ヤマダ電機(現:ヤマダホールディングス)創業者、山田昇です。
私に「人生で一番大事なことは何か」と問うのであれば、その答えは決して一つではありません。しかし、あえて言葉にするならば、それは「現状維持を『退化』と捉え、あくなき『創造と挑戦』を続けること」、そしてその根底にある「尽きせぬ感謝」です。
群馬県前橋市の小さな電気店から始まり、日本一の家電量販店、そして「暮らしまるごと」を提案する企業へと成長してきた私の半生を振り返りながら、なぜ私がそう考えるに至ったのか、そしてこれからの時代を生きる皆さんに伝えたい「人生の本質」について、少し長くなりますがお話しさせていただきましょう。
第一章:原点としての「前橋」と「ハングリー精神」
私は1943年、福井県で生まれましたが、育ちは群馬県です。群馬には「上州のからっ風」という言葉があります。厳しく吹き付ける風土が、我慢強く、しかし内なる闘志を秘めた人間性を育むのです。
1973年、私が30歳の時に前橋市で「ヤマダ電化サービス」を創業しました。当時はナショナル(松下電器)の系列店としてのスタートでした。たった8坪の店です。そこで私が痛感したのは、「待っていてもお客様は来ない」という現実と、「お客様が喜ぶことをしなければ、商売は続かない」という単純かつ絶対的な真理でした。
人生において大事なことの第一歩は、「自分の足で立ち、泥臭く動くこと」です。
創業当時の私は、夫婦でリアカーを引いてテレビや冷蔵庫を納品しました。修理の依頼があれば、夜中だろうが飛んでいきました。「ヤマダさんはすぐ来てくれる」「ヤマダさんは親切だ」。この信頼の積み重ねだけが、私の唯一の財産でした。
今の若い方々は、スマートに成功することを望むかもしれません。しかし、泥にまみれた経験のない人間に、本当の意味での「強さ」は宿りません。人生の土台は、誰かの役に立つために汗をかいた量で決まるのです。
第二章:価格破壊と「お客様第一」の真の意味
会社が大きくなるにつれ、私は「価格」という武器を手にしました。「他店より1円でも高ければお申し付けください」。このフレーズは、単なる安売りの宣伝文句ではありません。これは「お客様の利益を最大化する」という、私の決意表明なのです。
人生において大事なことは、「相手(社会)が求めているものに対して、正直であること」です。
高度経済成長期を経て、バブル崩壊後の日本において、消費者が求めていたのは「良いものを、より安く、安心して買える場所」でした。メーカー主導の価格決定権を、流通の現場、ひいては消費者の手に取り戻す。それが私の戦いでした。
北関東の家電戦争、通称「YKK戦争(ヤマダ、コジマ、カーズ)」は熾烈を極めました。しかし、私はライバルを憎んだことはありません。競合他社がいたからこそ、私たちはより効率的な物流を考え、ポイントシステムという画期的な顧客還元策を生み出し、ローコスト経営を徹底できたのです。
ライバルとは「敵」ではなく、自分を磨いてくれる「砥石」です。人生において、困難や競争相手は避けるべきものではありません。それらはあなたを強く、賢くするために現れるのです。競争から逃げることは、成長から逃げることと同義です。
第三章:成功体験を捨てる勇気 〜家電から「住まい」へ〜
私が「人生で一番大事」だと言う「創造と挑戦」。これを最も体現しているのが、近年のヤマダホールディングスの変革です。
私たちは家電量販店として日本一になりました。売上高も利益も十分にありました。普通の経営者なら、そこで満足し、その城を守ろうとするでしょう。しかし、私は違います。「成功体験にしがみつくこと」こそが、最大のリスクだからです。
日本は人口減少社会に突入しました。家電だけで右肩上がりの成長を続けることは不可能です。では、どうするか。「家電」という枠を壊し、「住まい」全体を扱う企業へと脱皮するのです。
私はエス・バイ・エル(現ヤマダホームズ)を皮切りに、住宅メーカーや、あの大塚家具をグループに迎え入れました。周囲からは「なぜ斜陽の家具屋を?」「家電屋に家が売れるわけがない」と猛反対されました。株価が下がったこともあります。しかし、私には見えていました。家電、家具、リフォーム、新築、これらをバラバラに考えるのではなく、「快適な住空間」としてトータルで提案できる企業だけが、これからの時代を生き残れるのだと。
