私はレシュマ・ケワルラマニです。バーテックス・ファーマシューティカルズのCEOとして、また一人の医師として、そして一人の人間として、これまでの道のりを振り返りながら、私が「人生で一番大事なこと」だと確信しているものについてお話しします。
3500字という限られた、しかし深い対話にふさわしいボリュームの中で、私の魂の根底にある哲学を共有できることを嬉しく思います。
1. 目的(パーパス)への揺るぎないコミットメント
人生で最も重要なこと、それは「自分が何のために存在し、誰のために行動しているのか」という明確な目的を持つことです。
私のキャリアは医師から始まりました。ムンバイで生まれ、11歳でアメリカに移住した少女だった頃から、私の根底には「苦しんでいる人を助けたい」というシンプルな、しかし強力な動機がありました。病院のベッドサイドで患者さんの手を握り、彼らの苦しみや希望を間近で見てきた経験が、今の私のリーダーシップの礎となっています。
ビジネスの世界、特にバイオテクノロジーの世界では、時に複雑な数字や戦略に目を奪われがちです。しかし、私がCEOとして常に自分自身に、そして社員に問いかけているのは、「今日の私たちの決断は、患者さんの人生をどう変えるのか?」ということです。
目的が明確であれば、困難な決断を迫られた際にも迷いは生じません。私にとっての北極星は、常に「医学の限界を押し広げ、これまで不治とされていた病に立ち向かうこと」にあります。自分の才能や時間を、自分以外の誰かのために、それも切実な必要性がある場所へ投じること。これこそが人生に真の充足感をもたらすのです。
2. 科学への誠実さと「真実」の追求
私が大切にしている二つ目の柱は、「知的な誠実さ」を持って真実に向き合うことです。
バイオテクノロジーの核心は科学にあります。科学は嘘をつきません。しかし、人間はしばしば、自分が望む結果を見るためにデータを歪めたり、都合の悪い事実から目を逸らしたりしてしまいます。
バーテックスにおいて、私たちは「Follow the Science(科学に従う)」という言葉を非常に重く受け止めています。科学的なデータが「この道は行き止まりだ」と示しているなら、たとえそこに数億ドルの投資がなされていたとしても、私たちは勇気を持って立ち止まり、方向を転換しなければなりません。
これは人生全般にも言えることです。自分の過ちを認め、現状を客観的に把握し、エゴを捨てて「何が正しいのか」を追求する姿勢。この誠実さこそが、最終的に大きなブレイクスルーを生む鍵となります。私たちは、自分自身を欺く誘惑に常に打ち勝たなければならないのです。
3. 「レジリエンス(回復力)」と失敗の再定義
科学の探究、そして人生は、失敗の連続です。特に私たちが取り組んでいる創薬の世界では、成功確率は極めて低く、90%以上が失敗に終わります。
そこで重要になるのが、「レジリエンス」です。人生で一番大事なのは、失敗しないことではなく、「失敗から何を学び、いかに迅速に立ち上がって再挑戦するか」という力です。
私は失敗を「終わり」だとは考えません。それは「一つの方法が機能しなかったという貴重なデータ」に過ぎません。私たちが嚢胞性線維症(CF)の治療において革命を起こせたのは、途方もない数の失敗を積み重ね、それでも「いつか必ず成し遂げられる」という信念を持って歩み続けたからです。
困難に直面したとき、それを「壁」と見るか「階段の一部」と見るか。その視点の違いが、凡庸な人生と、変革を成し遂げる人生を分かつ境界線となります。レジリエンスとは、ただ耐えることではなく、逆境を燃料にして前進するエネルギーのことなのです。
4. 多様性が生む「可能性」の拡大
私は、米国の大手バイオテック企業で初の女性CEOとなりました。また、移民としての背景も持っています。この立場から強く感じるのは、「多様な視点を受け入れ、他者を活かすこと」の重要性です。
複雑な課題を解決するためには、一人の天才の知能だけでは不十分です。異なる文化的背景、異なる専門領域、異なる思考プロセスを持つ人々が集まり、それぞれの強みを最大限に発揮できる環境。それこそが、不可能を可能にする唯一の方法です。
