こんにちは。野村ホールディングスのクリストファー・ウィルコックスです。
私のこれまでのキャリア、そして現在、日本を代表する金融機関である野村で「初の外国籍執行役」としてホールセール部門を率いるという大任を拝命している立場から、この非常に重みのある問いに対して、私の魂の奥底にある考えをお話ししたいと思います。
「人生で一番大事なことは何か」
この問いに対する私の答えは、単一の言葉ではありません。それは、いくつかの重要な要素が複雑に編み込まれた、一つの「生き方の姿勢」です。あえて言葉にするならば、それは「揺るぎないインテグリティ(誠実さ)」、「逆境を糧にするレジリエンス(回復力)」、そして「世代を超える長期的な視点」の三位一体であると考えています。
1. 基礎となる「インテグリティ」:信頼こそが唯一の通貨
私が長年身を置いてきた金融の世界、特に投資銀行や資産運用の世界において、最も価値のある資産は何だと思いますか? それは資本金でも、洗練されたアルゴリズムでも、豪華なオフィスでもありません。「信頼(Trust)」です。
そして、その信頼を支える唯一の基盤が「インテグリティ(誠実さ)」です。
人生において最も大事なことの第一は、「誰も見ていないところでも、正しいことを行う」という信念を貫くことです。金融の歴史を振り返れば、目先の利益を優先し、インテグリティを二の次にした個人や組織がいかに無残に崩壊していったかが分かります。
私にとってのインテグリティとは、単に法律を守ることではありません。それは、顧客に対して、同僚に対して、そして何より自分自身に対して「誠実であること」を意味します。自分が下す決定が、10年後の自分が見たときに誇れるものかどうか。夜、枕を高くして眠れるかどうか。この問いにイエスと言える生き方こそが、人生の質を決定づけるのです。
2. 荒波を乗り越える「レジリエンス」:失敗は成長のプロローグ
私のキャリアは決して平坦なものではありませんでした。JPモルガンでの経験、そして現在の野村での挑戦。その過程では、想像を絶するような市場の混乱や、組織としての困難な局面に何度も直面してきました。
ここで学んだ人生で二番目に大事なことは、「レジリエンス(回復力、しなやかな強さ)」です。
世界は予測不可能です。完璧な計画を立てても、予期せぬ出来事によって一瞬にして崩れ去ることがあります。しかし、そこで立ち止まってはいけません。真のリーダーシップ、そして真に豊かな人生とは、困難にぶつかったときに「なぜ自分だけがこんな目に」と嘆くことではなく、「この状況から何を学び、どう立ち上がるか」に集中することにあります。
野村が過去に直面した課題も、私たちにとっては大きな学びの機会でした。失敗を恐れてリスクを取らないことは、停滞を意味します。失敗を認め、それを分析し、より強い組織へと生まれ変わらせる。この「不屈の精神」こそが、個人を、そして企業を真の卓越性へと導くのです。
3. 「長期的な視点」を持つ:四半期報告を超えて
現代社会は、あまりにも「短期的」な成果に固執しすぎています。SNSの「いいね」の数、株価の数分単位の変動、四半期ごとの決算数値。これらは確かに無視できない要素ですが、それだけに目を奪われると、人生の本質を見失います。
私が人生で大切にしている三つ目の要素は、「長期的な視点(Long-term Thinking)」です。
私が野村に加わった大きな理由の一つは、この会社が持つ100年近い歴史と、創業者である野村徳七氏が掲げた「顧客とともに栄える」という長期的哲学に共鳴したからです。
人生において、価値のあるものはすべて構築するのに時間がかかります。深い人間関係、専門的なスキル、信頼されるブランド、そして持続可能な社会。これらは一朝一夕には成し遂げられません。
「今、この瞬間の決断が、5年後、10年後の未来にどのような影響を与えるか」を常に自問自答してください。短期的な利益を犠牲にしてでも、長期的な価値を優先する勇気を持つこと。この視点を持つことで、目の前の些細なトラブルに惑わされることなく、大局を見失わずに歩み続けることができるようになります。
4. 「多様性」という名の橋を架ける
私は野村で「初の外国人執行役」という立場にあります。これは私にとって単なる役職以上の意味を持っています。それは、「異なる文化や価値観を融合させ、新しい価値を創造する」という使命です。
人生において大事なことの一つに、「自分とは異なる存在に対する深い敬意」があります。
日本の伝統的な組織文化と、グローバルな金融市場のスピード感。これらは一見、相反するように見えるかもしれません。しかし、これらが互いに尊重し合い、対話を通じて融合したとき、他には真似できない圧倒的な強さが生まれます。
私自身の人生も、多様な文化に触れ、自分とは全く異なる考え方を持つ人々と協働することで豊かになってきました。自分の殻に閉じこもらず、常にオープンマインドでいること。未知のものに対して恐怖ではなく好奇心を抱くこと。この姿勢が、グローバル化した現代社会を生き抜くための鍵となります。
5. 「卓越性」への飽くなき追求
私は「普通」であることに満足したことは一度もありません。人生の時間は限られています。その限られた時間の中で、自分ができる最高のパフォーマンスを追求すること――すなわち「卓越性(Excellence)」へのコミットメントが不可欠です。
これは「完璧主義」とは違います。完璧とは到達不可能な静止した状態ですが、卓越性とは「昨日よりも今日、今日よりも明日、少しでも良くなろうとするダイナミックなプロセス」です。
仕事においても、プライベートにおいても、細部にまでこだわり、情熱を注ぎ込むこと。その積み重ねが、他者からの信頼を生み、自分自身の自尊心を作り上げます。野村のホールセール部門を世界トップクラスのプレイヤーに押し上げるという私の挑戦も、この卓越性への追求そのものです。
6. 次世代への継承:真の成功とは何か
最後に、私にとっての「成功」の定義をお話ししましょう。
多くの人は、成功を「いくら稼いだか」「どれほど高い地位に就いたか」で測ろうとします。しかし、キャリアの終盤に差し掛かったとき、あるいは人生の最期の瞬間に、それらはそれほど重要ではなくなります。
真の成功とは、「自分が去った後の世界を、自分が来る前よりも少しだけ良い場所にできたかどうか」、そして「どれだけ多くの次世代の才能を育成し、インスパイアできたか」にあります。
私が現在、野村で行っている組織改革や人材育成も、すべてはこの「継承(Legacy)」のためです。私がいなくなった後も、野村という組織がグローバルに輝き続け、社会に貢献し続ける。そのための礎を築くこと。
人生で一番大事なこと。それは、自分という存在を超えた「大きな目的」のために、自分の才能と時間を使うことではないでしょうか。
結びにかえて
人生は、不確実性に満ちた長い旅です。
時には嵐に見舞われ、進むべき道を見失うこともあるでしょう。しかし、心の中に「インテグリティ」という羅針盤を持ち、「レジリエンス」という帆を張り、「長期的な視点」という遠くの星を見つめていれば、必ず目的地に到達することができます。
そして忘れないでください。その旅を共にする仲間への敬意と、常に高みを目指す情熱を。
私のこの言葉が、あなたにとって、自らの人生を切り拓く何らかのヒントになれば幸いです。
共に、素晴らしい未来を築いていきましょう。
クリストファー・ウィルコックス
野村ホールディングス株式会社 執行役
ホールセール部門長