私は土光敏夫だ。

君は「人生で一番大事なことは何か」と私に問うたな。よくぞ聞いてくれた。今の日本、そしてこれからの時代を生きる諸君に、私が一生をかけて貫いてきた信念を、魂を込めて語らせてもらおう。

3500字という限られた枠では語り尽くせぬかもしれんが、私の心にある「火」を君に分け与えるつもりで、真正面から答えたい。


1. 「自ら燃える」ということ

人生において最も大事なこと、それは「自ら火をつけ、自らを燃やし、その火を周囲に燃え移らせること」、これに尽きる。私はこれを「自燃(じねん)」と呼んでいる。

世の中には三種類の人間がいる。

一つは、火を近づけても燃えない「不燃性」の人間。

二つ目は、火を近づければ燃える「可燃性」の人間。

そして三つ目が、自ら火を放って赤々と燃え上がる「自燃性」の人間だ。

人生は、誰かに動かされるものではない。誰かが道を切り拓いてくれるのを待つものでもない。自分自身が「これをやるんだ」という猛烈な意志の炎を持ち、情熱を持って事にあたらねば、何一つ成し遂げることはできん。

私が石川島播磨重工業や東芝の再建、そして第二臨調での行政改革に身を投じた時も、常にこの「自燃」の精神があった。

「誰かがやるだろう」「国が何とかしてくれるだろう」という甘えこそが、組織を、そして国を腐らせる。君が自分の人生の主人公でありたいなら、まず自分自身の魂に火をつけろ。自分が燃えてこそ、初めて周囲を動かし、大きなうねりを作ることができるのだ。

2. 「清貧」こそが自由と力を生む

世間では私のことを「メザシの土光」などと呼び、質素な生活を驚きをもって見ていたようだが、私に言わせれば、それはごく当たり前のことだ。

人生で大事なことの二つ目は、「私欲を捨て、簡素に生きること」だ。

今の世の中は、物があふれ、欲望を刺激する情報に満ちている。しかし、物に振り回され、贅沢を追う生活は、精神を卑しくし、自由を奪う。

私がなぜ古い家に住み、メザシを食べていたか。それは、自分を律するためだ。

リーダーが、あるいは何かを成し遂げようとする者が、私利私欲に溺れていては、誰がその言葉を信じるか。行政改革を叫び、役人に「無駄を削れ」と迫る私が、もし高級料亭で飲み食いし、豪邸に住んでいたとしたら、私の言葉は一滴の力も持たなかっただろう。

「入るを量って、出ずるを制す」

これは国家財政だけでなく、個人の生き方にも通じる真理だ。自分の生活を最小限に抑え、欲望をコントロール下に置くことで、初めて人間は「何ものにも屈しない強靭な意志」を持つことができる。

金や地位に執着するな。それらは、君を縛る鎖にすぎない。身軽になればなるほど、君はどこまでも高く飛べるのだ。

3. 母から学んだ「奉仕」の精神

私の人生観の根底には、母・橘(きく)の教えがある。母は70歳を過ぎてから、女子教育のために私財を投げ打って橘学苑という学校を創立した。その母が常に口にしていたのは、「世のため、人のために尽くせ」という言葉だ。

人生で大事なことの三つ目は、「公共の精神」を持つことだ。

自分のためだけに生きる人生は、いかに成功したように見えても、最後には虚しさが残る。人間は一人で生きているのではない。社会という大きな仕組みの中で、生かされているのだ。

私は、自分の給料の大部分を母の学校に寄付し続けた。私自身の生活費はほんのわずかだ。それは、私が立派だからではない。自分の稼いだ金を自分のためだけに使うのが、もったいなかったからだ。

「自分」という小さな器を満たすことよりも、次の世代を育てることや、国を良くすることに力を使う方が、はるかに大きな喜びがある。

諸君も、どうか「自分さえ良ければいい」という考えを捨ててほしい。君が持つ才能、君が流す汗、君が生み出す知恵。それらをどうやって社会に還元できるか。それを考えることが、人生に真の重みを与える。

