こんにちは。ケイティ・レデッキーです。

プールの底にある一本の黒い線を見つめながら、私は人生の多くの時間を過ごしてきました。朝5時の冷たい水、静寂に包まれた練習、そして自分自身の限界に挑み続ける日々。多くの人は、私が手にした金メダルや世界記録を見て、「成功」という言葉を口にします。しかし、私にとってそれらは、ある「もっと大切なもの」の結果に過ぎません。

あなたが「人生で一番大事なことは何か」と尋ねてくれたこと、とても嬉しく思います。競泳という、一見シンプルで孤独なスポーツを通じて私が見つけ出した、人生の本質についてお話しします。


1. 「プロセス(過程)」を愛すること

私が人生で最も重要だと信じているのは、「結果」ではなく「プロセス」を心から愛することです。

競泳の世界では、4年に一度の数分間のレースのために、何千時間という練習を積み重ねます。もし、金メダルだけが私のモチベーションだったとしたら、私はとっくの昔に泳ぐことをやめていたでしょう。メダルは一度手にすれば、それは過去のものになります。しかし、日々の練習、技術の向上、自分の体が限界を超えていく感覚——これらは毎日繰り返される「今」です。

人生も同じではないでしょうか。大きな目標を持つことは素晴らしいですが、その目標にたどり着くまでの「退屈で、過酷で、地味な毎日」の中に喜びを見出せない限り、本当の意味で豊かな人生とは言えません。

努力を「義務」から「特権」へ

私はよく「練習は辛くないですか?」と聞かれます。確かに、体が動かなくなるほどの疲労を感じる日はあります。しかし、私は一度も練習を「やらなければならない苦役」と思ったことはありません。私にとって、世界最高のコーチと練習し、自分の可能性を追求できることは、素晴らしい「特権」なのです。

人生において、自分が情熱を傾けられる何かを見つけ、その過程そのものを楽しむこと。それが、長く、幸せなキャリアを築くための第一歩です。

2. 「一貫性」という名の才能

才能とは、決して爆発的なスピードや恵まれた体格だけを指すのではありません。私にとっての才能とは、「毎日、一貫してやり続ける力」です。

多くの人は、劇的な変化を一瞬で求めようとします。しかし、世界記録を1秒縮めるためには、数年間にわたる毎日の「1ミリの改善」が必要です。

  • 100%を出し切れない日でも、その日のベストを尽くす。
  • モチベーションが上がらない朝でも、時間通りにプールに入る。
  • 基礎的なドリルを、誰よりも丁寧に行う。

これらは決して派手なことではありません。しかし、この小さな「一貫性」の積み重ねこそが、困難に直面した時に自分を支える強固な基盤となります。人生で何かを成し遂げたいなら、魔法のような近道を探すのではなく、日々のルーティンを大切にしてください。

3. 「自分自身の基準」で生きること

競泳は、隣のレーンの選手との戦いに見えますが、本質的には自分自身との対話です。

比較の罠から抜け出す

他人のタイムや、他人の期待に自分を合わせようとすると、心は疲弊してしまいます。私は常に、自分の目標を自分で設定します。

「前回の自分より、どれだけ成長できたか?」

「自分が掲げた練習計画を、どれだけ完璧に遂行できたか?」

他人が定義する成功ではなく、自分が納得できる成功を追求すること。これが、プレッシャーの中でも自分を見失わずにいられる理由です。オリンピックの決勝であっても、私は「隣の選手に勝とう」とは思いません。「自分が今日まで準備してきたすべてを、この数分間にぶつけよう」とだけ考えます。

人生において、他人の評価やソーシャルメディア上の輝きに惑わされる必要はありません。あなたの人生の主導権は、常にあなたのレーンの中にあります。

4. レジリエンス(回復力)と謙虚さ

どんなに準備をしても、望んだ結果が得られないこともあります。故障をしたり、タイムが伸び悩んだり、体調を崩したりすることもあります。その時、人生で大事なのは「どうやって立ち上がるか」です。

失敗はデータに過ぎない

私は失敗を、自分を否定するものとは捉えません。それは、次の成功のために必要な「データ」です。なぜ上手くいかなかったのかを冷静に分析し、修正し、またプールに戻る。この繰り返しが、人を強くします。

そして、どれだけ成功を収めても、常に謙虚であることを忘れないでください。私はスタンフォード大学で心理学を学び、多くの友人や教授と接する中で、「世界は水泳だけで回っているのではない」ことを痛感しました。水泳は私の人生の一部ですが、私という人間そのものではありません。

一人の人間として学び続け、新しい視点を取り入れ、周囲への感謝を忘れない。その謙虚さが、さらなる成長への扉を開いてくれます。

5. 支えてくれる人々への感謝

「個人競技」と言われる競泳ですが、私は一人で泳いでいると思ったことは一度もありません。

家族の献身的なサポート、コーチの導き、チームメイトとの切磋琢磨。彼らの存在がなければ、私は今の場所にいません。人生で一番大事なことの一つは、「誰と一緒にその道を歩むか」です。

自分の成功を共に喜び、苦しい時に背中を押してくれる人々。彼らとの絆は、金メダルよりもはるかに価値があり、永続的なものです。感謝の気持ちを持ち続けることは、心をポジティブに保ち、自分のパフォーマンスを最大限に引き出すエネルギー源となります。


結論:あなたの「黒い線」を見つけて

私にとっての人生で一番大事なこと。それは、「情熱を持てるものに対して、感謝の心を忘れず、毎日一貫して、プロセスを楽しみながら全力を尽くすこと」です。

あなたが今、どのような状況にいても、自分の「レーン」を大切にしてください。

派手な成功に目を奪われず、足元の小さな一歩を愛してください。

壁にぶつかった時は、そこから学び、再び立ち上がる勇気を持ってください。

人生という長いレースにおいて、最も価値があるのは、ゴールテープを切る瞬間そのものではなく、そこに至るまでの「あなたが懸命に生きた日々」そのものです。

私もまた、明日の朝、冷たいプールに飛び込みます。より速くなるためではなく、泳ぐという行為、そして自分を磨き続けるプロセスを愛しているからです。

あなたの人生が、あなた自身の納得と喜びに満ちたものになることを、心から願っています。