慎ジュンホとして、私のこれまでの歩み、そしてLINEというプロダクトを通じて学んできた「人生で一番大事なこと」について、深くお話しさせていただきます。
3,500字という限られた枠の中ではありますが、一人のエンジニアとして、そして経営者として、私が魂を削って向き合ってきた「本質」を綴ります。
はじめに:震災の記憶と「つながり」の原点
私が人生において「何が最も重要か」を真剣に考え直すきっかけとなったのは、2011年3月11日、東日本大震災でした。
当時、私は日本で新しいサービスを立ち上げるために、韓国のネイバー(NAVER)から送り込まれた一人のリーダーでした。日本市場への挑戦は容易ではなく、いくつものサービスをリリースしては失敗し、撤退を繰り返す日々でした。私たちのチームは疲弊し、暗闇の中で出口を探しているような状態でした。
しかし、あの日、すべてが変わりました。
大切な人と連絡が取れない、家族の安否がわからない。電話回線が途絶え、多くの人々が不安に震える中で、私たちが目にしたのは「インターネットを通じた切実なコミュニケーションの欲求」でした。Twitterや既存のSNSが安否確認に使われる一方で、よりプライベートで、よりリアルタイムな「愛する人との絆」を確認する手段が不足していることを痛感したのです。
この時、私は悟りました。人生で一番大事なことは、自分自身の成功や名声ではなく、「誰かの痛みを解決し、本質的な価値を提供すること」にあるのだと。
1. 「ユーザー」という北極星を見失わないこと
私がこれまでのキャリアで一貫して守ってきた信念は、「User-First(ユーザー第一主義)」です。言葉にすれば簡単ですが、これを極限まで突き詰めることは、この上なく苦しい作業です。
人生における多くの迷いは、「自分がどう見られるか」や「どれだけ利益を得るか」という自意識から生まれます。しかし、プロダクト開発も人生も、主語を「自分」から「相手(ユーザー)」に変えた瞬間に、進むべき道が明確になります。
常に「WOW」を追求する
LINEの開発において、私たちは「WOW」という言葉を大切にしてきました。これは、単に「便利」なだけではなく、ユーザーが思わず声を上げてしまうような、感動を伴う体験のことです。
人生も同じではないでしょうか。自分が関わる人々に対して、どれだけの驚きと喜び、つまり「WOW」を提供できるか。自分の存在が、誰かの日常を少しだけ明るくしたり、困難を軽くしたりできているか。その問いにYesと答えられる生き方こそが、価値ある人生だと私は信じています。
2. 変化を恐れず、「ベンチャー精神」を持ち続ける
私はよく、周囲から「LINEの父」と呼ばれます。しかし、私自身は自分を成功者だと思ったことは一度もありません。なぜなら、成功とは過去の遺物であり、執着した瞬間に成長が止まってしまうからです。
人生において大事なのは、「完成させること」ではなく「変化し続けること」です。
失敗は「データの蓄積」に過ぎない
日本でLINEを立ち上げる前、私たちは数え切れないほどの失敗をしました。検索サービス、フォト共有、ブログ……。もし私たちが「失敗=恥」と考えていたら、LINEはこの世に生まれていなかったでしょう。
私にとって失敗は、成功へのプロセスにおける「貴重なデータ」です。人生において何かに挑戦し、壁にぶつかった時、それを挫折と捉えるか、あるいは「この方法はうまくいかないという発見」と捉えるか。そのマインドセットの差が、人生の豊かさを決定づけます。
居心地の悪い場所へ飛び込む
私は韓国から日本へ、そして日本から世界へと常にフィールドを広げてきました。言葉も文化も違う環境に身を置くことは、多大なストレスを伴います。しかし、その「居心地の悪さ」こそが、思考を研ぎ澄ませ、新しい価値を生むためのガソリンになります。安定に安住せず、常に自分を「チャレンジャー(挑戦者)」の立場に置くこと。それが私のエネルギーの源です。
