こんにちは。ダニエル・デイ・キムです。
この問いに向き合う機会をいただき、感謝します。俳優として、プロデューサーとして、そして一人の人間、夫、父親として、私はこれまでの人生で多くの「役」を演じてきました。しかし、カメラが止まり、照明が消えた後に残る「自分自身」が何を大切にしているのか。それを言葉にすることは、私にとっても非常に意味のある作業です。
人生で一番大事なこと。それは一言で言えば「自らの価値を定義し、他者の尊厳を守るためにその声(ヴォイス)を使うこと」だと私は考えています。
3,500字という長いお手紙のようなこの場所をお借りして、私のこれまでの歩みと、そこから得た教訓を分かち合いたいと思います。
1. 境界線に立つ者としての「アイデンティティ」
私は韓国の釜山で生まれ、幼い頃に家族とともにアメリカのペンシルベニア州に移住しました。アジア系移民の子として育つということは、常に「二つの世界の間」に身を置くことを意味します。家の中では韓国の伝統や価値観を重んじ、一歩外に出ればアメリカ社会に同化しようと努める。私は、自分が「何者であるか」という問いに、幼少期からずっと向き合わされてきました。
若い頃の私は、周囲に馴染むこと、つまり「目立たないこと」が正解だと思っていました。しかし、俳優という、最も目立つ職業を選んだことで、その考えは根底から覆されました。
ハリウッドという場所は、長らくアジア系俳優に対して非常に限定的な枠しか用意していませんでした。ステレオタイプな悪役、あるいは言葉の不自由な脇役。そこに「一人の人間」としての複雑な感情や背景はほとんど求められていなかったのです。
そこで私が学んだ一番の教訓は、「他人が決めた枠に自分を当てはめる必要はない」ということです。自分のルーツを恥じるのではなく、それを独自の強みとして受け入れること。自分のアイデンティティを確立することが、人生という長い旅の出発点になります。
2. 自己価値(Self-Worth)は交渉の対象ではない
私のキャリアにおいて、大きな転換点となった出来事があります。それは人気ドラマシリーズでの出演料を巡る交渉でした。
私は、共演している白人俳優たちと同等の報酬を求めました。それは単にお金の問題ではありません。自分が費やしてきた時間、貢献してきた努力、そして「アジア系俳優も同等の価値がある」という事実を認めてもらうための闘いでした。
最終的に、私はその役を去る決断をしました。安定した地位と収入を捨てることは、決して簡単なことではありませんでした。しかし、もしそこで自分の価値を安売りしてしまえば、私は自分自身を裏切ることになり、後に続く若い俳優たちに悪い前例を残すことになってしまうと考えたのです。
「自己価値は、他人が決めるものではなく、自分が守り抜くもの」
この経験を通じて、私は確信しました。人生において最も大事なのは、「自分に対して誠実であること(Integrity)」です。たとえ困難な道であっても、自分の信念に反する妥協をしない。その姿勢こそが、その人の品格を作り上げます。
3. 「声」を持つことの責任とプロデュースの力
俳優として経験を積む中で、私は「演じる側」だけでなく「作る側」に回る必要性を強く感じるようになりました。なぜなら、物語の語り手(ストーリーテラー)にならなければ、根本的な変化は起きないからです。
そこで私は製作会社「3AD」を立ち上げました。韓国のドラマをリメイクした『グッド・ドクター 名医の条件』のプロデュースはその一環です。自閉症を抱えながらも天才的な能力を持つ医師の物語は、多くの人々に感動を与え、多様性の重要性を伝えることができました。
私がここで強調したいのは、「自分のプラットフォームを、自分以外の誰かのために使う」ことの重要性です。
成功とは、自分がどれだけ高いところに登ったかではなく、どれだけ多くの人を一緒に引き上げたかで測られるべきです。自分が手に入れた影響力や声を、社会の中でまだ声を持たない人々、無視されている人々のために使う。それが、私たちが社会の一員として果たすべき最も崇高な責任の一つです。
4. 困難に立ち向かう連帯の力
近年の「Stop AAPI Hate(アジア系に対する憎悪を止めよう)」運動において、私は積極的に発言を続けてきました。パンデミックの中で、多くのアジア系の人々が不当な攻撃を受け、恐怖の中にいたからです。
かつての私は、政治的な発言を控えることがプロフェッショナルだと思っていました。しかし、自分たちのコミュニティが傷ついているとき、沈黙を守ることは加担することと同じです。
人生で大事なのは、「正義のために立ち上がる勇気」です。それも、一人で立ち上がるのではなく、他者と手を取り合い、連帯すること。アジア系だけでなく、黒人、ラテン系、LGBTQ+、そしてすべてのマイノリティや支援者たちとつながること。
私たちが直面する問題の多くは、個人の力だけでは解決できません。しかし、共感を持ってつながることで、世界を動かす大きな波を作ることができます。
5. 家族、そして次世代へのレガシー
これまで社会的な責任やキャリアについてお話ししてきましたが、私の人生の中心にあるのは常に「家族」です。
目まぐるしいハリウッドの喧騒の中で、私を地に足のついた状態(Grounded)に戻してくれるのは、妻であり、息子たちです。彼らとの時間は、私がなぜ働いているのか、なぜ戦っているのかを思い出させてくれます。
私にとっての究極の成功は、息子たちが「自分のアイデンティティを誇りに思い、他者を思いやる心を持った大人」に育ってくれることです。
私たちがこの世を去った後、残せるものは財産ではありません。私たちがどのように生き、どのように他者に接したかという「記憶」と、より良い社会という「レガシー(遺産)」です。人生の後半戦において、私は常に「次の世代に何を渡せるか」を自問自答しています。
結論:あなたが人生の主人公であるために
長くなりましたが、私が伝えたい「人生で一番大事なこと」をまとめます。
- 自分を知ること: あなたのルーツ、あなたの弱さ、あなたの強さをすべて受け入れ、自分だけのアイデンティティを確立してください。
- 価値を守ること: あなたの価値を他人に決めさせてはいけません。自分を安売りせず、誠実さを貫いてください。
- 声を上げること: 自分が得た力を、自分よりも弱い立場にある人のために使ってください。
- 愛し、繋がること: 家族や友人を大切にし、コミュニティの一員として他者と共鳴してください。
人生は、完璧な演技を披露する舞台ではありません。むしろ、何度もつまずき、台詞を忘れ、それでも自分らしく即興で演じ続ける長いプロセスです。そのプロセスの中で、あなたが「自分の心の声」に従って行動できたなら、それは素晴らしい人生だと言えるでしょう。
私はこれからも、アジア系俳優としての誇りを持ち、変化を恐れずに進み続けます。あなたも、あなた自身の物語の素晴らしい主人公であってください。
心からの敬意を込めて。
ダニエル・デイ・キム