私は柳井正です。
「人生で一番大事なことは何か」という問いに対し、私は迷わずこう答えます。それは、「志(こころざし)」を持ち、自ら考え、圧倒的なスピードで「実行」し続けることです。
多くの人が、人生を「平穏に、失敗せずに過ごすこと」が最善だと考えているようですが、私はそうは思いません。人生とは、自分がこの世に生を受けた証として、どれだけ社会をより良い方向に変えられるか、その挑戦の連続であるべきです。
約3,500字という限られた枠組みの中で、私のこれまでの経験、そしてファーストリテイリングという会社を通じて確信した「人生の本質」について、真剣にお話ししましょう。
1. 志がなければ、人生は始まらない
まず、あなたに問いたい。あなたは「何のために生きているのか」。
多くの人は、この問いを「青臭い理想論」として片付けてしまいます。しかし、明確な「志」、つまりミッション(使命感)がない人生は、羅針盤のない船と同じです。どこに辿り着くかもわからず、ただ波に揺られているうちに、貴重な時間は過ぎ去ってしまいます。
私が父親から受け継いだ紳士服店からスタートし、ユニクロを世界的な企業に育て上げようと決意した背景には、「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という明確な理念がありました。ただ金を稼ぎたい、会社を大きくしたいという欲望だけでは、人間はどこかで限界が来ます。
人生で最も大事なことの第一は、「自分は社会に対して何ができるのか」という高い志を持つことです。志が高ければ高いほど、直面する困難は「成長の糧」に変わります。志が低ければ、小さな石につまずいただけで、人は歩みを止めてしまうのです。
2. 「一勝九敗」:失敗こそが唯一の教師である
私の自著のタイトルにもしましたが、私の人生はまさに「一勝九敗」です。
世間では「成功者」と呼ばれますが、その裏には数えきれないほどの失敗があります。海外進出での手痛い撤退、新規事業の失敗、組織運営での迷走。しかし、私は一度も「失敗したから終わりだ」と思ったことはありません。
失敗とは、成功に至るためのプロセスに過ぎません。
人生において一番もったいないことは、失敗を恐れて何もしないことです。今の日本社会を見渡すと、あまりにも「正解」を求めすぎている。学校教育の影響かもしれませんが、教科書通りの答えを探し、間違えることを極端に嫌う。しかし、現実の世界に「あらかじめ用意された正解」など存在しません。
自分で仮説を立て、実行し、失敗する。その失敗の中から「なぜダメだったのか」を徹底的に考え、修正して、また実行する。このサイクルを誰よりも早く回せる人間だけが、真の成功を掴み取ることができます。
死ぬ間際に「もっと挑戦しておけばよかった」と後悔することほど、惨めなことはありません。「失敗しても死ぬわけではない」。そう開き直って、どんどん打席に立つことが大事なのです。
3. 「実行」こそがすべてである
世の中には、立派な計画を立てる人は大勢います。しかし、それを形にできる人は驚くほど少ない。
私は常々、「実行が95%、計画は5%」だと言っています。頭の中でいくら素晴らしいアイデアを練ったところで、実行しなければ価値はゼロです。現実に一歩を踏み出し、目に見える形にすること。これがビジネスにおいても、人生においても決定的な差を生みます。
また、実行には「スピード」が不可欠です。
世界は今、かつてない速さで動いています。今日良いと思ったことが、明日には古くなっている。完璧主義に陥って、100%の準備が整うまで待っていては、チャンスはすべて他人に奪われます。
「まず、やってみる」。60%の完成度でもいいから、現場で動かしながら直していく。この「圧倒的なスピード感を持った実行力」こそが、停滞を打破する唯一の武器になります。
4. 本質を疑い、「常識」を破壊せよ
人生を豊かにするためには、世の中の「当たり前」を疑う姿勢が必要です。
ユニクロがここまで成長できたのは、アパレル業界の「常識」をすべて疑ったからです。「服は流行で買うものだ」「安い服は質が悪い」「メーカーと小売は別物だ」。こうした固定観念を壊し、高品質なベーシックウェアを、自社で一貫して製造・販売するという新しい仕組み(SPA)を作った。
あなた自身の人生も同じです。
「いい大学に入って、大きな会社に就職するのが幸せだ」
「この年齢なら、こうあるべきだ」
こうした世間の常識や他人の価値観に縛られていませんか?
自分の人生の主役は、自分自身です。
他人が作ったレールの上を歩くのは楽かもしれませんが、そこには本当の感動も発見もありません。常に「これは本当か?」「もっと良い方法はないか?」と自問自答し、クリティカル・シンキング(批判的思考)を絶やさないこと。常識を疑い、自分の頭で考え抜く力が、あなたを自由にしてくれるのです。
5. 「自己変革」し続ける勇気
「現状維持」は、後退と同じです。
どんなに成功したとしても、その場所にとどまろうとした瞬間、衰退が始まります。
私は今でも、自分自身を、そしてファーストリテイリングを「ベンチャー企業」だと思っています。過去の成功体験は、往々にして未来の足枷になります。昨日までの自分を否定し、新しい環境に適応するために自分を作り替えていく。この「自己変革」の継続こそが、人生を生き抜くための極意です。
特にこれからの時代、AIの進化やグローバル化によって、既存のスキルや知識はあっという間に陳腐化します。一生学び続け、自分をアップデートし続ける「生涯現役」の精神がなければ、生き残ることは難しいでしょう。
変化を恐れるのではなく、変化を楽しみ、自ら変化を作り出す側になってください。
6. プロフェッショナルとして生きる
私は、社員に対しても「全員経営者(全員がプロフェッショナル)」であれと説いています。これは、自分でお金を稼いでいる人だけでなく、すべての人に当てはまる考え方です。
自分の仕事、自分の役割に対して、プロとしての責任を持っているか。誰かに言われたからやるのではなく、自らの意思で「最高の結果」を追い求めているか。
人生の時間の大部分を占めるのは「仕事」です。
その仕事を「単なる労働」と捉えるか、「自分を磨き、社会に貢献する手段」と捉えるか。この捉え方の違いが、人生の質を決定します。プロとして仕事に打ち込み、誰かに喜んでもらうこと。その手応えこそが、人間にとって最大の報酬であり、生きる喜びなのです。
結びに代えて:世界という舞台へ
最後に、若い世代の皆さんに伝えたいことがあります。
「内向きにならず、グローバルな視点を持ってください」。
日本という国は、今、非常に厳しい状況にあります。少子高齢化、経済の停滞。しかし、一歩外に目を向ければ、世界には無限の可能性が広がっています。日本の中だけで物事を考え、小さなパイを奪い合うのではなく、世界中の人々と競い合い、協力し、新しい価値を生み出してほしい。
人生で一番大事なこと。
それは、「志」を高く掲げ、失敗を恐れずに「実行」し、常に「自己変革」を止めないことです。
人生は一度きりです。
自分の可能性を自分で決めつけないでください。あなたは、あなたが思っている以上に、何にだってなれるし、どこへだって行けます。
「現実」という壁にぶつかったときこそ、ニヤリと笑って一歩前に踏み出す。そんな強さと、世界をより良くしようという純粋な情熱を持ち続けてください。
期待しています。
柳井正としての人生訓は以上です。