株式会社コーセーの代表取締役社長、小林一俊として、私のこれまでの歩みと、経営者として、そして一人の人間として辿り着いた「人生で一番大事なこと」についてお話しさせていただきます。

3,500字という限られた枠の中ではありますが、創業家三代目として、またグローバル企業を牽引する一人のリーダーとしての真実の言葉を綴ります。


変化の中に普遍の価値を見出す――「美の創造」がもたらす心の豊かさ

はじめに:問いへの答え

「人生で一番大事なことは何か」と問われれば、私は迷わずこう答えます。それは「自分自身の枠を超え、誰かのために『新しい価値』を創造し続けること」、そしてそのプロセスにおいて「常に変化し続ける勇気を持つこと」です。

化粧品という事業を通じて私が学び、確信したのは、私たちが提供しているのは単なる液体や粉体ではないということです。それは、お客様が鏡の前に立った時に感じる「明日への活力」であり、「自分を肯定する力」です。この「目に見えない価値」を追い求める過程にこそ、人生の醍醐味があると考えています。

1. 「伝統」と「革新」の狭間で学んだこと

私は、1946年に祖父・小林孝三郎が創業したコーセーという会社に生まれました。創業者が掲げた「英知と感性を融合し、独自の価値を持つ化粧品を創造する」という理念は、私の血肉となっています。しかし、三代目として会社を引き継ぐにあたり、私は一つの大きな壁にぶつかりました。それは「伝統を守ることは、変化を止めることではない」という真理への到達です。

多くの人は、伝統を「過去の成功体験をそのまま維持すること」だと誤解しがちです。しかし、変化の激しい現代において、現状維持は後退と同じです。私が社長に就任してから一貫して提唱してきたのは、「基本の徹底」と「現世(げんせい)への変態」です。

根底にある誠実さや品質へのこだわり(基本)は一歩も譲らない。しかし、その表現方法や戦う場所、手法(変態)は、時代の風に合わせて大胆に変えていかなければならない。人生においても同じです。自分の核となる信念を持ちつつも、過去の自分を否定することを恐れず、脱皮し続けること。この「しなやかな強さ」こそが、人生を豊かにする第一の鍵だと信じています。

2. 「美」の本質――自信が世界を変える

私たちは今、大きな時代の転換点にいます。かつて化粧品は「欠点を隠すもの」や「女性だけが嗜むもの」という限定的な捉え方をされていました。しかし、私が進めてきた「ジェンダーレス」や「グローバル・ハイプレステージ戦略」を通じて見えてきたのは、美の本質とは「心の解放」であるということです。

例えば、大谷翔平選手を広告に起用した際、多くの方から驚きの声をいただきました。しかし私の中では確信がありました。スポーツも美容も、本質的には「自分を高めたい」「自信を持ちたい」という人間の根源的な欲求に基づいています。日やけ止めを塗る、スキンケアで肌を整える。その小さな一歩が、一人の人間のパフォーマンスを最大化し、前向きなマインドセットを作る。

人生において大事なのは、表面的な容姿を飾ることではありません。自分を慈しみ、手入れをすることで得られる「自己肯定感」です。自信に満ちた一人の人間が放つエネルギーは、周囲を明るくし、社会を動かす力になります。自分自身を「最高の商品」として磨き続ける努力。その自己研鑽のプロセスそのものが、人生における美しさの正体なのです。

3. グローバルな視点と多様性の受容

コーセーをグローバル企業へと成長させる過程で、私は世界中の多様な価値観に触れてきました。そこで痛感したのは、「自分の物差しがすべてではない」と知ることの重要性です。

日本独自の「おもてなし」や細やかな技術力は世界に誇れるものです。しかし、それを押し付けるだけでは世界では通用しません。現地の文化を尊重し、現地のニーズを深く理解し、その上で自分たちの強みをどうアジャストしていくか。この「共生」と「調和」の精神こそが、これからの時代を生き抜くために不可欠です。

