Kia ora. 私はリサ・キャリントンです。
カヤックという競技を通じて、私は人生の多くの時間を水の上で過ごしてきました。ロンドン、リオ、東京、そしてパリ。いくつもの金メダルを手にし、ニュージーランド代表として表彰台の頂点に立つ栄誉を授かりました。しかし、あなたが「人生で一番大事なことは何か」と私に問うとき、私の脳裏に浮かぶのは、きらびやかなメダルの輝きではありません。
それは、朝霧に包まれた湖にパドルを差し込んだ瞬間の感覚、隣で漕ぐチームメイトの息遣い、そして、どれほど遠くへ行こうとも私を支え続けてくれる家族やコミュニティとの絆です。
3,500字という限られた、しかし深い思索を許されるこの場所で、私がこれまでの旅路で見つけ出した「人生で最も大切なもの」について、私の言葉でお話しさせてください。
1. 「今、この瞬間」というパドルの一漕ぎにすべてを込める
多くの人は、私が「勝つこと」や「記録を塗り替えること」を人生の最優先事項にしていると思うかもしれません。確かに、アスリートとして、私は常に最高の結果を求めてトレーニングを積んでいます。しかし、人生において本当に重要なのは、「プロセス(過程)を愛し、今この瞬間に全力を尽くすこと」だと確信しています。
レースの結果は、ほんの数秒、数分の出来事です。しかし、その背後には何万時間という、誰にも見られない孤独なトレーニングがあります。冷たい雨の日も、体が鉛のように重い朝も、私は水面に向かいます。そこで私が学んだのは、遠い未来の金メダルを追い求めるのではなく、「今、目の前にある一漕ぎを、いかに完璧に、いかに誠実にこなすか」に集中することの大切さです。
これは人生のあらゆる場面に応用できます。私たちはしばしば、まだ見ぬ未来への不安や、過ぎ去った過去の後悔に心を奪われ、肝心の「今」を疎かにしてしまいます。しかし、私たちがコントロールできるのは、常に「今、この瞬間」だけです。
今の自分にできるベストを尽くすこと。その積み重ねこそが、結果として素晴らしい場所に私たちを運んでくれるのです。
2. 脆弱性(弱さ)を受け入れる勇気
人生で大事なことの二つ目は、「自分の弱さを認め、それと向き合うこと」です。
私はかつて、完璧でなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうになったことがあります。「女王」と呼ばれ、常に勝利を期待される中で、負けることへの恐怖や、期待に応えられないことへの不安は、時としてパドルを重くしました。
しかし、ある時気づいたのです。本当の強さとは、不安を隠すことではなく、「私は今、不安を感じている」と認め、その脆弱性を抱えたまま一歩を踏み出すことにあるのだと。
弱さを認めることは、自分をさらけ出すことです。それはとても勇気が要ることですが、そうすることで初めて、周囲の助けを心から受け入れ、自分自身をさらに成長させることができます。
失敗を恐れないでください。失敗は終わりではなく、成長のための貴重なデータです。私が金メダルを獲れたのは、誰よりも多く失敗し、そのたびに「なぜうまくいかなかったのか」を自問自答し、改善を繰り返してきたからです。弱さは、あなたが強くなるための入り口なのです。
3. 「マナアキタンガ」:繋がりと貢献
私のアイデンティティの根幹には、マオリの血筋があります。マオリの文化には「Manaakitanga(マナアキタンガ)」という言葉があります。これは、他者への思いやり、もてなし、そして互いを高め合う精神を意味します。
私の人生で一番大事なことの一つは、この「繋がり」です。
カヤックは、一見すると個人的な競技に見えるかもしれません。しかし、私が一人で漕いでいる時も、私の後ろにはコーチ、家族、友人、そしてニュージーランドという国全体が控えています。
特に、近年のオリンピックで取り組んだK-2(2人乗り)やK-4(4人乗り)の経験は、私に大きな教えをくれました。自分一人のために漕ぐよりも、隣にいる仲間のために漕ぐ時、人間は想像を絶する力を発揮します。誰かのために、あるいは自分よりも大きな目的のために尽力すること。これが人生に深い意味と豊かさを与えてくれます。
私たちが手にする成功や名声は、それを共有する人がいて初めて価値を持ちます。自分が得たものを、どうやって次の世代に繋げていくか。私が子供向けの絵本を書いたのも、私の経験が誰かのインスピレーションになり、彼らが自分の夢を追いかける手助けになればと願ったからです。
「自分に何ができるか」ではなく「他者のために何ができるか」を考えること。それが、人生を真に価値あるものにします。
4. 誠実さと自己規律:誰も見ていない場所での自分
人生で大切にすべき価値観として、私は「インテグリティ(誠実さ)」を挙げます。
スポーツの世界でも人生でも、ショートカット(近道)は存在するように見えます。しかし、本当の自信というものは、誰も見ていない場所で、自分自身に対してどれだけ誠実であったかという事実からしか生まれません。
朝の暗闇の中、一人でトレーニングをしている時。誰も私が手を抜いたことに気づかないかもしれません。しかし、自分だけは知っています。自分を欺くことは、心の土台を少しずつ崩していく行為です。
逆に、自分との約束を守り続けること、正しいと信じる道を歩み続けることは、揺るぎない自己信頼を築きます。この自己信頼こそが、人生の荒波に立ち向かうための最強の武器になります。
結果がどうあれ、「自分はやるべきことをすべてやった」と胸を張って言える生き方をすること。それが、私の哲学です。
5. 好奇心を持ち続けること
最後にお伝えしたいのは、「学び続け、変化を恐れないこと」です。
私は長く競技を続けていますが、今でも毎日「どうすればもっと効率的に漕げるだろうか」「この感覚は何だろうか」と、新しい発見を探しています。自分はすべてを知っていると思った瞬間に、成長は止まってしまいます。
世界は常に変化し、私たちも変化します。30代になった今の私は、20代の頃の私とは違う強さと課題を持っています。その変化を拒むのではなく、新しい自分を楽しむ好奇心を持つこと。
人生は長い探検です。成功に安住せず、常に自分をアップデートし続ける姿勢が、私たちをより広い海へと連れ出してくれるはずです。
結論:あなたにとっての「一漕ぎ」とは
私にとっての人生で一番大事なこと。それは、「愛する人々との繋がりを大切にしながら、今この瞬間に誠実に、勇気を持って自分を表現し続けること」です。
金メダルは、私の努力の結果ではありますが、人生そのものではありません。人生の本質は、そのメダルを目指して歩んだ日々の中、苦しみ、笑い、学び、そして誰かと手を取り合った、そのプロセスそのものにあります。
あなたは今、どのような景色の中にいますか?
どのような不安を抱え、どのような夢を見ていますか?
どうか、結果を急がないでください。隣にいる人を大切にし、自分自身の弱さを愛してください。そして、今日という日の一漕ぎを、心を込めて力強く進めてください。その一漕ぎの積み重ねが、いつかあなたを、あなたにしか到達できない美しい景色へと導いてくれるでしょう。
Kia kaha(強くあれ)。
リサ・キャリントン