フェローテックホールディングスの賀賢漢です。
「人生で一番大事なことは何か」という問いをいただきました。30年以上、日本と中国、そして世界を舞台にビジネスの最前線に身を置いてきた私にとって、この問いに答えることは、私自身の歩んできた道、そしてフェローテックという企業が歩んできた軌跡そのものを振り返ることでもあります。
約3500字という限られた、しかし深い考察を許されるこの場を借りて、私の哲学をお伝えしたいと思います。
1. 「志」と「飢え」:自らの原動力を知る
人生において最も重要なことの第一は、「自分は何のために生き、何を成し遂げたいのか」という明確な志を持つことです。
私は1980年代後半に中国から日本へ渡ってきました。当時の私は、文字通り「裸一貫」の状態でした。言葉の壁、文化の壁、そして経済的な厳しさ。しかし、その時の私を支えていたのは、現状を打破したいという強烈な「飢え」と、何か大きなことを成し遂げたいという「志」でした。
今の若い世代や、現代社会を生きる人々を見ていて感じることがあります。それは、モノに溢れ、情報が溢れる中で、自分自身の内側から湧き出る「乾き」を忘れてしまっているのではないか、ということです。
志とは、単なる夢ではありません。それは「覚悟」です。どんなに困難な状況に陥っても、その目標のためなら歯を食いしばって立ち上がれる。その情熱こそが、人生を切り拓く唯一の鍵となります。フェローテックが、かつては小さな磁性流体の会社であったところから、世界中の半導体産業を支えるマテリアル企業へと成長できたのは、私や社員たちが「世界一になる」という志を捨てなかったからです。
2. 「スピード」こそが誠実さである
ビジネスにおいても人生においても、私は「スピード」を極めて重視します。
多くの人は「慎重に考えること」が大事だと言います。もちろん、戦略は必要です。しかし、現代のような変化の激しい時代において、立ち止まって考えている時間は、そのまま「機会損失」というリスクに直結します。
私にとって、スピードを出すことは、相手に対する「誠実さ」の表れでもあります。お客様が困っている、市場が変化している。その時に、誰よりも早く動いて解決策を提示する。これ以上の信頼構築はありません。
人生で一番大事なことの一つは、「決断の速さ」です。間違ったら直せばいい。しかし、動かないことには何も始まりません。私は経営の現場で、常に「今日できることを明日に延ばすな」と言い続けてきました。人生という限られた時間の中で、どれだけ多くの打席に立ち、バットを振れるか。その回数が、あなたの人生の密度を決めます。
3. 「信頼」という名の資本:日中の架け橋として
私は日本で学び、日本の企業の良さを知り、そして中国という巨大な現場でそれを具現化してきました。その過程で痛感したのは、「信頼」こそが最大の資本であるということです。
国を跨ぐビジネス、特に日本と中国の間では、時に政治的な問題や文化の摩擦が生じます。しかし、個人と個人、企業と企業の間に揺るぎない「信頼」があれば、どんな荒波も乗り越えられます。
信頼を築くために必要なのは、嘘をつかないこと、そして相手の期待を超える成果を出し続けることです。私は、日本の技術に対する真摯な姿勢と、中国のダイナミズム、この両方を融合させる「ハイブリッド経営」を推進してきました。
人生において、多くの人と出会うでしょう。その一人ひとりに対して、どれだけ誠実に向き合えるか。自分だけの利益を追うのではなく、相手に利を与える「利他」の精神を持てるか。結局のところ、最後に自分を助けてくれるのは、自分がそれまでに積み上げてきた信頼の貯金なのです。
4. 「製造現場(モノづくり)」への畏敬の念
フェローテックは「モノづくり」の会社です。私は経営者ですが、今でも現場の空気を吸うことを何より大切にしています。
人生で大事なこと。それは「地に足のついた努力を惜しまないこと」です。
華やかなITや金融の世界も素晴らしいですが、物理的なモノを作り、それが世界中のデバイスに組み込まれ、人々の生活を便利にする。この「実業」の重みを知ることは、人間としての厚みを作ります。
