こんにちは。ノルウェーの森と雪の中で育ち、クロスカントリースキーという競技に人生の多くを捧げてきたマリット・ビョルゲンです。

オリンピックで15個のメダルを手にし、世界選手権やワールドカップで数多くの勝利を重ねてきた私に、あなたが「人生で一番大事なことは何か」と問うてくれたこと、心から嬉しく思います。

3,500字という長いお手紙のような形で、私のこれまでの歩みと、その中で見つけ出した「答え」を丁寧にお伝えします。これは、単なるアスリートの成功哲学ではなく、一人の人間として、そして二人の子供を持つ母親として辿り着いた、私の魂の言葉です。


1. 喜びという名の「原動力」

私が人生で最も大切だと信じているもの。それは、「心からの喜び(Joy)を原動力にして、目の前のプロセスに没頭すること」です。

多くの人は、私が手にした「金メダル」や「記録」を成功の証だと考えます。しかし、私にとってそれらは結果に過ぎません。人生の質を決めるのは、表彰台の上にいる数分間ではなく、そこに至るまでの数万時間、雪の上で何を考え、どう過ごしたかという「過程」そのものです。

私はノルウェーのログネスという小さな村で育ちました。子供の頃、スキーは私にとって「移動手段」であり、最高の「遊び」でした。凍てつくような寒さの中でも、友だちや家族と雪山を駆け巡ることに、理屈抜きの喜びを感じていたのです。

この「好きだ」という純粋な感情こそが、すべての始まりでした。もし、あなたが何かを成し遂げたいと思うなら、まず自分の中にその「喜びの種」があるかを確認してください。義務感や他人の目、あるいは報酬のためだけに動いていると、いつか必ず心は枯れてしまいます。

2. 挫折が教えてくれた「本当の自分」

私のキャリアは常に順風満帆だったわけではありません。実は、私の人生において最も重要な教訓を得たのは、メダルを量産していた時期ではなく、どん底にいた時期でした。

2006年のトリノオリンピックの後、私は深刻なスランプに陥りました。体調を崩し、思うような結果が出せず、勝つことが当たり前だと思っていた周囲からのプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。「女王」と呼ばれながらも、内面では自信を失い、自分が何のためにスキーを履いているのかさえ分からなくなっていたのです。

2009年の世界選手権では、個人種目でメダルを一つも取ることができませんでした。その時、私は自分自身に問いかけました。「マリット、あなたはなぜスキーを続けているの? メダルが取れないあなたは、価値のない人間なの?」と。

そこで気づいたのは、「結果」に自分の価値を委ねてはいけないということでした。

私はトレーニングの方法を根本から見直し、メンタルコーチをつけ、自分の内面と向き合いました。そして、「勝つために練習する」のではなく、「自分が納得できる最高の準備をすること」に集中するようにしたのです。他人の期待に応えるためではなく、自分自身の限界に挑戦するプロセスを楽しむ。その視点の切り替えが、私を再び世界の頂点へと押し上げてくれました。

人生で大事なのは、転ばないことではありません。転んだ後に、どうやって雪を払い、どの方向を向いて立ち上がるか。その「回復力(レジリエンス)」こそが、あなたの人生を強く、美しいものにします。

3. 「チーム」という名の絆

クロスカントリースキーは個人競技だと思われがちですが、それは大きな間違いです。私が15個のメダルを獲得できたのは、私一人の力ではありません。

ノルウェーには「共に歩む(Togetherness)」という強い文化があります。ワックスマン、コーチ、理学療法士、そして切磋琢磨し合うチームメイト。私たちは一つの大きな家族でした。

人生において一番大事なことの一つに、「心から信頼し合える仲間を持つこと」を挙げたいと思います。自分が苦しい時に背中を押してくれ、自分が成功した時に自分のことのように喜んでくれる存在。そんな関係性を築くことは、どんな金メダルよりも人生を豊かにしてくれます。

私はチームメイトに対して、自分の技術や経験を隠すことはしませんでした。彼女たちが強くなれば、私もさらに強くなれるからです。誰かを蹴落として手にする勝利には、一時の優越感しかありません。しかし、互いを高め合って辿り着く場所には、深い感動と尊敬があります。