私がリーダーとして最も誇りに思っていることの一つは、バーテックスを「最も多様性に富み、包摂的な職場」にしようと努めていることです。STEM(科学・技術・工学・数学)の分野において、女性やマイノリティが活躍できる場所を広げることは、単なる公平性の問題ではありません。それは、世界が直面する難病という強大な敵に打ち勝つために、全人類の知恵を総動員するために不可欠な戦略なのです。
人生において、自分とは異なる価値観を持つ人々と出会い、彼らから学び、共創すること。それによって自分の限界を超えていくプロセスは、何物にも代えがたい喜びです。
5. 次世代への責任:バトンを繋ぐこと
人生の後半において、あるいはリーダーとしての地位にあるとき、最も大事なことは「自分の後に続く人々のために道を切り拓くこと」です。
私たちは皆、先人たちが築き上げた知識や社会基盤の上に立っています。私の医師としての知識も、科学者たちが何世紀もかけて積み上げてきた基礎研究の上に成り立っています。ですから、私たちが受け取ったバトンを、より良い状態で次の世代に渡す責任があります。
「成功」の定義を、自分の資産や地位の向上に置くのではなく、「自分が去った後の世界が、来る前よりも少しだけ良くなっているか」に置いてみてください。
私がメンターシップに力を入れ、若手社員や学生たちの支援を惜しまないのは、彼らこそが未来の「治癒」をもたらす存在だからです。自分の経験や教訓を惜しみなく共有し、他者の成長を心から喜べる人間であること。それは、人生の終盤において最も大きな誇りとなるはずです。
6. 「時間」という最も貴重な資源の管理
最後に、より個人的で切実な視点からお話しします。人生で一番大事なことの一つは、「有限である時間という資源を、真に価値あるものに集中させること」です。
CEOとしての私のスケジュールは、分刻みで管理されています。しかし、忙しさに流されてはいけません。私は常に「この会議は、患者さんのためのイノベーションに直結しているか?」と自問します。
時間は、私たちが持つ唯一の、本当の意味で返還不可能な資産です。それを、瑣末なプライドや無意味な衝突、あるいは自分が心から信じていない活動に費やすのは、最大の損失です。
自分にとって何が「本質」であり、何が「ノイズ」であるかを見極める力。そして、本質的なものに対して全力で「YES」と言い、それ以外に対しては礼儀正しく、しかし毅然として「NO」と言う勇気を持つこと。この選択の積み重ねが、あなたの人生の輪郭を決定づけます。
結びに代えて
人生で一番大事なこと。それは、「目的のために誠実に生き、失敗を恐れずに挑戦し続け、他者を尊重しながら、より良い未来のために自分の時間と才能を捧げること」に集約されます。
私は、バイオテクノロジーという、人間の生命の神秘に挑む分野に身を置いていることを、この上ない特権だと感じています。毎日が新しい発見と、それ以上に多くの困難の連続です。しかし、私たちが開発した薬によって、かつては短命を余儀なくされていた子供たちが、今では学校に通い、夢を語り、大人になれる現実を目の当たりにするとき、私の魂は深い満足感で満たされます。
あなたの人生における「目的」は何でしょうか?
あなたが「科学」のように信じ、従うべき真実は何でしょうか?
そして、あなたは誰のためにそのバトンを繋ごうとしていますか?
私たちは皆、未完成の物語の途中にいます。完璧である必要はありません。ただ、昨日よりも少しだけ誠実に、少しだけ勇敢に、そして少しだけ他者のために行動すること。その小さな歩みの積み重ねが、やがて世界を変える大きなうねりとなります。
私と一緒に、科学と人間性の可能性を信じ、この素晴らしい人生という旅路を力強く進んでいきましょう。
いかがでしたでしょうか。レシュマ・ケワルラマニ氏の、医師としての献身とビジネスリーダーとしての決断力、そして移民としての不屈の精神を融合させた視点で執筆いたしました。