泥臭い努力を嫌い、スマートに生きようとする人が増えています。しかし、真のイノベーションは、現場の小さな改善の積み重ねの先にしかありません。石英製品一つ、セラミックスの加工一つに、どれだけの魂を込められるか。
あなたの人生における「現場」は何でしょうか。仕事、家庭、あるいは趣味かもしれません。その現場から逃げず、そこで直面する課題を一つひとつ自分の手で解決していく。その手触り感のある経験こそが、あなたを裏切らない本当の力になります。
5. 逆境を「ギフト」として捉える
私のこれまでの人生は、決して平坦なものではありませんでした。バブル崩壊、リーマンショック、そしてパンデミック。何度も「もうダメかもしれない」という局面がありました。
しかし、今振り返って断言できるのは、「最大のピンチは、最大のチャンスの前触れである」ということです。
人生で一番大事なことは、「逆境に陥った時の心の持ちよう」です。
困難に直面した時、多くの人は運命を呪い、他人のせいにします。しかし、それでは何も変わりません。私は逆境を「自分を、そして会社を作り変えるためのギフト」だと考えるようにしています。
例えば、市場が冷え込んだ時こそ、次の成長のための投資を行う。他社が守りに入っている時こそ、攻めの姿勢を崩さない。この逆張りの発想、そしてそれを支える精神的なタフネスは、苦労を経験した人間にしか宿りません。
苦労は買ってでもしろ、とは言いません。しかし、降りかかってきた苦労からは、一滴残らず教訓を絞り出すべきです。それがあなたの人生を唯一無二の物語にするのです。
6. 「恩」を返し、次世代を育てる
私が日本に来て、多くの日本の方々に助けられました。大学の恩師、ビジネスを教えてくれた先輩方。彼らの支えがなければ、今の私はありません。
人生の後半戦において大事なことは、「受けた恩を次へ送ること(恩送り)」です。
私は今、教育や若手経営者の育成にも力を入れています。フェローテックという場を通じて、世界に通用するリーダーを一人でも多く輩出したいと考えています。
人は一人では生きていけません。成功すればするほど、その影にある多くの人の支えを忘れてはいけません。感謝の気持ちを忘れず、自分が得た知見や富を、社会や次の世代に還元していく。この循環の中に身を置くことで、人生は真の意味で完結します。
7. 「変革」し続ける勇気
最後に、最も強調したいのは「自己否定と自己変革」です。
昨日までの成功法則が、今日通用するとは限りません。フェローテックも、かつての主力製品に依存し続けていたら、今頃は消えていたでしょう。私たちは常に自分たちのビジネスモデルを疑い、新しい領域へと脱皮し続けてきました。
人生も同じです。
「自分はこういう人間だ」「これ以上の成長は無理だ」と、自分で自分に枠をはめてはいけません。
人生で一番大事なこと。それは、死ぬまで「未完成」であり続けることです。
常に新しいことを学び、自分の価値観をアップデートし、変化を恐れずに飛び込んでいく。その好奇心と勇気がある限り、人生に「老い」はありません。
結びに代えて
私は中国に生まれ、日本で育ち、世界を相手に戦ってきました。その中で見てきた成功者たちに共通しているのは、驚くほどシンプルで、かつ強固な「自分軸」を持っていることです。
それは、
- 「志」を高く持つこと
- 「スピード」感を持って即実行すること
- 「信頼」を何よりも重んじること
- 「現場」を愛し、泥臭く努力すること
- 「逆境」を楽しみ、「変革」を止めないこと
これらは、特別な才能ではありません。誰にでも今日から始められることです。
あなたの人生は、あなただけのものです。周りの声に惑わされず、自らの内なる声に従い、情熱の火を絶やさないでください。私も、フェローテックをさらに高みへと導くため、そして社会に貢献するために、これからも走り続けます。
共に、一度きりの人生を全力で駆け抜けましょう。
賀 賢漢
(株式会社フェローテックホールディングス 代表取締役社長)