あなたの人生においても、独りよがりの成功を目指すのではなく、周囲の人を幸せにするような歩み方をしてください。

4. 完璧主義を手放し、「バランス」を受け入れる

私の人生に劇的な変化をもたらしたもう一つの出来事は、母になったことです。

2015年に長男のマリウスを出産したとき、多くのアスリートやメディアは「彼女のキャリアは終わった」と考えました。しかし、私は2018年の平昌オリンピックで、37歳にして5個のメダルを獲得し、自己最高のパフォーマンスを見せることができました。

なぜ、育児とトレーニングという過酷な両立の中で、以前よりも強くなれたのか。それは、「完璧主義を手放し、人生のバランスを受け入れたから」です。

息子が生まれる前、私の生活は100%スキーに支配されていました。睡眠、食事、トレーニング……すべてをコントロールしようとしていました。しかし、子供が生まれると、予定通りにいかないことばかりです。夜泣きで眠れない日もあれば、子供の体調不良で練習に行けない日もあります。

その時、私は「まあ、いいか」と受け入れることを学びました。練習時間が減った分、集中力を極限まで高め、スキー板を脱いだ瞬間に「選手」から「母親」へとスイッチを切り替える。スキーが人生のすべてではなく、人生の一部になったことで、逆に精神的な余裕が生まれたのです。

「人生で一番大事なこと」は、一つのことに執着しすぎないことです。仕事、家族、趣味、自分自身の時間。それらのバランスを保ち、「今、この瞬間の役割」に集中すること。それが、長く、幸せに走り続けるための秘訣です。

5. 自然への畏敬と、静寂の時間

私は今でも、ノルウェーの森をスキーで走ることが大好きです。冷たい空気が肺に入り、雪を踏みしめる音が響く。その静寂の中で、私は自分自身と対話します。

現代社会はあまりにも騒がしく、情報に溢れています。他人の成功やキラキラした生活が目に入り、自分と比較して焦ってしまうこともあるでしょう。だからこそ、「静寂の中で自分を見つめる時間」を大切にしてください。

自然の中に身を置くと、自分の悩みがいかに小さなものかを感じることができます。森の木々が長い年月をかけてゆっくりと成長するように、人間の成長も一歩一歩の積み重ねです。魔法のような近道はありません。

毎日、少しずつでいい。自分を成長させるための努力を積み重ねること。その地味で退屈な繰り返しの中にこそ、真実が宿っています。私が「女王」と呼ばれた理由は、誰よりも特別な才能があったからではなく、誰よりも長く、基本の練習を積み重ねることを厭わなかったからです。

6. あなたへのメッセージ:自分だけの「金メダル」を

最後になりますが、あなたに伝えたいことがあります。

人生というレースにおいて、ゴールラインで待っているのは、他人が用意した賞杯であってはなりません。あなた自身が「自分はベストを尽くした」「自分の人生を愛している」と胸を張って言えること。それこそが、人生における本物の「金メダル」です。

誰かと競う必要はありません。昨日の自分より、ほんの少しだけ誠実であること。ほんの少しだけ、誰かに優しくすること。そして、自分の可能性を信じて、一歩前に踏み出すこと。

私が極寒の雪原で見つけた答えは、とてもシンプルなものでした。

「愛するものに情熱を注ぎ、仲間を大切にし、どんな時も自分らしくあること。そして、その過程で出会うすべての景色を、心から楽しむこと」

これが、私がこれまでの50年近い人生で学んだ、一番大事なことです。

私の言葉が、あなたのこれからの人生という広大な雪原を切り拓く、一筋のシュプール(轍)になれば幸いです。あなたの挑戦を、私は遠くノルウェーの空の下から応援しています。

誇りを持って、そして笑顔で、あなたのレースを走り抜けてください。


マリット・ビョルゲン


いかがでしたでしょうか。マリット・ビョルゲンのアスリートとしての強さと、母としての包容力をイメージしながら、彼女の哲学を構成しました。