パオロ・フェラーリです。ブリヂストンという偉大なグローバル企業でのエキサイティングな旅を経て、私は今、新たな章を歩み始めています。

「人生で一番大事なことは何か」という問いは、私のような経営者にとっても、あるいは一人の人間、父親、友人としても、常に自問自答し続けるテーマです。30年以上のキャリアの中で、イタリア、米国、そして日本という全く異なる文化圏でリーダーシップを執ってきた経験から得た、私なりの答えを紐解いてみたいと思います。

3,500字という限られた、しかし深い対話のために、私の哲学をいくつかの重要な柱に分けてお話ししましょう。


1. 変革(Transformation)を恐れない勇気

私がブリヂストンで、そしてこれまでのキャリアで一貫して取り組んできたのは「変革」です。多くの人は「変革」をリスクだと捉えますが、私は「停滞こそが最大のリスクである」と確信しています。

人生において最も大事なことの一つは、自分自身をアップデートし続ける勇気を持つことです。かつてブリヂストンが「タイヤを売る会社」から「ソリューションを提供する会社」へと進化を遂げようとしたとき、私たちは単に製品を変えたのではありません。自分たちの「存在意義」を再定義したのです。

人生も同じです。昨日までの成功体験が、明日も通用するとは限りません。デジタル変革(DX)が世界を塗り替えていく中で、私たちに必要なのは、過去の自分を壊し、新しい環境に適応し、さらにその先を創造する「アジリティ(俊敏性)」です。

「自分は何者か」という問いに対して、一つの固定された答えを持たないでください。常に「今の自分を超えて、何になれるか」を問い続けること。この絶え間ない変革のプロセスそのものが、人生を豊かにする源泉なのです。

2. 羅針盤としての「パーパス(存在意義)」

変革の荒波の中で、自分がどこに向かっているのかを見失わないためには、強固な「羅針盤」が必要です。それが「パーパス」であり、価値観です。

ブリヂストンには「Bridgestone E8 Commitment」という指針がありました。これは単なるビジネス戦略ではなく、私たちが社会に対してどのような責任を果たし、どのような価値を届けるかという約束でした。

個人の人生においても、「自分は何のためにこの時間を使っているのか?」という根源的な問いに対する答えを持つことは、決定的に重要です。富や名声は、結果としてついてくるものに過ぎません。それ自体を目的とした瞬間、人生は空虚なものになります。

私が大切にしているのは、「Integrity(真摯さ・誠実さ)」です。誰が見ていなくても正しいことを行うこと。自分の決断が、次の世代や社会に対してポジティブな影響を与えているか。この確信こそが、困難な局面でリーダーとして、あるいは一人の人間として踏みとどまる力になります。

3. 人との繋がり:エンパワーメントの力

ビジネスの世界で長く過ごして痛感したのは、「一人で成し遂げられることは、実は非常に小さい」ということです。

人生で一番大事なことの三つ目は、他者との深い繋がり、そして「人を信じ、生かすこと(Empowerment)」です。私はグローバルCOOとして、世界中の多様なチームを率いてきました。イタリア人の情熱、アメリカ人のポジティビティ、日本人の細やかさと規律。それらが融合したときに生まれるエネルギーは、想像を絶するものです。

リーダーシップとは、自分が一番賢いことを証明することではありません。自分よりも才能のある人々を見出し、彼らが輝ける舞台を整え、彼らの背中を押すことです。

これは家庭や友人関係でも同じです。周囲の人々の成長を助け、喜びを分かち合うこと。他者の成功を自分のことのように喜べる心を持つこと。人間関係の豊かさこそが、人生の最終的なスコアカードにおいて最も高い配点となるのです。

4. 「レジリエンス」と好奇心の維持

私たちは今、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と呼ばれる不透明な時代に生きています。パンデミックや地政学的なリスク、テクノロジーの急激な進化。予期せぬ困難は必ずやってきます。

その時、私たちを支えるのは「レジリエンス(復元力)」です。失敗を単なる敗北と捉えるのではなく、そこから何を学び、どう立ち上がるか。私はキャリアの中で何度も壁にぶつかってきました。しかし、その度に私を突き動かしたのは、子供のような「好奇心」でした。

「なぜこうなるのか?」「もっと良い方法はないか?」という好奇心は、人を老いさせません。常に学び、新しい知識を吸収し、未知の世界に飛び込む。この精神的な若々しさが、レジリエンスの土台となります。人生の最期まで、私は「学生」であり続けたいと思っています。

5. イタリアン・ハート:情熱と調和(La Dolce Vita)

最後に、私のルーツであるイタリアの精神について触れたいと思います。

グローバルな競争の最前線にいると、効率やデータ、数字ばかりに目が向きがちです。しかし、人生には「美しさ」や「情熱」、「楽しさ」が不可欠です。イタリアには「La Dolce Vita(甘い生活)」という言葉がありますが、これは単なる怠惰を意味するのではありません。

目の前の一杯のコーヒーを味わうこと。家族との会話を大切にすること。美しい芸術や景色に感動すること。こうした「心の豊かさ」を犠牲にしてまで手に入れた成功に、価値はありません。

仕事に全力を尽くす(Passion)一方で、人生そのものを愛する(Zest for life)。このバランス、あるいは「調和」こそが、持続可能な幸福をもたらします。情熱を持って働き、情熱を持って愛し、情熱を持って遊ぶ。その強弱のあるリズムが、人生という旋律を美しいものにします。


まとめ:人生という壮大な「ソリューション」

私、パオロ・フェラーリが考える「人生で一番大事なこと」をまとめるとすれば、それは「自分自身の価値観(パーパス)に基づき、絶えず変化し続けながら、他者と共に価値を創造し、そのプロセスそのものを心から楽しむこと」に集約されます。

タイヤが路面と接して車を前進させるように、私たちも現実の世界と深く関わり、摩擦を恐れず、熱を持って進まなければなりません。時にはパンクすることもあるでしょう。道に迷うこともあるでしょう。しかし、確固たる羅針盤を持ち、信頼できる仲間がいれば、どんな荒野も素晴らしいドライブコースに変わります。

あなたは、自分の人生という車のハンドルをしっかりと握っていますか?

そして、その旅を楽しんでいますか?

私の経験が、あなたの人生の旅路において、何らかのインスピレーションになれば幸いです。