どんな思いで今日このステージに立っているのだろう?」
- 「この知識の裏側には、どんな物語があるのだろう?」
そんな好奇心こそが、人生を彩る最大のエンジンです。「知る」ということは、世界が広がる喜びであり、自分の中に新しい窓が開く瞬間です。 どんなに年齢を重ねても、「もっと知りたい」「なぜだろう」と目を輝かせている人は、実に若々しく、魅力的なものです。
人生のチャンス――いわば「アタックチャンス」は、何も特別な時だけに訪れるのではありません。日常のふとした疑問や、手に取った一冊の本、目の前の人への興味。そうした「小さな扉」を開こうとする好奇心そのものが、素晴らしい人生への入り口なのです。
2. 想像力という「優しさ」の形
次に大事だと思うのは、「想像力」です。それも、単なる空想ではなく、「他者の痛みや喜びを想像する力」のことです。
私は俳優という仕事をさせていただきましたが、役を演じるということは、徹底的にその人物の背景を想像することに他なりません。なぜこの人はここで怒るのか、なぜこの場面で沈黙するのか。その「なぜ」を突き詰めていくと、最後には「人間というものの愛おしさや、やるせなさ」に突き当たります。
活字から学ぶ「共感」
現代は効率が優先され、何でも短く、分かりやすく処理される時代です。しかし、人間という生き物は、そんなに簡単なものではありません。
私がミステリー小説を好んで読んだのは、単に謎解きが面白いからではありません。そこには、犯罪に手を染めてしまった者の悲哀や、正義を貫こうとする者の葛藤、つまり「人間の深淵」が描かれているからです。
本を読むという行為は、静寂の中で他者の人生に深く潜っていく作業です。
- 自分とは違う価値観を持つ人がいる。
- 自分が経験したことのない苦しみの中で、歯を食いしばっている人がいる。
それを知っているかいないかで、人への接し方は自ずと変わります。想像力こそが、真の「優しさ」や「品性」を形作るのだと私は信じています。自分が発する一言が、相手をどれだけ勇気づけるか、あるいはどれだけ深く傷つけるか。それを立ち止まって想像できる心の余裕。それこそが、成熟した大人が持つべき一番の宝物ではないでしょうか。
3. 誠実であること、そして「負け」の美学
クイズ番組では、勝利してパリ旅行を手にする方もいれば、一点も取れずにパネルが真っ白なまま終わる方もいらっしゃいました。しかし、私が本当に心を打たれたのは、実は後者の方々の潔い姿だったりします。
人生は、常に右肩上がりではありません。むしろ、思い通りにいかないこと、悔しい思いをすることの方が圧倒的に多い。私自身の俳優人生も、決して順風満帆ではありませんでした。東宝のニューフェイスとして入ったものの、なかなか芽が出ず、将来に不安を感じていた時期も長くありました。
真摯に向き合うということ
そんなとき、私を支えてくれたのは「誠実であること」でした。
どんなに小さな役でも、どんなに短い司会の時間でも、今の自分にできる全力を注ぐこと。手を抜かず、誤魔化さず、目の前の仕事と人に対して真摯であること。
そして、もし失敗したとしても、それを「負け」として卑下するのではなく、「自分に足りなかったものを教えてくれる貴重な時間」として受け入れる。パネルが赤や青に染まらなくても、その場に立って挑戦したという事実は消えません。
「大事な大事なアタックチャンス」をものにできなかったとしても、また次のクイズに答えればいい。人生というゲームの解答権は、私たちが諦めない限り、何度でも巡ってきます。誠実に歩み続けていれば、いつか必ず、自分なりの「正解」に辿り着けるはずです。
4. 孤独を友とし、静寂を愛でる
今の世の中は、常に誰かと繋がっていなければならないような、少し慌ただしい雰囲気を感じます。しかし、私はあえて申し上げたい。「一人でいる時間を大切にしてください」と。
私が切り絵に没頭していた時間、あるいは深夜に一人で書評を書いていた時間は、私にとって最も贅沢で、自分自身を取り戻せる時間でした。
孤独は寂しいものではありません。それは、自分の内面と対話し、魂を耕すための「静寂な庭」のようなものです。
深い呼吸、深い思考
一冊の本を手に、お気に入りの椅子に座り、ページをめくる音だけが響く。そこには、誰にも邪魔されない自由があります。自分の頭で考え、自分の心で感じる。この「自律した時間」があるからこそ、私たちは社会の中で他者と健やかに繋がることができるのです。
人生の最後に残るのは、地位でも名誉でもなく、「自分はどれだけ豊かな時間を過ごしたか」という記憶ではないでしょうか。その豊かさとは、決して派手なものではなく、夕陽の美しさに目を細めたり、心震える一節に涙したりするような、静かな感動の積み重ねだと思うのです。
結びに代えて:あなたの物語のページをめくってください
さて、長々とお話ししてきましたが、そろそろアタック25の終了のチャイムが聞こえてきそうな時間です。
人生で一番大事なこと。それは、「自分という物語の読者であり、同時に最高の執筆者であること」ではないかと私は思います。
- 知的好奇心というペンを持ち、
- 想像力という豊かなインクを使い、
- 誠実さという真っ直ぐな行間に、
- あなただけの「心の震え」を刻んでいく。
世界には面白いことが溢れています。素晴らしい本も、まだ見ぬ景色も、魅力的な人々も、あなたがページをめくるのを待っています。
どうか、失敗を恐れずに。
勇気を持って、あなたの「アタックチャンス」に挑んでください。
その先には、今のあなたには想像もつかないような、美しく輝かしい景色が広がっているはずですから。
今日は、私の拙い話に耳を傾けてくださって、本当にありがとうございました。
あなたの人生という素晴らしい物語が、これからも知性と慈しみに満ちたものでありますよう、心から願っております。