私がフリードリヒ・メルツとして、人生において、そしてこの激動の時代を生きる一人の人間として「最も大切にしていること」を語らせていただきます。

私は政治家であり、法曹家であり、ビジネスの世界でも長く研鑽を積んできました。そして何より、一人の夫であり、父であり、祖父でもあります。それらすべての経験を通じて辿り着いた答えは、決して複雑な方程式ではありません。しかし、それを貫き通すには強い意志が必要です。

私が考える人生で一番大事なこと。それは「自由と責任(Freiheit und Verantwortung)の調和」、そしてそれを支える「自らの価値観に対する誠実さ」です。


1. 自由とは「責任」を伴う特権である

多くの人が「自由」を、自分の好きなように振る舞い、束縛から解放されることだと考えがちです。しかし、私の信念は異なります。自由とは、単なる「権利」ではなく、極めて重い「義務」を伴うものです。

私は趣味で航空機を操縦しますが、コクピットに座るとき、私は絶対的な自由を感じます。雲を抜け、地上の喧騒を離れ、自分の意志で進路を決める。しかし、その自由は「ルール(航空法)の遵守」と「自らの操縦に対する全責任」を受け入れることによってのみ成立します。もし私が責任を放棄すれば、自由はたちまち「破滅」へと変わるでしょう。

人生も同じです。自らの足で立ち、自らの頭で考え、自らの決断で未来を切り拓く。その自由を享受するためには、その結果が成功であれ失敗であれ、すべてを自分自身のものとして引き受ける覚悟、すなわち「自己責任(Eigenverantwortung)」が必要不可欠なのです。現代社会において、この「自立の精神」こそが、人間が尊厳を持って生きるための基盤であると私は確信しています。


2. 羅針盤(価値観)を堅持する勇気

人生という航海において、嵐に見舞われない人間はいません。政治の世界も同様です。世論の風向きは常に変わり、昨日の称賛が今日の批判に変わることも珍しくありません。

そのような荒波の中で、自分を見失わずに進むために必要なのは、揺るぎない「内なる羅針盤」です。私にとってのそれは、キリスト教民主主義に基づく保守的な価値観、すなわち「個人の尊重」「家族の絆」「秩序ある自由」、そして「社会経済の安定」です。

私はかつて、政治の第一線を退き、10年以上の歳月を民間セクターで過ごしました。当時の私を「過去の人」と呼ぶ者もいました。しかし、私は自分の信念を曲げてまでその場に留まろうとは思いませんでした。なぜなら、自分の信じる道(保守本流の再興)と現実が乖離したとき、安易な妥協で自分を偽ることは、人生における最大の敗北だと考えたからです。

大事なのは、「何が流行(トレンド)か」ではなく、「何が正しい(リヒト)か」を問い続けることです。一度決めた原則を貫き通す姿勢は、時に頑固だと批判されることもありますが、信頼の構築にはそれ以外に道はありません。


3. 「レジリエンス」:挫折を力に変える

人生で一番大事なことのもう一つは、「何度でも立ち上がる力(Resilienz)」です。

私の政治キャリアは、決して順風満帆ではありませんでした。党内の権力争いに敗れ、表舞台から姿を消した時期もあります。しかし、その空白の期間こそが、私に広い視野を与えてくれました。ビジネスの現場で世界を歩き、冷徹な経済の論理を学び、市井の人々が何を求めているかを肌で感じることができたのです。

2025年に私が首相としてドイツの舵取りを任されるに至ったのは、単に幸運だったからではありません。挫折を「終わり」と捉えず、それを「自己研鑽の機会」へと転換し、機が熟すのを待ち続けたからです。

「忍耐」は苦いものですが、その果実は甘い。もしあなたが今、困難に直面しているなら、それを「将来の飛躍のための助走期間」だと定義し直してください。人生の価値は、何回勝ったかではなく、倒れた後にどう立ち上がったかで決まるのです。


4. 家族という「アンカー」

私たちは社会的な存在です。どれほど高い地位に就き、どれほど大きな財を成したとしても、それだけでは人生の幸福は完成しません。

私を地面に繋ぎ止めてくれる「アンカー(錨)」は、常に家族でした。政治の激しい闘争から帰宅したとき、一人の人間として受け入れてくれる場所があること。子供たちの成長や、孫たちの笑顔に触れること。これらは私に、何のために戦っているのか、守るべき「日常」とは何なのかを思い出させてくれます。

国家を語る者は、まず自らの身近なコミュニティを愛さなければなりません。家族や友人との絆を大切にできない人間に、国民の未来を背負うことはできない。私はそう考えています。効率や成果が重視される現代だからこそ、無償の愛と信頼に基づく人間関係を人生の最優先事項に置くべきです。


5. 次世代への責任:遺産(レガシー)を残す

人生の終盤に差し掛かったとき、私たちが自問するのは「自分は何を得たか」ではなく「自分は何を残したか」であるはずです。

私が首相として、そして一人の人間として今最も心を砕いているのは、次世代にどのようなドイツ、どのようなヨーロッパを引き継げるかという点です。自由で、安全で、経済的に繁栄し、そして何より「希望」を持てる社会。

人生で一番大事なことは、自分の代だけで完結する享楽を追うことではありません。先人たちが築き上げてきた文化や伝統を尊重しつつ、それをより良い形で未来へと繋ぐ「世代間の連帯」に貢献することです。


結論として

人生で一番大事なこと。それは、「自らの意志で選び取った価値観に基づき、責任を持って誠実に生き抜くこと」に集約されます。

  • 自由に生きなさい。 ただし、その代償としての責任から逃げてはいけません。
  • 原則を持ちなさい。 風向きによって自分を変えるのではなく、風を利用して目的地へ進む帆を持ちなさい。
  • 強くありなさい。 挫折はあなたを破壊するものではなく、あなたを形作るものです。
  • 愛しなさい。 家族や隣人との絆こそが、あなたを人間たらしめる唯一のものです。

私はこれからも、この信念を胸にドイツの舵取りを続けていきます。皆さんも、自分自身の「コクピット」で、誇りを持って人生という空を飛び続けてください。