こんにちは。アリステア・ドーマーです。

日立製作所の執行役副社長として、また一人の人間として、私のキャリアと経験を通じて学んできた「人生で一番大事なこと」についてお話しできる機会をいただき、光栄に思います。

私はイギリス海軍での経験を経て、日立という日本の伝統ある企業に入り、グローバルな舞台でビジネスを推進してきました。国境や文化、そして産業の壁を越えて挑戦し続けてきた中で、私が行き着いた答え。それは、たった一つの単語で表すならば「信頼(Trust)」、そしてそれを支える「パーパス(目的意識)」です。

なぜこれらが人生において、そしてビジネスにおいて最も重要なのか。私の歩みを振り返りながら、3500字程度のメッセージとして詳しくお伝えします。


1. 根底にある「誠実」という価値観

私のキャリアの出発点はイギリス海軍でした。軍隊という組織では、仲間との「信頼」が文字通り生死を分かちます。自分が担当する任務を完遂すること、そして隣にいる仲間がその任務を果たすと信じること。この強固な信頼関係がなければ、どんなに優れた戦略も機能しません。

その後、私は日立グループの一員となりました。そこで私が最も感銘を受けたのは、日立の創業の精神である「和・誠・開拓者精神」です。

特に「誠(Sincerity)」、すなわち誠実であること。これは私が海軍で学んだ信頼の概念と完全に見事に共鳴しました。人生において最も大切なのは、自分に対しても、他者に対しても誠実であることです。困難に直面したとき、あるいは大きな利益を前にしたとき、人はしばしば近道を選びたくなります。しかし、誠実さを欠いた成功は砂上の楼閣に過ぎません。

人生のあらゆる場面で「この行動は信頼に値するか?」と自問自答すること。それが、揺るぎない人生の基盤を作るのです。

2. 「開拓者精神」とレジリエンス(逆境力)

私が日立でのキャリアで最も象徴的なプロジェクトの一つに、英国の都市間特急車両置き換え計画(IEP)があります。これは、日立が英国の鉄道インフラを支える巨大なプロジェクトでした。

当時、日本企業が英国の鉄道という、保守的で象徴的な市場に食い込むことに対しては、多くの懐疑的な目がありました。しかし、私たちは決して諦めませんでした。ここで必要だったのが「開拓者精神」です。

人生で大事なことの二つ目は、「未知の領域に踏み出す勇気」と、「失敗を恐れないレジリエンス」です。

IEPの受注から納入、そしてニュートン・エイクリフ工場の建設に至るまで、数え切れないほどの障害がありました。政治的な変動、技術的な課題、そして文化の相違。しかし、私は確信していました。私たちの技術が人々の生活を良くし、社会に貢献できるという強い「パーパス」があれば、どんな困難も乗り越えられると。

壁にぶつかったとき、それを「終わり」と捉えるか、「成長の機会」と捉えるか。その視点の違いが、人生の豊かさを決めます。挑戦し続けること、そして困難を楽しみながら前進すること。それが、人生に活力と意味を与えてくれるのです。

3. 異なる文化を繋ぐ「和(Harmony)」の力

私は日立製作所で初の外国人副社長に任命されました。これは私にとって大きな名誉であると同時に、重い責任でもありました。日本の伝統的な大企業がグローバル化を加速させる中で、私に求められたのは「ブリッジ(架け橋)」としての役割でした。

ここで私が学んだ人生の知恵は、「多様性を受け入れ、共通の目的を見出す力」です。

日本には「和(Harmony)」という素晴らしい言葉があります。しかし、私の考える「和」とは、単に周囲に合わせることではありません。異なる背景、異なる意見を持つ人々が、互いに敬意を払いながら、一つの大きな目標に向かって力を合わせることです。

私はイギリス人として、日本企業の「細部へのこだわり」や「長期的な視点」を深く尊敬しています。一方で、グローバルな視点からは「スピード感」や「柔軟な意思決定」の重要性も伝えてきました。異なる価値観が衝突するとき、そこには摩擦が生じます。しかし、その摩擦こそが新しい革新(イノベーション)を生むエネルギーになるのです。

人生において、自分とは違う考え方を持つ人と出会うことは最大の幸運です。自分の殻に閉じこもらず、他者の強みを認め、共に新しい価値を創り出すこと。この「協調的な競争」の精神こそが、人間関係においてもビジネスにおいても、成功の鍵となります。

4. 社会イノベーション:何のために生きるか

日立は「社会イノベーション事業」を推進しています。これは、データとテクノロジーを活用して、社会課題を解決し、人々のQoL(生活の質)を向上させるというミッションです。

私たちがビジネスを行う理由は、単に利益を上げることだけではありません。世界中の人々の暮らしをより安全に、より快適に、そしてより持続可能なものにすることです。これが私たちの「パーパス」です。

人生において最も大事なことの三つ目は、「自分よりも大きな何かのために貢献しているという感覚」を持つことです。

自分自身の成功や幸福を追求するのは自然なことです。しかし、本当の意味での充実感は、自分の才能や情熱が誰かの役に立ったときに得られます。鉄道を走らせることで、人々に移動の自由を提供する。エネルギー効率を高めることで、地球環境を守る。こうした「社会への貢献」という軸を持つことで、人生の迷いは消え、進むべき道が明確になります。

皆さんも、自分にとっての「社会イノベーション」は何であるかを考えてみてください。どんなに小さなことでも構いません。誰かの笑顔のため、より良い未来のために自分ができることを見つけること。それが人生を輝かせる究極の目的となります。

5. 次世代へのメッセージ:好奇心を持ち続ける

最後にお伝えしたいのは、「学び続ける姿勢」「飽くなき好奇心」の重要性です。

世界は驚異的なスピードで変化しています。AI、デジタル・トランスフォーメーション、グリーントランスフォーメーション。私たちが直面する課題も、解決策も、日々進化しています。私が副社長として常に意識していたのは、現場の声を聞き、新しい技術に触れ、学びを止めないことでした。

「自分はもう十分に知っている」と思った瞬間に、成長は止まります。常に「なぜ?」と問い続け、新しいことに挑戦する若々しい心を忘れないでください。年齢や役職は関係ありません。好奇心こそが、人生の可能性を広げるエンジンのようなものです。


結論:人生で一番大事なこと

私、アリステア・ドーマーがこれまでの半生を通じて得た結論をまとめます。

人生で一番大事なこと。それは、「揺るぎないパーパス(目的)を胸に、誠実さと信頼を基盤として、多様な仲間と共に未知の未来を切り拓いていくプロセスそのもの」です。

  • 信頼(Trust): すべての人間関係とビジネスの土台。
  • 勇気(Courage): 現状に満足せず、変化を恐れずに挑む心。
  • 共感(Empathy): 異なる文化や価値観を尊重し、調和を生む力。
  • 貢献(Contribution): 社会をより良くするという使命感。

日立の鉄道が世界中を駆け抜けるように、皆さんの人生という列車も、希望に満ちた未来へと力強く進んでいくことを願っています。

失敗を恐れないでください。他者への敬意を忘れないでください。そして何より、あなた自身の可能性を信じてください。

未来は、私たちが今日、どれほど誠実に、そして情熱的に挑戦するかによって決まるのです。

Thank you very much. 共に素晴らしい未来を創っていきましょう。