柳井康治として、私のこれまでの経験、そして現在取り組んでいるプロジェクトを通じてたどり着いた「人生で一番大事なこと」についてお話しします。

3500字程度という限られた中ではありますが、私がビジネス、アート、そして社会貢献という異なる領域を横断しながら感じてきた、一つの「真理」のようなものを共有させてください。


人生で一番大事なこと: 「公(パブリック)」への貢献と、日常に宿る「美しさ」を愛でる心

私が人生で最も大切にしているのは、「自分という存在を、いかにして『公(おおやけ)』のために役立てるか」という視点、そしてそれと同時に、「過ぎ去っていく何気ない日常の中に、かけがえのない豊かさを見出す感性」を持つことです。

この二つは一見、社会的な大きな視点と個人的な小さな視点という対極にあるように見えるかもしれません。しかし、私のこれまでの歩みの中では、この二つは分かちがたく結びついています。

1. 「公(パブリック)」という視点:自分を超えた価値の創出

私はファーストリテイリングという企業の一員として、また「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトの発案者として、常に「公共性」とは何かを問い続けてきました。

ビジネスの世界では、しばしば利益や成長が最優先されます。もちろん、企業が存続するために利益は不可欠です。しかし、利益は「目的」ではなく、社会に貢献した結果として得られる「報酬」に過ぎません。人生においても同じことが言えます。自分の幸せだけを追い求めても、本当の意味での満たされた感覚を得ることは難しい。

私が公共トイレの改修プロジェクトを始めたとき、周囲からは「なぜトイレなのか?」と不思議がられました。しかし、トイレは誰にとっても必要な場所であり、その街の「心の豊かさ」を映し出す鏡のような存在です。誰もが等しく、清潔で、美しく、心地よく使える場所。そこには「他者への敬意」が込められています。

「公」のために動くということは、自分のエゴを脇に置き、他者のために何ができるかを徹底的に考えることです。 これが、私の考える人生の土台です。自分ひとりの力でできることには限界がありますが、社会全体の幸福を願って行動するとき、そこには大きなエネルギーが宿ります。

2. 映画『PERFECT DAYS』が教えてくれたこと:日常の尊さ

私が製作総指揮を務めた映画『PERFECT DAYS』の主人公、平山という男の生き方には、私の理想とする「人生の豊かさ」が凝縮されています。

彼は清掃員として、毎日同じルーティンを繰り返します。朝、近所の人が掃除をする竹ぼうきの音で目を覚まし、木漏れ日の写真を撮り、古本屋で買った本を読み、銭湯へ行く。傍目には地味で単調な生活に見えるかもしれません。しかし、彼の瞳には世界が常に新しく、美しく映っています。

人生で一番大事なことは、特別なイベントや成功の中にあるのではなく、むしろ「何でもない日常」の中にこそある。

私たちはつい、「もっと遠くへ」「もっと高いところへ」と、今ここにはない何かを追い求めてしまいがちです。しかし、本当の幸福は、足元に咲いている花に気づくことや、風の匂いの変化を感じること、丁寧に入れた一杯のコーヒーを味わうこと、そうした瞬間の積み重ねにあります。

「今、この瞬間」を全力で肯定し、慈しむこと。この感性を失わずにいることが、人生を豊かにするための唯一の方法だと信じています。

3. 「LifeWear」という思想と自己の在り方

ユニクロが掲げる「LifeWear」というコンセプトは、服を単なるファッションとしてではなく、あらゆる人の生活をより良くするためのツールとして捉えています。

この考え方は、私の人生観とも深く共鳴しています。服が主役ではなく、着る人の人生が主役であること。究極にシンプルで、機能的で、質が良いもの。それは、自分自身を誇張せず、ありのままの自分を支えてくれる存在です。

人生においても、「飾り立てないこと」は非常に重要です。肩書きや所有物で自分を大きく見せる必要はありません。むしろ、余計なものを削ぎ落とし、自分の核となる価値観に誠実であること。それが、真の意味での「質の高い人生」に繋がります。

4. 創造性が持つ「繋ぐ力」

私は、クリエイティブな力、アートの力が、分断された世界を繋ぎ止めることができると信じています。

「PEACE FOR ALL」というチャリティTシャツプロジェクトでは、世界中のクリエイターの力を借りて、平和への願いを形にしました。一枚のTシャツが、誰かの想像力を刺激し、遠く離れた誰かへの共感を生む。ビジネスは、単にモノを売るだけではなく、こうした「心の繋がり」を生むプラットフォームにならなければなりません。

私個人の人生においても、「異なる価値観を持つ人々と対話し、共に新しいものを創り上げること」を大切にしています。自分とは違う視点を受け入れることで、世界はより多層的に、より面白く見えてくるからです。

5. 次の世代へ何を残すか:持続可能な未来への責任

人生の後半戦に差し掛かるにつれ、強く意識するようになったのは「継承」です。

私たちは、先人たちが築き上げてきた文化や資産を享受して生きています。ならば、私たちもまた、次の世代がより良く生きられるような世界をバトンタッチする責任があります。

環境問題や社会の不平等に対して、ビジネスの力で何ができるか。それは、単なるボランティアではなく、持続可能な仕組みとして構築していく必要があります。「自分がこの世を去った後、世界が少しでも良くなっているか?」という問いを常に自分に投げかけること。

自分の利益を超えて、未来の子供たちの笑顔を想像しながら今を生きること。それが、人としての格好良さであり、一番大事な指針です。


結び:円環する「与える喜び」

結局のところ、人生で一番大事なことは、「自分が何を受け取ったか」ではなく、「何を分かち合ったか」に集約されるのかもしれません。

日常の小さな幸せを噛みしめる感性を持ち、そこから得たエネルギーを「公」のために還元していく。このポジティブな循環の中に身を置くことが、私にとっての理想の生き方です。

成功も、富も、名声も、それ自体には価値はありません。それらをどう使って、誰を笑顔にし、どのような美しい風景を世の中に増やしていくか。

私はこれからも、ユニクロという場所を通じて、あるいは映画やアートという表現を通じて、人々の日常が少しでも明るくなり、世界が少しでも優しくなるような仕事を続けていきたいと考えています。

人生は、完璧である必要はありません。しかし、自分の周りにある「小さな完璧さ」に気づき、それを守り、育てていく努力を惜しまないこと。その姿勢こそが、最高に美しい人生を形作るのだと確信しています。


柳井康治としての視点から、人生の哲学をお伝えしました。