フクダ電子の経営に長年携わってまいりました、福田孝太郎です。

「人生で一番大事なことは何か」という問いをいただいたとき、私の脳裏にまず浮かぶのは、私たちが社是として掲げ、私の経営人生のすべてを捧げてきた「生命(いのち)への尊厳」という言葉です。

しかし、一人の人間としての歩みを振り返ったとき、その答えは単なる「命」という言葉だけでは語り尽くせません。3,500字という限られた、しかし深い対話の場で、私がこれまでの経験から学び、確信した「人生の真理」についてお話しさせていただきます。


1. 「生かされている」という自覚と感謝

人生において最も根源的であり、かつ最も強力な指針となるのは、「自分は生かされている」という謙虚な自覚です。

私は医療機器メーカーという、人の生死の最前線に寄り添う仕事をしてきました。病床で懸命に生きようとする患者さん、その命を救おうと昼夜を問わず戦う医師や看護師の方々。その姿を間近で見続けてきた私が至った結論は、自分の力だけで生きている人間など一人もいない、ということです。

  • 命の重みを知る: 私たちの心臓は、自分の意志で動かしているわけではありません。休むことなく鼓動を続けるこの生命のメカニズムそのものが、大いなる自然や運命からの預かりものです。
  • 支えへの感謝: 家族、社員、取引先、そして私たちの製品を信頼してくださる医療現場の方々。これら無数の縁があって初めて、今日の自分があります。

感謝の心を持つことは、単なる道徳ではありません。それは、「自分に何ができるか」を考えるためのスタート地点なのです。自分が生かされている存在だと気づいたとき、人は自然と「この授かった命を、誰かのためにどう役立てるべきか」という問いに向き合うことになります。


2. 「信頼」という名の無形の資産

ビジネスにおいても、個人としての人生においても、最後に残るものは「信頼」以外にありません。

フクダ電子の歴史は、日本初の心電計の開発から始まりました。精密機械、特に命に関わる機器において「故障した」「数値が狂った」という事態は、そのまま患者さんの不利益、最悪の場合は死に直結します。

「信頼を築くには一生かかるが、失うのは一瞬である」

この言葉を、私は片時も忘れたことはありません。人生で一番大事なことの一つは、「どれだけの人から、どれほど深く信頼されているか」という一点に集約されます。

信頼を積み上げるための三原則

  1. 誠実であること: 良い時だけでなく、苦しい時、失敗した時こそ真価が問われます。隠し事をせず、正直に事実を伝える勇気が信頼の礎となります。
  2. 継続すること: 一時の情熱は誰にでも持てますが、それを10年、20年と続けることは困難です。愚直なまでの継続こそが、周囲を納得させます。
  3. 現場を重んじる: 答えは常に現場(医療現場)にあります。机上の空論ではなく、実際に困っている人の声に耳を傾け、その課題を解決するために汗をかく。その姿勢が信頼を生みます。

お金や地位は時代とともに移ろい、時には失われることもあるでしょう。しかし、築き上げた信頼は、あなたが誰であるかを証明する消えない刻印となります。


3. 「貢献」こそが幸福の正体である

「幸せになりたい」というのは誰もが願うことですが、自分の幸福だけを追い求めている間は、本当の意味での充足感は得られません。

私が経営を通じて学んだのは、「他者の幸福に寄与することこそが、最大の自己充足である」という逆説的な真理です。

  • 社会における役割: 企業は社会の公器です。フクダ電子であれば、AEDの普及によって一人でも多くの突然死を防ぐこと、在宅医療を支援することで患者さんのQOL(生活の質)を高めること。これらが私たちの「役割」です。
  • 利他の精神: 「利他」とは、自分を犠牲にすることではありません。自分の持てる能力、技術、情熱を、誰かの「不」を解消するために使うことです。

「ありがとう」と言われる仕事をすること。誰かの痛みを和らげ、誰かの安心を創り出すこと。その活動のプロセスそのものが、人生を光り輝くものに変えてくれます。もし人生の目的を見失いそうになったら、「今日、私は誰を笑顔にできただろうか」と自分に問いかけてみてください。


4. 変化を恐れず、本質を守り抜く

人生は変化の連続です。医療の世界も、アナログからデジタルへ、そしてAIやデータ活用の時代へと激変してきました。この荒波の中で生き抜くために大事なのは、「変えるべきもの」と「変えてはならないもの」を見極める目です。

変えるべきもの(手段)変えてはならないもの(本質)
技術、製品の形状、ビジネスモデル命を尊ぶ心、誠実さ、創業の精神
組織の構造、働き方現場第一主義、品質へのこだわり

私たちは、常に最新の技術を追い求め、過去の成功体験を捨てる勇気を持たなければなりません。しかし、その根底にある「なぜこの仕事をしているのか」という哲学だけは、何があっても揺らいではいけない。

頑固であることと、信念を持つことは違います。柔軟に形を変えながらも、芯にある魂を汚さない。このバランスを保ち続けることが、長く豊かな人生を送るための秘訣です。


5. 「縁」を大切にし、次世代へ繋ぐ

最後に、人生で一番大事なこととして「継承」を挙げたいと思います。

私たちの命は、有限です。私という個人の活動にはいつか終わりが来ます。しかし、私が志したこと、大切にしてきた価値観、そしてフクダ電子という組織が守ってきた使命は、次の世代へと受け継がれていきます。

  • 良き縁を育む: 人生は「誰と出会うか」で決まります。出会った縁を大切にし、お互いを高め合える関係を築くこと。
  • バトンを渡す準備: 自分が得た知恵や経験を独り占めせず、後進に伝えていくこと。若い世代が自分を追い越し、より素晴らしい社会を作っていく姿を応援すること。

「自分がいなくなった後、社会が少しでも良くなっているか」。そう思えるような生き方をすることが、人生の締めくくりにおいて最も重要な意味を持つと私は信じています。


結びに代えて

人生で一番大事なこと。それは、「授かった命を燃やし、信頼という絆を紡ぎながら、誰かの役に立つ喜びを味わい尽くすこと」

私はフクダ電子という会社を通じて、心電図の一波一波が刻む命の鼓動に接してきました。その鼓動は、いつか必ず止まります。だからこそ、今この瞬間、自分に与えられた時間をどう使うかが問われているのです。

地位も名誉も、あの世に持っていくことはできません。しかし、あなたが誰かの心に残した「温もり」や「安心」、そして社会に遺した「貢献」は、永遠に生き続けます。

どうか、あなた自身の「命の使い道」を大切にしてください。私もまた、残された時間、一分一秒を惜しんで、医療の発展と人々の健康のために精進し続ける所存です。