東京エレクトロンの河合利樹です。
「人生で一番大事なことは何か」という問いをいただきました。非常に本質的であり、また、私自身が日々の経営判断や、一人の人間としての歩みの中で常に自問自答し続けているテーマでもあります。
半導体という、現代社会のあらゆる基盤を支える産業の最前線に身を置く経営者として、そして一人のビジネスパーソンとしての経験から、私が出した答えをお話しさせていただきます。
1. 限界を決めない「志」の高さ
人生において最も大切なこと、それは「自分の能力の限界を、自分の未来や組織の成長の限界にしない」という強い意志と高い志を持つことだと考えています。
私はよく「自分の能力の限界を、会社の成長の限界にしない」という言葉を社員に伝えます。これは経営者である私自身にも向けた言葉です。人はどうしても、過去の経験や現在のスキルに基づいて「自分ができること」の範囲を決めてしまいがちです。しかし、私たちが生きる世界、特に半導体業界は、昨日までの常識が今日には通用しなくなるような非連続な変化の連続です。
もし私が「自分のこれまでの知識や経験で十分だ」と考えてしまったら、東京エレクトロンという会社の成長はその瞬間に止まってしまいます。人生も同じです。「自分はこの程度だ」と枠を決めた瞬間に、新しい可能性の芽は摘まれてしまいます。
大切なのは、現状に安住せず、常に一歩、二歩先の「あるべき姿」を描き、そこに向かって自分をアップデートし続けることです。志を高く持ち、未知の領域に挑む勇気を持つこと。これが、充実した人生を送るための第一歩です。
2. 「人」こそが価値創出の源泉であるという確信
次に大事なことは、「人」を大切にし、「人」の情熱を信じることです。
東京エレクトロンの経営において、私が最も重視しているのは「人」です。私たちの会社には巨大な工場や設備もありますが、それらを動かし、世界を驚かせるような技術を生み出すのは、すべて「人」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)といった大きな時代のうねりの中で、真の価値を生み出すのは、AIでも機械でもなく、人間の知恵と情熱に他なりません。
私は、社員一人ひとりが「自分が世界を変えているんだ」という誇りを持ち、ワクワクしながら挑戦できる環境を作ることが、社長としての最大の使命だと考えています。だからこそ、世界水準の報酬体系を整え、社員がプロフェッショナルとして正当に評価される仕組みを追求してきました。
これはビジネスに限った話ではありません。人生においても、周囲の人々を尊重し、互いに高め合える関係を築くことは、何物にも代えがたい財産になります。他者の情熱に触れ、自分の情熱を誰かのために役立てる。その循環の中にこそ、人生の豊かさがあります。
3. 「世界一」にこだわるプロフェッショナリズム
人生を意味あるものにするためには、「やるからには世界一を目指す」という徹底したプロフェッショナリズムも不可欠です。
中途半端な目標からは、中途半端な結果しか生まれません。東京エレクトロンは「Best Products, Best Service」を掲げ、あらゆる分野で世界一の製品・サービスを提供することを目指しています。なぜ世界一でなければならないのか。それは、二番手や三番手では、お客様に真の感動を与えることも、産業の未来を切り拓くこともできないからです。
プロフェッショナルとして、自分の仕事に絶対的なプライドを持つこと。細部にまでこだわり、妥協を許さない姿勢を貫くこと。こうした厳しさを自分に課すことで、初めて見える景色があります。困難を乗り越えて「世界最高レベル」に到達した時の喜びは、何者にも代えがたいものです。
若いうちは、自分が何で「世界一」になれるか分からなくてもいい。しかし、目の前の仕事や学びに全力で向き合い、その分野で誰にも負けないという気概を持つ。その積み重ねが、揺るぎない自信と、人生の基盤を作り上げます。
4. 逆境を「進化のチャンス」と捉える前向きさ
人生には必ず、思い通りにいかない時期や、大きな壁にぶつかる時があります。その際、最も大切なのは「逆境こそが自分を進化させる最大のチャンスである」と捉えるポジティブな思考です。
私のキャリアを振り返っても、決して平坦な道ばかりではありませんでした。海外駐在での苦労や、市場の激しい浮き沈みの中で厳しい決断を迫られたことも多々あります。しかし、今振り返れば、自分を最も成長させてくれたのは、常にそうした苦しい局面でした。
追い詰められた時こそ、人は必死に考え、新しいアイデアを生み出し、これまでの自分を脱ぎ捨てることができます。ピンチを「最悪の事態」と嘆くのか、「自分を変える絶好の機会」と捉えるのか。この解釈の差が、その後の人生を決定的に分けます。
「どんな状況でも、必ず道はある」と信じ、前を向いて歩みを止めないこと。このレジリエンス(しなやかな強さ)こそが、激動の時代を生き抜くための武器になります。
5. 社会に対する貢献と責任
最後に、人生において忘れてはならないのが、「自分は社会に対してどのような貢献ができるか」という視点です。
私たち東京エレクトロンが作る半導体製造装置は、スマートフォンの普及からAIの進化、さらにはエネルギー問題の解決に至るまで、人類の未来に直結しています。私たちはただ機械を作っているのではなく、技術を通じて夢のある社会を作っているのです。この社会的使命感があるからこそ、私たちはどんな困難にも立ち向かうことができます。
個人としても同じです。自分のためだけに生きる力には限界があります。しかし、「誰かの役に立ちたい」「社会をより良くしたい」という利他の心を持った時、人間は想像以上の力を発揮することができます。
自分の得意なこと、情熱を注げることで、周囲の人や社会に貢献する。その感謝の連鎖の中に自分の居場所を見出すことが、人生の最終的な幸福感につながると私は信じています。
結びに代えて
人生で一番大事なこと。それは一言で言えば、「飽くなき好奇心と情熱を持ち、常に自分自身をアップデートし続けながら、他者や社会のために最高の価値を提供しようと挑み続けること」ではないでしょうか。
私は大学時代、ゴルフに打ち込んでいました。ゴルフは自分自身との戦いであり、一打一打に全責任を負うスポーツです。その経験が今の私の経営スタイルの根底にあります。人生というコースも、天候や地形(環境)はコントロールできませんが、自分の「志」と「準備」と「振り抜く勇気」は自分次第で決めることができます。
皆さんも、自分の可能性に蓋をせず、高い志を持って、一度きりの人生を全力で駆け抜けてください。私もまた、東京エレクトロンというチームと共に、世界を驚かせる未来を作るために、これからも限界なき挑戦を続けていきます。