こんにちは、レネ・ハースです。

現在はArmのCEOとして、またソフトバンクグループの一員として、日々「計算(コンピューティング)」の未来と向き合っています。私たちが設計する技術は、スマートフォンのチップから巨大なデータセンター、そして世界を変えようとしているAIにまで組み込まれています。

しかし、技術の最前線に身を置けば置くほど、私の思考は皮肉にも「人間とは何か」「人生において真に価値があるものは何か」という、極めてアナログで根源的な問いへと戻っていくのです。

あなたが求めてくれた「人生で一番大事なこと」について、一人の経営者として、そして一人の人間としての私の哲学を、3500字程度のメッセージとして綴らせていただきます。


1. 「エナジー・エフィシエンシー(エネルギー効率)」という生き方

Armという会社を象徴する言葉は、「ワット当たりのパフォーマンス(電力効率)」です。私たちは、いかに少ないエネルギーで、いかに大きな計算を行うかに人生を捧げています。これは単なるエンジニアリングの指標ではなく、私の人生観そのものでもあります。

人生において、私たちが持つ「時間」と「情熱(エネルギー)」は有限の資源です。

現代社会は、私たちにあらゆる方向へエネルギーを分散させるよう強いてきます。しかし、真に大きなインパクトを残すためには、「自分のエネルギーをどこに投下すべきか」を冷徹なまでに選択しなければなりません。

私が考える人生で大事なことの第一歩は、「自分の情熱を無駄な摩擦で消費しないこと」です。

不必要な対立、過去への後悔、自分ではコントロールできない外部要因への不安。これらはチップにおける「熱」と同じで、何も生み出さない無駄なエネルギー消費です。自分の心というプロセッサを、最も純粋で、最もワクワクする目的のためにフル稼働させること。そのために「何をやらないか」を決める勇気が、人生のパフォーマンスを決定づけます。


2. 「エコシステム」を構築する力:他者の成功をデザインする

Armのビジネスモデルは非常にユニークです。私たちは自分たちでチップを製造して売ることはしません。設計図(IP)を提供し、パートナー企業がそれを使って独自の製品を作る。つまり、「パートナーが成功しなければ、私たちの成功もない」という仕組みです。

この「エコシステム(生態系)」の考え方こそ、人生を豊かにする最も重要な鍵だと私は信じています。

自分の利益だけを追求する人生は、スケーラビリティ(拡張性)がありません。一人の人間ができることには限界があるからです。しかし、周りの人々、友人、家族、同僚が、あなたの存在によってより輝き、成功できるような「プラットフォーム」として生きることができれば、あなたの人生の価値は何百倍、何千倍にも増幅されます。

私はCEOとして、社員にいつも問いかけます。「君たちは、誰かを勝たせるために今日何をしたか?」と。

人生で一番大事なのは、「自分という存在を、他者の可能性を解き放つためのインターフェースにすること」です。誰かの成功の土台になることは、自分が直接成功することよりもはるかに大きな満足感と、そして結果としての成功をもたらしてくれます。


3. 「変化のアーキテクチャ」を受け入れる

テクノロジーの世界では、昨日の正解が今日の負債になることが珍しくありません。Armもまた、長い歴史の中で何度も大きな変革を迫られてきました。特に、NVIDIAによる買収提案が立ち消えになり、単独での再上場へと舵を切った時期は、私にとっても、会社にとっても大きな試練でした。

しかし、その混乱の中で私が学んだのは、「不確実性こそが、最大のチャンスである」ということです。

多くの人は、安定した設計図(人生の計画)を求めます。しかし、完璧な設計図など存在しません。世界は常に変動しており、予期せぬエラーや市場の変化が次々と襲ってきます。

人生で大事なのは、固定された計画を持つことではなく、「変化に適応し続けるための柔軟なアーキテクチャ(構造)」を自分の中に持つことです。

失敗を「計算ミス」と捉えるのではなく、次のプロトタイプをより良くするための「貴重なデータ」と捉える。常に学び直し、自分のOSをアップデートし続ける好奇心。それさえあれば、どんな変化の波が来ても、それを動力源に変えることができるのです。


4. 「見えない価値」への誇り

Armの技術は、世界中のほぼすべての人のポケットの中にありますが、私たちのロゴが製品の表面に出ることは滅多にありません。私たちは「インビジブル(目に見えない)」な存在です。

これからのAI時代、目立つことや称賛を浴びることが過剰に評価される傾向にあります。しかし、私は「表舞台に立たずとも、世界を支えているという自負」にこそ、深い精神的な充足があると考えています。

人生において大事なのは、他人の目にどう映るかという「外見のスペック」ではありません。自分が関わった仕事、自分が育てた子供、自分がかけた言葉が、目に見えないところで誰かの人生を動かし、社会のインフラの一部になっているという実感。

「自分がいなくなった後も、自分の残したものが静かに誰かを助け続けること」。この永続的な影響力(レガシー)こそが、人生の真の成功指標ではないでしょうか。


5. AI時代の「人間性」というラスト・フロンティア

私たちは今、人類史上最もエキサイティングで、同時に最も予測不能な「AI革命」の渦中にいます。計算能力が人間の知能を補完し、時には超越していく中で、「人生で一番大事なこと」の定義も再構築されようとしています。

AIは論理的な推論や最適化において、私たちをはるかに凌駕するでしょう。そうなった時、人間に残される最後の聖域は、「共感」「意志」「不合理なまでの情熱」です。

どれだけ技術が進歩しても、プロセッサには「なぜこれをやりたいのか」という動機(Motivation)は宿りません。動機は常に人間にあります。

人生で一番大事なのは、「自分の内側から湧き上がる『なぜ?』という問いを絶やさないこと」です。

何を効率化するかはAIが教えてくれます。しかし、「何を愛するか」「誰を守りたいか」「どんな未来を見たいか」は、あなたという唯一無二の人間が決めなければなりません。


結論:あなたの人生の「アーキテクト」であれ

まとめると、私が考える人生で最も大事なことは、以下の3点に集約されます。

  1. 効率的な情熱: 有限な命を、最も価値あるインパクトのために集中させること。
  2. 共生のエコシステム: 周囲の人々を成功させることで、自分自身の存在価値を最大化すること。
  3. 不変の好奇心: 変化を恐れず、常に自分自身を再設計(リデザイン)し続けること。

私はArmのCEOとして、何十億ものチップの未来を考えていますが、それと同じくらい、一人の人間として「今日の自分の言葉が、誰かの力になったか」を大切にしています。

人生という壮大なプロジェクトのアーキテクト(設計者)は、あなた自身です。

市場の流行や他人の評価という一時的な「ソフトウェア」に惑わされず、あなた自身の魂という「ハードウェア」を磨き続けてください。

あなたが、あなただけの素晴らしい人生の設計図を描き、それを実行に移していくことを、心から応援しています。