こんにちは。マイケル・フェルプスです。
私の首にかけられた28個のメダルの重みを知っている人は多いでしょう。しかし、そのメダルの輝きの裏側にある、暗闇や孤独、そして私が人生のすべてをかけて学んだ「本当に大切なこと」について、今日はお話ししたいと思います。
3500字という時間は、私が200メートルバタフライを泳ぐ時間に比べれば果てしなく長いものですが、私の31年間にわたる競技人生と、その後の「人間としての人生」を凝縮して伝えるには、むしろ短すぎるかもしれません。
私がこれまでの人生で、そして23個の金メダルを獲得する過程で学んだ「人生で一番大事なこと」。それは、単に勝つことでも、記録を塗り替えることでもありません。
それは、「自分自身のすべてを受け入れ、限界を決めずに夢を描き、そして助けが必要な時に『助けて』と言える勇気を持つこと」です。
1. 夢に限界を作らないこと(No Limits)
私の物語は、水への恐怖心から始まりました。7歳の頃、私は顔を水につけるのが怖くて、背泳ぎから始めなければならない子供でした。ADHD(注意欠陥多動性障害)と診断され、学校の先生からは「あなたは何一つ成し遂げられない」と言われたこともあります。
しかし、私の恩師であるボブ・ボウマン コーチは違いました。彼は私に「夢を見る力」を教えてくれました。
多くの人は、自分自身で限界を決めてしまいます。「自分にはこれは無理だ」「ここらへんが妥当だろう」と。しかし、私は一度も自分の記録や目標に「天井」を作ったことはありません。「できると信じれば、道は開ける」。これは綺麗事ではなく、私の血肉となっている真実です。
人生において大事なのは、まず「誰もが不可能だと言うような大きな夢」を描くことです。私が北京オリンピックで8冠を目指した時、世界中のメディアは「不可能だ」と言いました。でも、私とボブだけは信じていた。他人の言葉に自分の限界を決めさせてはいけません。あなたの人生の舵を握っているのは、あなた自身なのですから。
2. 準備という名の誠実さ
夢を描いたら、次に来るのは「準備」です。
よく「才能があって羨ましい」と言われますが、私は自分のことを「誰よりも恵まれた才能を持っていた男」だとは思っていません。私は「誰よりも準備をした男」だという自負があります。
私は5年間、一日も欠かさず練習しました。365日です。誕生日も、クリスマスも、正月も。なぜだと思いますか? 他の選手が休む日に練習すれば、それだけで年間52日のアドバンテージが得られるからです。その積み重ねが、最後の0.01秒の差を生むのです。
人生で大事なのは、「自分がコントロールできることに100%集中すること」です。相手が誰か、水温がどうか、観客が何を言っているか。そんなことはコントロールできません。しかし、自分がどれだけ練習し、何を食べるか、何時に寝るかはコントロールできます。
「これだけやったんだ」という圧倒的な準備の裏付けこそが、プレッシャーに押し潰されそうな時に自分を支えてくれる唯一の盾になります。成功とは、偶然の産物ではなく、日々の執拗なまでのルーティンの積み重ねの結果に過ぎません。
3. 「金メダル」という名の孤独と暗闇
さて、ここからが私が本当に伝えたいことです。
私は北京で8冠を達成し、ロンドンでもメダルを量産しました。世界中から称賛され、富も名声も手に入れました。しかし、プールの外に出た私は、自分が誰なのか分からなくなっていました。
「マイケル・フェルプス」は、世界最高のスイマーでしたが、一人の人間としては空っぽだったのです。オリンピックが終わるたびに、私は深い鬱(うつ)の状態に陥りました。燃え尽き症候群なんて言葉では足りないくらいの、底なしの暗闇です。
2014年、私は2度目の飲酒運転で逮捕されました。あの時、私は「もう生きていたくない」と本気で思いました。自分の人生には価値がない、自分はただの「泳ぐ機械」だと思い込んでいたのです。
金メダルは、あなたの人生を救ってはくれません。記録は、あなたの心の穴を埋めてはくれません。「何を達成したか(What)」よりも「自分が誰であるか(Who)」の方が、人生においては遥かに重要なのです。
4. 「助けて」と言う勇気が、本当の強さ
どん底にいた私を救ったのは、プールの壁を蹴る力ではなく、自分の弱さを認める力でした。
私はリハビリ施設に入り、初めて自分の感情と向き合いました。それまでの私は、感情を押し殺すことが「強さ」だと思っていました。アスリートとして、弱音を吐くことは敗北を意味すると思っていたからです。
しかし、それは間違いでした。「助けが必要だ」と声を上げることは、人生で最も勇敢な行為です。 弱さをさらけ出すことは、弱さではありません。それは「自分をより良くしたい」という強い意思の現れなのです。
私は今、メンタルヘルス(心の健康)の重要性を伝える活動に心血を注いでいます。23個の金メダルを誇りに思っていますが、誰かの一生を救う手助けができるなら、その金メダルすべてと引き換えてもいい。それほど、心の平和は大切なものです。
もし、今あなたが何かに苦しんでいるなら、一人で抱え込まないでください。「It’s okay to not be okay(大丈夫じゃなくても、大丈夫なんだ)」。この言葉を、私の全人生をかけてあなたに贈ります。
5. プロセスを愛し、今を生きる
今の私にとって、一番大事な時間は、朝起きて子供たちの顔を見ること、そして妻のニコールと過ごす時間です。かつての私は「次の試合」「次の記録」という「未来」にしか生きていませんでした。
しかし、人生の本質は、ゴールラインにあるのではありません。そこに至るまでの、日々の何気ないプロセスの中にあります。
水泳をしていた時、私はプールの底のラインを見つめながら、何万キロと泳ぎました。苦しい時もありましたが、今振り返れば、その静寂の中で自分と対話していた時間こそが、私を作ってくれたのだと分かります。
結果は一瞬で過去になります。でも、「自分がどれだけ真摯に物事に取り組んだか」という記憶は、永遠にあなたの誇りになります。
結論:人生で一番大事なこと
長くなりましたが、私が伝えたいことをまとめましょう。
私の人生を振り返って、一番大事だと思うこと。それは「自分という人間を愛し、学び続けること」です。
- 大きな夢を持つこと: 自分の可能性に蓋をしないでください。
- 準備を怠らないこと: 努力は裏切りません。ただし、それは「正しい準備」をした時だけです。
- 弱さを認めること: 完璧な人間などいません。助けを求めることは強さです。
- 今、この瞬間を大切にすること: メダルの数よりも、今日あなたが誰を愛し、誰を助けたかが重要です。
私はもう、プールの底にあるラインを追いかける必要はありません。今の私の「ライン」は、家族と幸せに過ごし、同じように苦しんでいる人々に光を当てることです。
あなたは、あなた自身のレースの主役です。隣のコースの選手を気にする必要はありません。昨日までの自分より、ほんの少しだけ前に進む。その繰り返しが、あなたを誰も想像できなかった場所へ連れて行ってくれるはずです。
泳ぎ続けてください。そして、疲れた時はいつでも顔を上げて、息を吸ってください。世界は、あなたが思っているよりもずっと広くて、温かい場所ですから。