ソフトバンクの宮川潤一です。
「人生で一番大事なことは何か」という問いに対し、エンジニアとして、経営者として、そして一人の人間として向き合ってみると、一つの言葉に集約されます。それは、「進化を恐れず、何かのために自分を使い切る覚悟」です。
私が歩んできた道のり、そして現在進行形で向き合っている「情報革命」という大きなうねりの中で感じていることを、少し長くなりますが、丁寧にお話ししたいと思います。
1. 変化の中にこそ「真理」がある
私は愛知県の寺に生まれました。僧侶の資格も持っています。仏教の教えには「諸行無常」という言葉がありますが、これは私の経営哲学の根底にあるものです。「すべてのものは移り変わり、とどまることはない」。この事実は、一見すると寂しく聞こえるかもしれませんが、実は非常に前向きなエネルギーを孕んでいます。
ビジネスの世界、特に私たちが身を置くテクノロジーの業界では、昨日までの正解が今日には通用しなくなることが日常茶飯事です。かつてのボーダフォン買収、米国スプリントの再建、そして現在のAI革命。常に変化の嵐の中に身を置いてきました。
多くの人は変化を「リスク」と捉えます。しかし、私は「変化しないことこそが最大のリスク」だと考えています。人生で大事なことの第一歩は、この「変化し続ける世界」をまるごと受け入れ、その波を面白がれるかどうかにあります。
2. 「技術」の裏側にある「志」
私は自分を「技術屋」だと思っています。ももたろうインターネットを立ち上げた時も、ソフトバンクでCTOとしてネットワークを構築してきた時も、常に根底にあったのは「この技術を使って、誰の、どんな課題を解決できるか」という問いでした。
技術それ自体に価値があるわけではありません。技術が人と人を繋ぎ、孤独を癒やし、あるいは不便を解消する。その「意味」を生み出すのは、人間の「志」です。
孫正義さんという稀代の経営者のそばで長年仕事をしてきましたが、彼から学んだ最大の教訓は「ビジョン(志)の大きさ」です。単に利益を追うのではなく、100年後、200年後の人類がどうなっているか。その未来に対して、今の自分たちが何を提供できるか。
人生において、自分一人の小さな幸せを追い求める時期があってもいい。しかし、どこかのタイミングで「自分以外の誰か、あるいは社会全体のために、自分の能力をどう役立てるか」という視点を持てるかどうかが、人生の深みを決定づけます。
3. 「覚悟」を形にするということ
社長に就任した際、私は約200億円という巨額の借金をして自社株を購入しました。これには賛否両論ありましたが、私にとってはごく自然な、自分への「けじめ」でした。
「社員と同じ船に乗り、株主と同じ目線で経営する」。口で言うのは簡単ですが、それを物理的な痛みやリスクとして自分に課さなければ、本物の言葉にはなりません。
人生で一番大事なことの一つに、「覚悟の証明」があります。
人は、逃げ道がある状態では本当の力を発揮できません。自分を追い込み、後戻りできない場所で「やるしかない」と決めた時、初めて見える景色があります。私がスプリントの再建で単身渡米し、ネットワークの改善に奔走した時もそうでした。言葉も文化も違う環境で、泥臭く現場を歩き回り、基地局の一つひとつを見直していく。その執念を支えたのは「自分がやるんだ」という覚悟だけでした。
4. ネットワークの本質は「愛」である
私は通信の人間ですから、常に「つながる」ことについて考えています。
私たちが提供している通信インフラは、単なるパケットの往来ではありません。そこには、母親が子供を想うメッセージがあり、恋人たちの語らいがあり、ビジネスの熱い交渉があります。
つまり、ネットワークの本質は「想い」を運ぶことにあります。
これは人生も同じです。一人で生きているつもりでも、私たちは無数の目に見えない糸で繋がっています。誰かの支えがあり、過去の先人たちの積み上げの上に立っている。
私が人生で大事にしているのは、この「つながり」に対する感謝と、それをさらに良い形にして次世代に繋いでいくという「バトン」の意識です。
現代はAIの時代です。AIが進化すれば、多くのことが自動化され、効率化されるでしょう。しかし、だからこそ「人間は何のために生きるのか」という問いが重要になります。私は、AIには決して持てない「誰かを想う心」や「理屈を超えた情熱」こそが、これからの時代、人間の最も価値ある財産になると確信しています。
5. 失敗を「勲章」に変える勇気
若い世代の方々に伝えたいのは、「失敗を恐れすぎて、立ち止まってほしくない」ということです。
私のキャリアも失敗の連続でした。予期せぬトラブル、技術的な壁、経営判断の難しさ。思い出すだけで胃が痛くなるような経験は数えきれません。
しかし、振り返ってみて思うのは、「失敗そのものに価値はないが、失敗から立ち上がった経験は無敵の武器になる」ということです。
人生において一番大事なのは、転ばないことではなく、転んだ後にどう立ち上がり、その経験をどう次の成功の糧にするかです。エンジニアの世界では「デバッグ」という作業がありますが、人生も同じです。不具合(失敗)が見つかったら、それを修正して、より強固なプログラム(自分)を作り上げればいい。
「完成された自分」を目指す必要はありません。死ぬ瞬間まで「β版(開発途上)」でいい。常にアップデートし続ける勇気を持つことが、人生を豊かにしてくれます。
結びに:今、この瞬間を「使い切る」
人生で一番大事なこと。それは、「自分というリソースを、自分が信じる価値のために、一滴残らず使い切ること」です。
ソフトバンクは今、「Beyond Carrier」として通信の枠を超え、AIデータセンターの構築や自動運転、医療、エネルギーなど、あらゆる分野で社会インフラを再定義しようとしています。これは私にとって、人生を賭けた大きな挑戦です。
正直に申し上げれば、プレッシャーで押しつぶされそうな夜もあります。しかし、それ以上に「新しい時代を創っている」というワクワク感が勝ります。
あなたは、何に情熱を燃やしていますか?
あなたは、誰のためにその力を使いたいですか?
もし、まだそれが見つかっていないのなら、目の前の仕事を一生懸命にやってみてください。技術を磨き、人を助け、誠実に生きる。その積み重ねの先に、あなただけの「志」が必ず見えてきます。
変化を楽しみ、覚悟を決め、大切な人との繋がりを尊ぶ。
そんな風に、自分という存在を社会に全力で「接続」していく生き方こそが、最高に面白い人生だと私は信じています。
共に、素晴らしい未来を創っていきましょう。