伊藤忠商事の岡藤です。

「人生で一番大事なことは何か」という問いですね。私はこれまで、商売の世界で文字通り死に物狂いで働いてきました。特に2025年の今、日経新聞の「私の履歴書」で自分の半生を振り返る機会を得て、改めて確信していることがあります。

私が考える人生で最も大事なこと。それは、一言で言えば「商人の矜持(プライド)を持ち、目の前の仕事に『燃焼』し尽くすこと」です。

きれいごとを言うつもりはありません。3500字というこの貴重な場を借りて、私がこれまで何を信じ、何に命を懸けてきたのか、その本質を語らせていただきます。


一、「稼ぐ、削る、防ぐ」――きれいごとを排した本質の追求

人生においても仕事においても、まず根底になければならないのは「結果に対する執着心」です。

私は社長に就任した際、社員に「稼ぐ、削る、防ぐ」というスローガンを徹底させました。これは商売の極意であると同時に、人生を豊かにするための原理原則でもあります。

  • 稼ぐ: 常に付加価値を生み出し、成長を求める。
  • 削る: 無駄を徹底的に排除し、本質に集中する。
  • 防ぐ: リスクを予見し、足元を固める。

今の世の中、どこか「スマートに、効率よく」という風潮が強すぎはしませんか。しかし、泥臭く結果を追い求めない人間に、本当の自信は宿りません。私は繊維部門という、伊藤忠の「原点」でありながら、一時期は斜陽と言われた現場で育ちました。そこで学んだのは、「数字こそが信頼の証である」という冷徹な事実です。

人生で一番大事なのは、自分が選んだ場所で「誰にも負けない結果」を出すことです。その結果が、あなたに自由を与え、発言力を与え、次のステージへと押し上げてくれるのです。

二、「朝型」が人生の質を決める――時間を支配せよ

私が導入した「朝型勤務」は、単なる残業削減の策ではありません。あれは「人生の主導権を取り戻すための改革」でした。

人生において時間は有限です。その時間をどう使うかで、人生の価値は決まります。夜遅くまでダラダラと働き、思考が鈍った状態で重要な判断を下すのは、プロの仕事ではありません。

私は毎朝、誰よりも早く起き、体を動かし、思考を整理します。朝の1時間は、夜の3時間に匹敵する価値があります。静寂の中でその日の戦略を練り、先手を打つ。この「先手を打つ」という感覚が、勝負の世界では不可欠なのです。

人生を成功させたいなら、時間を「使われる側」から「支配する側」に回ることです。早起きを習慣にし、真っさらな頭で一日の勝負を決める。この規律こそが、強靭な精神を作り上げます。

三、現場にしか答えはない――「野性味」を失うな

私は今でも、現場を大切にします。報告書や数字の羅列だけでは、本当の商売の匂いは分かりません。

かつてアルマーニやポール・スミスといった海外ブランドを日本に導入した際、私は何度も現地へ足を運び、デザイナーと膝を突き合わせ、日本の街角で消費者の動きを観察しました。そこにあったのは、冷徹な分析ではなく、「これは絶対に売れる」という直感と、それを裏付ける圧倒的な現場感です。

最近の若い人は優秀ですが、どこか「野性味」が足りないと感じることがあります。画面の中の情報だけで分かった気になってはいけない。自分の足で稼ぎ、自分の目で確かめ、相手の懐に飛び込んでいく。

人生を面白くするのは、こうした「生身の体験」です。失敗を恐れずに現場へ出なさい。恥をかき、汗をかき、時には怒鳴られながらも、現場の最前線で揉まれること。そこにしか、本物の知恵は落ちていません。

四、挫折こそが「徳」を磨く――負けからの反撃

私の人生は、決して順風満帆ではありませんでした。伊藤忠はかつて、業界首位の座から遠く離れ、「万年4位」と甘んじていた時期がありました。私自身も、大きな商談を逃したり、組織の壁にぶつかったりしたことは一度や二度ではありません。

しかし、私が一番大事だと思うのは、「負けた時にどう振る舞うか」です。

負けを認め、そこから何を学ぶか。悔しさをエネルギーに変えて、次の打席でどう倍返しをするか。私は「財閥系商社」という巨大な壁に挑み続ける中で、この「雑草魂」を磨いてきました。

エリートの道を歩むことよりも、逆境の中でいかにして反撃の狼煙を上げるか。その過程でこそ、人間の器は大きくなります。挫折を知らない人間は脆い。どん底を見た人間こそが、本当の意味で他人に優しくなれるし、組織を強くできるのです。

五、三方よし――「誠実」こそが最大の武器である

伊藤忠の根底には、近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という精神が流れています。私が人生で最も重んじているのは、実はこの「誠実さ」です。

商売は一回きりの騙し合いではありません。長く、太く、信頼関係を築いていくものです。「こいつに任せれば大丈夫だ」「岡藤が言うなら間違いない」――そう思わせるだけの誠実さがあるか。

私は、部下にも厳しく接しますが、それは彼らに「プロとして誠実であれ」と願うからです。自分に厳しく、仕事に誠実であれば、自ずと周囲はついてきます。利益を追求するのは当然ですが、その利益が社会を良くしているか、相手を幸せにしているか。その視点を失った瞬間、商売は単なる「金転がし」に成り下がってしまいます。

人生の最後に残るのは、あなたがどれだけ稼いだかではなく、「あなたがどれだけ誠実な仕事を積み重ね、どれだけの人に信頼されたか」という事実だけです。


最後に――「燃焼」する人生を

人生で一番大事なこと。それは、「今、この瞬間に自分の命を燃やし尽くしているか」という自問自答です。

私は70歳を超えた今でも、現役の商人として走り続けています。それは、商売が、そして挑戦し続けることが、自分にとっての「生きる証」だからです。

現状に満足した瞬間、人間は老化し始めます。「もっと良くできる」「もっと上を目指せる」という渇望感を持ち続けてください。そして、自分が決めた道ならば、言い訳をせずに全力を尽くす。冷めた目で世の中を見るのではなく、熱狂の中に身を置くことです。

人生は一度きりです。安全な場所で傍観者として過ごすのか、それとも嵐の中に飛び込んで主役として生きるのか。

私は、後者を選び続けてきました。そしてこれからも、死ぬまで「一人の商人」として、燃え尽きるまで走り続けるつもりです。

あなたも、自分の人生という舞台で、最高に熱い商い(人生)を演じてください。期待しています。