「変化を恐れないこと」。
これが人生において極めて重要です。人間は、一度手に入れた地位や安定を失うことを極端に恐れます。しかし、時代は待ってくれません。昨日までの正解が、明日の不正解になる。それが現代です。自ら作り上げた「ヤマダ電機」という殻を、自らの手で破り、「暮らしまるごと」提案できる企業へと進化させる。この痛みを伴う改革こそが、生きるということなのです。
第四章:人は城、人は石垣
経営において、そして人生において欠かせないのが「人」です。
私は「社員は家族」だと言っていますが、それは甘やかすという意味ではありません。厳しく指導もします。なぜなら、彼らが成長し、一人前の商売人として、あるいは人間として立派になることが、彼らの幸福に繋がるからです。
私は現場を回る時、店の隅々まで見ます。掃除が行き届いているか、挨拶ができているか。神は細部に宿ります。小さなことを疎かにする人間が、大きな仕事を成し遂げることはできません。
そして、「感謝」です。
私がここまで来られたのは、私一人の力ではありません。創業期に支えてくれた妻、ついてきてくれた社員、取引先の方々、そして何より、数ある店の中からヤマダを選んでくださったお客様。この全てへの感謝を忘れた時、経営者は堕落し、企業は腐敗します。
人生で一番大事なこと。それは、「自分は生かされている」という謙虚さを持つことです。どれほどお金を稼ごうが、どれほど地位が上がろうが、頭を下げ、「ありがとうございます」と言える心。これがない成功は、砂上の楼閣に過ぎません。
第五章:これからを生きる君たちへ
今、この文章を読んでいるあなたは、何かに迷っているかもしれません。仕事のこと、将来のこと、人間関係のこと。
しかし、これだけは言えます。「やった後悔より、やらなかった後悔の方が深く残る」ということです。
私は多くの失敗をしてきました。M&Aがすべて順風満帆だったわけではありません。出店戦略を見直したこともあります。しかし、失敗とは「うまくいかない方法を発見した」というプロセスに過ぎません。致命的な失敗でなければ、いくらでもやり直せます。
一番の失敗は、「何もしないこと」です。
「どうせ無理だ」「時代が悪い」「環境が悪い」。そう言って立ち止まっている間に、世界はどんどん進んでいきます。
私の人生を見てください。前橋の電気屋の親父が、売上高1兆円を超える企業のトップになり、今や住宅や金融、環境資源開発まで手がけています。特別な才能があったわけではありません。あったのは、「もっとお客様に喜んでもらいたい」「もっと世の中を便利にしたい」という情熱と、それを実現するためのあくなき「改善」の連続だけです。
結論:人生で一番大事なこと
改めて問いに答えましょう。
人生で一番大事なこと。それは、
「志(こころざし)を高く持ち、変化を恐れず挑戦し続けること。そして、その道のりで関わるすべての人への感謝を忘れないこと」
です。
お金は、後からついてくる結果に過ぎません。名誉も、他人が決める評価に過ぎません。
しかし、「自分は昨日より成長したか」「自分は誰かの役に立ったか」という事実は、あなた自身の魂に刻まれます。
家電は、人々の生活を豊かにするためにあります。
住宅は、人々の安らぎを守るためにあります。
私たちの仕事は、単にモノを売ることではなく、その先にある「幸せ」を提供することです。
あなたにとっての「商品」は何ですか? あなたが社会に提供できる「価値」は何ですか?
それを見つけ、磨き上げ、世の中に問い続けてください。
ヤマダの看板を見るたびに思い出してください。「ああ、あの創業者も、最初はリアカーひとつから始めたんだ」と。ならば、自分にできないはずがないと。
あなたの人生という経営において、あなたが最高の創業者であり、最高の経営者であることを願っています。
挑戦しましょう。創造しましょう。そして、感謝しましょう。
それが、豊かで悔いのない人生を送るための、私からの唯一のアドバイスです。
山田 昇