3. 「本質」以外を捨てる勇気
現代社会は情報に溢れ、選択肢が多すぎます。その中で、多くの人が「あれもこれも」と抱え込み、結果として何一つ成し遂げられずにエネルギーを分散させています。
LINEの初期開発において、私がチームに徹底させたのは「機能の削ぎ落とし」でした。当時、多機能なメッセンジャーは他にもありましたが、私たちは「既読確認」と「スタンプ」、そして「圧倒的なスピード」という根源的なコミュニケーション体験にのみリソースを集中させました。
選択とは「捨てること」
人生も全く同じです。時間は有限であり、私たちが一生の間に成し遂げられることは驚くほど少ない。だからこそ、「自分にとって何が最も重要か」を見極め、それ以外を冷徹に捨てる勇気が必要です。
地位、名誉、世間体、過去の成功体験……。これらを捨て去り、自分の魂が震える一点に集中する。その純度の高い生き方こそが、結果として大きなインパクトを世界に残すことになります。
4. 「誠実さ」という最強の武器
私はエンジニア出身ですから、数字やロジック、技術の力を信じています。しかし、大きなプロジェクトを動かし、国境を越えた信頼関係を築く中で最終的に行き着いたのは、「誠実さ(Integrity)」という極めて人間的な美徳でした。
信頼のネットワーク
LINE Yahooのような巨大な組織を運営する上で、最もコストがかかるのは「疑念」です。互いに疑い合い、保身に走る組織は、スピードを失い自滅します。
個人としての人生も同様です。嘘をつかず、約束を守り、目の前の相手に対して誠実であること。一見、遠回りに見えるこの姿勢が、長期的に見れば最強のネットワークを形成します。私が困難に直面したとき、いつも助けてくれたのは、かつて一緒に泥水をすすりながら夜通しコードを書いた仲間や、真摯に向き合ってきたパートナーたちでした。
人生において、信頼以上に価値のある資産はありません。それはお金で買うことはできず、日々の小さな積み重ねによってのみ築かれます。
5. 次の世代へ何を残すか
最近、私は経営の第一線(取締役)から退き、より現場に近いプロダクト開発の支援へと役割を移しました。この変化を通じて、改めて「人生の締めくくり方」についても考えるようになりました。
結局のところ、人生で一番大事なことは、「自分が去った後の世界が、自分が来る前よりも少しだけ良くなっていること」ではないでしょうか。
恩送り(Pay It Forward)の精神
私は多くの幸運に恵まれました。素晴らしいチーム、時代、そしてユーザー。これまでに受け取った恩恵を、どうやって次の世代に還元していくか。それが今の私の最大の関心事です。
若きエンジニアや起業家たちが、より大きな夢を描き、より困難な課題に挑戦できる環境を整えること。彼らが「世界を変えられる」と信じられる背中を見せること。それが、私がこの世に生を受けた証(あかし)になると考えています。
結びに:今、この瞬間を「全力」で生きる
最後に、私の座右の銘に近い考えをお伝えします。
人生には、自分の力ではどうにもできない「運」や「時代の流れ」があります。しかし、その流れを掴めるか否かは、「今、この瞬間にどれだけ没入しているか」にかかっています。
震災の直後、私たちが寝食を忘れてLINEの開発に没頭したあの数ヶ月。あの時の熱量こそが、その後の10年、20年の運命を決定づけました。
もし、あなたが今、人生の岐路に立っているのなら、自分に問いかけてみてください。
「私は今、目の前のことに命を懸けているか?」
「私の行動は、誰かの幸せに繋がっているか?」
人生で一番大事なこと。それは、「愛する人や社会のために、自分の才能を惜しみなく使い切り、変化を楽しみながら、誠実に生きること」。
私はこれからも、一人のチャレンジャーとして、この本質を追い求めていくつもりです。プロダクトが形を変えても、組織の形が変わっても、この信念だけは揺らぐことはありません。
共に、WOWのある人生を歩んでいきましょう。