真田広之です。

このような問いをいただくことは、私自身のこれまでの歩みを振り返り、そしてこれからの未来を見据えるための、非常に貴重な機会となります。ありがとうございます。

子役としてこの世界に入り、早いもので半世紀以上の月日が流れました。アクションに明け暮れた若き日、演劇の奥深さに震えた日々、そして言葉も文化も異なるハリウッドという荒野に一人で飛び込んだあの日。そのすべての瞬間において、私が自分自身に問い続け、辿り着いた答えがあります。

私にとって、人生で一番大事なこと。それは「誠実さという名の情熱を持ち続け、次世代へとその灯を繋いでいくこと」です。

これは単なる道徳的な意味での「誠実」ではありません。自分自身のアイデンティティに対して、表現に対して、そして共に歩む仲間や文化に対して、いかに嘘をつかずに向き合えるか。その積み重ねこそが、人生を形作るのだと信じています。

この考えに至るまでの過程を、いくつかの視点からお話しさせてください。


1. 「準備」という名の誠実さ

私のキャリアの原点は、千葉真一先生率いるJAC(ジャパンアクションクラブ)にあります。そこで叩き込まれたのは、「心・技・体」のバランスと、徹底した準備の重要性でした。

スタントなしで壁を駆け上がり、馬を駆り、刀を振る。一歩間違えれば命に関わる現場において、「準備不足」は自分だけでなく、作品全体、そして仲間の人生をも台無しにする致命的な欠陥となります。私はそこで、「プロフェッショナルであることの最低限の礼儀は、完璧な準備をすることだ」と学びました。

しかし、海外に拠点を移してから、この「準備」の意味が少しずつ変わっていきました。ただ技術を磨くだけではなく、自分が演じるキャラクターの背後にある歴史や文化を、誰よりも深く理解すること。それが、異国の地で日本文化を代表する俳優としての「誠実さ」に直結することに気づいたのです。

現場で「これは日本の文化として正しくない」と声を上げることは、時に孤独で、勇気がいることです。しかし、そこで妥協してしまえば、観客に対して嘘をつくことになる。その場しのぎの格好良さよりも、数十年後に残る「本物」を目指すこと。そのための地道な準備と主張こそが、私の表現の根幹となりました。

2. 異文化の荒波で得た「アイデンティティの確立」

40代で拠点をロサンゼルスに移したとき、私は一度、日本でのキャリアをすべて横に置きました。一人の「新人俳優」として、オーディションを受ける日々。そこにあったのは、言葉の壁だけではありませんでした。

ハリウッドという巨大な装置の中で、日本人がどのように描かれているか。それを目の当たりにしたとき、私は強い危機感を覚えました。誤解された侍像、ステレオタイプな東洋人。それらを正すためには、ただ「演じる」だけでは足りない。

ここで大事だったのは、「自分は何者であるか」を明確に持つことでした。

相手を否定するのではなく、敬意を持って「私たちの文化はこうだ」と提示する。そのためには、自分自身が日本の歴史や精神性を、誰よりも深く、客観的に知らなければなりません。

「和」という言葉がありますが、これは単に「仲良くする」ことではありません。個々が自立した強さを持ち、その上で異なる者同士が調和を目指す。この「自立した調和」こそが、グローバルな世界で生きていくために最も必要な力だと痛感しました。自分の根っこ(ルーツ)を深く張っているからこそ、どれほど激しい風が吹いても、折れずに立っていられるのです。

3. 「SHOGUN 将軍」と、プロデューサーとしての視点

2024年、私は『SHOGUN 将軍』という作品に、主演だけでなくプロデューサーとしても携わりました。これは私の人生において、一つの大きな結実となりました。

俳優としてカメラの前に立つだけでなく、制作の全過程に関わる。小道具の一つ、着物の着こなし、セリフの語尾に至るまで、日本のスタッフと協力して徹底的にこだわり抜きました。なぜそこまでするのか。それは、これが私の「使命」だと思ったからです。

これまでのハリウッド作品における日本描写の歴史を、一歩前へ進めたい。日本の俳優やスタッフが、世界という舞台で正当に評価される道を切り拓きたい。その一念でした。

ここで学んだのは、「一番大事なことは、自分一人の成功ではなく、チーム全体の勝利、そして未来への貢献にある」ということです。

プロデューサーとして現場を見渡したとき、そこには国籍も言語も異なる何百人ものプロフェッショナルがいました。彼ら全員が同じ方向を向き、互いの文化を尊重し合いながら一つの芸術を作り上げる。その中心にあるのは、やはり「誠実さ」でした。

エミー賞という身に余る評価をいただいたとき、私が真っ先に感じたのは、私個人の喜びよりも、これまで日本文化を繋いできた先人たちへの感謝と、これから続く若手俳優たちへの希望でした。「正しく伝えよう」という誠実な情熱は、必ず言葉の壁を越えて世界に届く。それを証明できたことが、何よりも嬉しかったのです。

4. 継承:灯を次へと繋ぐこと

人生の後半戦において、私が最も重きを置いているのが「継承」です。

かつて私が若かった頃、多くの先輩方が背中で見せてくださったこと。厳しくも温かい指導。それらを自分の中に留めておくのではなく、いかに次の世代に手渡していくか。

『SHOGUN 将軍』の現場でも、若い俳優たちが私の動きを食い入るように見つめ、何かを吸収しようとする姿がありました。彼らに私が伝えられるのは、技術だけではありません。「現場での立ち居振る舞い」「作品に臨む精神」「困難に直面した時の粘り強さ」。それこそが、時代を超えて残る価値だと信じています。

「何を残すか」ではなく「どう生きる姿を見せるか」。

人生で一番大事なこととは、結局のところ、自分が去った後の世界に、どれだけポジティブな種を蒔けるかにあるのではないでしょうか。

5. 結論として

長い話をまとめます。

人生で一番大事なこと。それは、「自分自身という楽器を極限まで磨き続け、それを世界というオーケストラの中で、誰かのために奏でること」です。

  • 自分に誠実であること: 自分の限界を決めず、常に向上心を持つこと。
  • 文化に誠実であること: 自分のルーツを誇りに思い、正しく伝える努力を惜しまないこと。
  • 他者に誠実であること: 敬意を持って対話し、共に高みを目指すこと。

この3つの誠実さが重なったとき、情熱は単なる自己満足を超え、他人を動かし、世界を変える力になります。

私はこれからも、挑戦を続けます。それは、まだ見ぬ景色を見たいという好奇心もありますが、それ以上に、私が挑戦し続ける姿が、誰かの勇気になると信じているからです。

「道」というものは、歩く者がいて初めて作られます。私が歩んできた道が、いつか誰かの歩きやすい道となり、さらにその先へと続いていく。その連鎖の中にこそ、生命の真の輝きがある。

今の私は、そう確信しています。


このメッセージが、あなたの人生という物語を綴る上での、何らかのヒントや力になれば幸いです。共により良い未来を、誠実に築いてまいりましょう。

真田広之