人生を豊かにするのは、自分とは異なる背景を持つ人々との出会いです。自分とは違う意見、違う文化、違う感性に触れたとき、それを拒絶するのではなく「おもしろい」と受け入れる度量を持つこと。その多様性を受け入れる心の広さが、創造性の源泉となり、人生の可能性を無限に広げてくれます。

4. 逆境を「進化の種」に変える力

経営者としての道のりは、決して平坦なものではありませんでした。リーマンショック、東日本大震災、そして近年のパンデミック。予期せぬ困難が次々と襲いかかりました。しかし、私は確信しています。逆境こそが、最も自分を成長させてくれる「ギフト」であると。

パンデミックの最中、人々はマスクを着用し、外出を控えました。化粧品業界にとっては未曾有の危機です。しかし、そんな時だからこそ、私たちは「デジタルとリアルの融合」を加速させ、お客様一人ひとりに寄り添う新しいカウンセリングの形を模索しました。

人生において、順風満帆な時だけが価値ある時間ではありません。むしろ、思い通りにいかない時に、どう踏ん張り、どう知恵を絞るか。その時の姿勢が、その後の人生の厚みを決めます。「なぜ自分だけがこんな目に」と嘆くのではなく、「この状況から何を学び、どう変われるか」と問い直す。ピンチをチャンスに変えるレジリエンス(復元力)は、困難に立ち向かった経験からしか生まれません。

5. 「誠実さ」という最強の戦略

ビジネスの世界では、時に効率や利益が最優先されることがあります。しかし、私は長年の経験から断言できます。最後に勝つのは、常に「誠実であること」です。

お客様に対して、社員に対して、社会に対して、そして自分自身に対して。嘘をつかず、真摯に向き合い続けること。コーセーが長年愛されてきた理由は、徹底した「品質至上主義」と、お客様の肌を第一に考える「真心(まごころ)」にあります。

一度失った信頼を取り戻すには、得た時の何倍もの時間がかかります。短期的な利益のために近道をせず、王道を歩み続けること。一見遠回りに見えても、誠実さの積み重ねが「ブランド」を作り、揺るぎない「人格」を作ります。人生の終盤に振り返ったとき、誇れる自分であるためには、日々の選択において常に「誠実であるか」を問い続けなければなりません。

6. 次世代へのバトン――「貢献」という終着点

私にとって、人生の成功とは売上の数字や資産の額ではありません。自分がこの世を去るとき、「どれだけの人を笑顔にし、どれだけ良い社会を残せたか」という一点に尽きます。

現在は、サステナビリティ(持続可能性)が声高に叫ばれていますが、これも本質的には「恩送り」の精神です。先人たちが築いてくれた豊かな土壌に感謝し、それをさらに耕して次の世代に引き継ぐ。この大きな循環の一部として生きることに、個人の命の意味があります。

若い世代の皆さんには、ぜひ「利他」の喜びを知ってほしいと思います。自分の幸せだけを追い求めても、その喜びには限界があります。しかし、自分の力が誰かの役に立ち、誰かを輝かせたときの喜びは、枯れることのないエネルギーとなります。

おわりに:今、この瞬間を輝かせる

最後になりますが、人生で一番大事なことは、「今、この瞬間を情熱を持って生きること」です。

過去は変えられず、未来は予測不能です。確かなのは「今」という時間だけです。鏡に向かって自分の顔を整える数分間。誰かと真剣に対話する一時間。新しいアイデアを練るひと晩。その一瞬一瞬に全精力を傾け、自分の可能性を信じて挑戦し続けること。

「美の創造」という私たちの仕事に終わりがないように、人間の成長にも終わりはありません。私自身、これからも一人の挑戦者として、世界中に「美」と「希望」を届けるために歩みを止めるつもりはありません。

皆さんも、自分の中に眠る無限の可能性を信じてください。自分を磨き、変化を楽しみ、誠実に歩み続ければ、道は必ず開けます。その先に、あなただけの「一番大事なこと」が輝きを放っているはずです。


以上が、私、小林一俊が考える人生の本質です。

共に、より美しく、より豊かな未来を創っていきましょう。