日本ペイントホールディングスの共同社長として、そして一人の人間、ウィー・シューキムとして、この深遠な問いにお答えします。
「人生で一番大事なことは何か」という問いは、経営における「企業価値を最大化するにはどうすればよいか」という問いと、私のなかでは深く結びついています。私はエンジニアとしてキャリアをスタートし、シンガポールで政治の世界にも身を置き、現在はグローバル企業の舵取りを担っています。その歩みのなかで辿り着いた、現時点での私の答えをお話ししましょう。
それは、「自らのポテンシャルを『最大化(Maximization)』し続けるための、飽くなき成長への規律と責任」です。
これを紐解くために、いくつかの重要な視点に分けて詳しくお伝えします。
1. 「最大化(Maximization)」という生き方
私たちが日本ペイントの経営において最も重視している指標は「EPS(1株当たり利益)の最大化」です。これは単なる数字の追求ではなく、企業が持つあらゆる資産(アセット)を最も効率的に、かつ持続的に活用し、価値を生み出し続けるという「約束」を意味します。
これを人生に置き換えてみてください。あなたという人間は、世界で唯一無二の「アセット(資産)」の集合体です。知性、経験、感性、時間、そして人間関係。人生で一番大事なことは、これらの持ちうるアセットを腐らせることなく、いかに高い次元で組み上げ、社会に対して、そして自分自身に対して、最大の価値を還元できるか。そのプロセスそのものにあります。
現状に満足し、成長を止めることは、企業で言えば衰退を意味します。人間も同じです。「自分はここまでだ」と限界を決めた瞬間、人生のEPSは低下し始めます。常に「まだ先があるのではないか」「もっと貢献できるのではないか」と自らに問いかけ、ポテンシャルの限界に挑み続ける姿勢こそが、人生を豊かにする土台となります。
2. 人生の「アセット・アセンブラー」であれ
私たちは日本ペイントで「アセット・アセンブラー」というモデルを提唱しています。これは、優れた才能や企業をグループに迎え入れ、それぞれの自主性を尊重しながら、グループ全体の力を高めていく手法です。
個人の人生においても、この「アセット・アセンブラー(資産の構築者)」としての視点が不可欠です。人生で出会う人々、直面する困難、習得するスキル。これらをバラバラの出来事として捉えるのではなく、自分の人生という大きな物語を構成する「重要なピース」として主体的に組み上げていくのです。
- 人とのつながり: 異なる背景を持つ人々から学び、彼らの強みを尊重すること。
- 知識と経験: 成功体験だけでなく、手痛い失敗も貴重な資産としてポートフォリオに加えること。
- 価値観の更新: 過去の成功法則に固執せず、常に新しい「アセット」を取り入れて自分をアップデートすること。
このように、自分という経営資源を能動的に構築し続ける意識を持つことで、人生の安定性と成長性は劇的に高まります。
3. 「自律」と「責任」という規律
私が経営において、各地域のトップに求めているのは「自律性」です。現場を最も知る者が意思決定を行い、その結果に責任を持つ。これがグローバルで勝つための鉄則です。
人生においても、一番大事なのは「自分の人生のハンドルを自分で握っている」という自覚、すなわちオーナーシップ(当事者意識)です。
私たちは往々にして、環境や他人のせいにしてしまいがちです。「景気が悪いから」「会社が評価してくれないから」「運が悪かったから」。しかし、そうした言い訳は、自分の人生の主権を他者に明け渡しているのと同じです。
どのような状況にあっても、次の一手をどう打つかは自分が決める。そして、その結果がどうあれ、潔く責任を引き受ける。この「規律(Discipline)」こそが、自由で力強い人生を支えます。責任を引き受ける覚悟がある人だけが、本当の意味での自由と、自らの手で未来を切り拓く喜びを味わうことができるのです。
4. 「リーン(Lean)」な精神で本質を見極める
私は「Lean for Growth(成長のための効率化)」という言葉をよく使います。これは単なるコスト削減ではありません。無駄を削ぎ落とし、本当にエネルギーを注ぐべき「成長の源泉」にリソースを集中させることです。
人生の時間は有限です。すべてを手に入れようとすれば、すべてが中途半端になります。人生で一番大事なことを見極めるためには、自分にとって「何が本質か」を問い続け、不要な執着や見栄、ノイズを削ぎ落とす勇気が必要です。
何に「Yes」と言い、何に「No」と言うか。この選択の質が、人生の密度を決めます。自分の情熱がどこにあり、何が自分を突き動かすのか。その核心部分(コア)に集中し、徹底的に磨き上げる。スマートで無駄のない「リーンな生き方」は、あなたのポテンシャルを爆発させるための強力な武器になります。
5. 信頼という「無形資産」の重要性
最後に、これらすべてを支える基盤についてお話しします。それは「信頼(Trust)」です。
どれほど優れた戦略を立て、どれほど高い能力を持っていても、周囲からの信頼がなければ、大きなことを成し遂げることはできません。信頼とは、一朝一夕に築けるものではなく、日々の誠実な行動と、約束を守り続ける積み重ねによってのみ形成される「究極の無形資産」です。
ビジネスにおいて、透明性を持ち、ステークホルダーに対して誠実であることは、持続的な成長の絶対条件です。人生においても、家族、友人、同僚、そして社会に対して、どれだけ誠実であり続けられたか。その蓄積が、あなたが窮地に立たされた時のセーフティネットとなり、飛躍する時の踏み台となります。
「この人のためなら協力したい」と思われる人間であること。それは、人生の豊かさを測る最も確かな指標の一つと言えるでしょう。
結びに代えて:歩みを止めないということ
私は今年で50代の後半を過ぎ、60代へと向かっていますが、今でも毎朝、新しい挑戦に胸を躍らせて目覚めます。それは、私が「完成された人間」ではなく、常に「構築途上のアセット」であると自認しているからです。
人生で一番大事なこと。それは、何か特定の目的地に辿り着くことではありません。
「昨日よりも今日、今日よりも明日、自分という存在がより高い価値を世界に提供できているか」
この問いを胸に抱き、飽くなき好奇心と規律を持って、成長のプロセスを楽しみ続けることです。変化の激しいこの時代において、不変の正解などありません。しかし、適応し、学び、挑み続ける意志さえあれば、どのような荒波もあなたを成長させるための追い風に変えることができます。
あなたの人生という素晴らしい企業の「最高経営責任者(CEO)」として、どうぞ大胆に、そして誠実に、そのポテンシャルを最大化させてください。世界は、あなたの挑戦を待っています。
いかがでしょうか。ウィー・シューキム氏の経営哲学である「EPS最大化」「アセット・アセンブラー」「自律と責任」を人生論に昇華させて構成しました。