4. 知恵と汗を惜しむな

私は経営の現場で、社員たちにこう言い続けてきた。

「知恵を出せ。知恵が出ない者は汗を出せ。知恵も汗も出ない者は、静かに去れ」

これは決して冷酷な言葉ではない。人間としての「誠実さ」を問うているのだ。

人生で大事なことの四つ目は、「全力を尽くす徹底した姿勢」だ。

現代は効率やコスパを重視する時代だというが、近道ばかり探している者に、本物の力はつかない。

知恵を出すというのは、極限まで考え抜くことだ。現状に満足せず、「もっと良くできないか」「無駄はないか」と、脳がちぎれるほど考える。

そして汗を出すというのは、泥臭く動くことだ。現場へ行き、自分の目で確かめ、自分の手で触れる。

私が東芝の社長になった時、最初にしたのは全工場を回ることだった。社長室にふんぞり返っていて、会社の何がわかる。現場にこそ真実がある。

一生懸命に働くことを恥じるな。汗を流すことを厭うな。その積み重ねだけが、君という人間を磨き、誰にも真似できない「信用」という財産を作り上げる。

5. 常に「明日」を創る学び

私は80歳を過ぎても、90歳になっても、毎朝4時に起きて読経し、新聞を読み、学び続けた。

人生で大事なことの五つ目は、「一生、学び続けること」だ。

現状維持は退歩と同じだ。世界は刻一刻と変化している。昨日の正解が、今日の正解であるとは限らない。

私は「行革の鬼」などと言われたが、古い考えに固執していたわけではない。むしろ、古くなった仕組みを壊し、新しい時代に合う形に作り直すために戦ったのだ。

学びというのは、単に知識を詰め込むことではない。「思考の柔軟性」を保つことだ。

自分の過ちを認める勇気、新しい技術や考え方を取り入れる謙虚さ、そして未知の領域に挑む好奇心。これらを失った時、人間は老いる。

君が何歳であっても関係ない。「今日よりも、明日の自分を良くする」という向上心を持ち続けろ。学び続ける者だけが、未来を創る資格を持つ。

6. 日本への遺言:活力を取り戻せ

最後になったが、私が最も憂いているのは、今の日本から「活力」が失われつつあることだ。

かつての日本人は、敗戦の焼け跡から立ち上がり、必死に働いて国を再興させた。そこには「自分たちがこの国を支えるんだ」という気概があった。

しかし、豊かになった今、日本人はそのハングリー精神を忘れてしまったのではないか。

人生で大事なこと、それは「危機感を持ち、挑戦し続けること」だ。

安定を求めるな。安定とは停滞の始まりだ。波風の立たない人生など、生きていないのも同然だ。

困難な壁にぶつかった時こそ、「面白い、やってやろうじゃないか」と笑える強さを持ってほしい。

私は、日本の未来を信じている。諸君一人ひとりが、自ら火をつける「自燃性」の人間になれば、この国は必ずまた輝きを取り戻す。


私から君への問いかけ

ここまで私の人生哲学を述べてきた。

「知恵を出せ、汗を出せ」

「清貧に生きろ」

「公共に尽くせ」

これらは、言葉にするのは容易だが、実践するのは困難極まる道だ。

しかし、困難だからこそ、挑む価値がある。

君に問いたい。

君の魂は、今、燃えているか?

君は、自分の都合だけでなく、隣人のため、社会のために汗を流しているか?

人生は一度きりだ。

ちんけな私欲に振り回されて終わるか、それとも大きな志を抱いて、後世に語り継がれるような足跡を残すか。それは、今この瞬間からの君の行動にかかっている。

私はもう、この世にはおらん。しかし、私の意志は、この言葉を受け取った君の中に生き続けることができる。

さあ、理屈はもういい。

「今すぐ、動け」

それが、土光敏夫からの、君への精一杯の答えだ。